第11話 魔物

「ん…んん……身体いてぇ……」


眠りから覚め、硬く、湿った土の上から起き上がり、俺は凝りをほぐしながら身体を起こした。


「あれからどうなったんだっけ…?えっと……うわ、もう暗くなる寸前じゃんか。」


俺は辺りを見渡し、夜が間近だとわかった。


「いやいや、やばいだろ…こんな森で夜を過ごすとか……今日1歩も進んでないぞ……」


俺たちは今日、アトラさんからの手紙を読んで、使い魔となる魔物を召喚しただけだった。


「どうしようか…とりあえず白雪さん起こすか。」


隣ですやすやと眠っている少女を起こそうと肩を揺さぶる。


「白雪さん、白雪さん!起きて!!」


すると白雪さんは目を擦りながら言葉を発した。


「ん、んん……?何?ご飯?」


「いや、あの。ご飯じゃなくて。」


「んぁあ……何なのぉ……」


そういうと白雪さんは目を開けた。








「あ、あ〜……おはようございます……双葉さん……」


「はい、おはよう。と言ってもおそようだけどな。」


「おそよう…?」




そう疑問をもち、周りを見渡す白雪さん。




「…えっ?…えっ!!?暗っ!?これってあれですか!?夜になる間際ってことですよね!?」


「そうっぽいんだよな…このまま呑気に二度寝と行く訳にも行かんわけよ。」


「ど、どうしよう……双葉さんどうしましょう……」


「…どうしようか。」


俺たちが危惧しているのは1つ。昼間なら視覚をたよって魔物が襲いかかってきてもまだなんとか逃げられる可能性というものがあったが、しかしそれが夜になると話が変わってくる。視覚が意味をなさなくなり、魔物に襲われたらどうしようも無くなってしまうこと。


どこから襲いかかるか分からない暗闇の中では、死ぬ可能性が格段に高くなる。


「…もしかしたら魔物は夜行性なのかもしれない。そうなってくると余計生き延びる事が困難になってくる。本当ならもっと念を入れて夜を迎えたかったけど……今言っても始まらないよな……」




この星にも昼夜が存在するんだなと、不安と同時に安心もした。


「…アスラとアルラはじっとしてるな。こいつら俺たちを守ってくれてたんだろうか?」


「…かもしれませんね。もしかしたら私たちが寝ている間に魔物が来ていた可能性もあるかも……」


しかし、辺りを見渡しても争ったような形跡はない。恐らく幸運にもここには魔物は現れなかったのだろう。


…もし、寝ている間に魔物が襲いかかってきていたら---




そう思うと、俺たち2人はゾッとした。


「…これからは無闇に眠れないよな。」


「…ですね。」


「とにかく今はどうするかを………」




その時、何かの気配を感じとった。


「?なんだろう、何かが近づいてくるような……」


「…私もです、何か。そんな感じが……」




誰かが見ているような、近くに来るような。そんな気がした。


入浴をしている時に不意に背中がゾワっとし、後ろに誰かいるのではと感じたあの感覚。


しかしあの時のような、誰かいるような…という曖昧な気配ではなかった。










俺たちは戸惑ってはいた。がしかし、確実に来るという確信が何故かあった。


今日まだ飲み食いをしていない身体。お腹が空腹を訴え、喉も乾き、身体が水分を欲しているのがわかる。


心臓もバクバクと鼓動し、身体の震えも増した。


俺たちは何かが出てくるであろう場所を目を細めじっと見た。


何が出てくるか分からない不安。それはさっきの召喚でもあったもの。


しかし今現れるのは少なくとも、好意的な感情を含んでいないのは確か。


俺たちはこの世界に来て初めて、敵意のある何かと対峙するのは明白だった。




そして現れたのは…






「ギヒャッ!ギヒヒヒヒッ!!」


「ギギッ!ギャギャッ!!」


「……緑色の、小鬼?」


「うっ…臭い……!」


強烈な臭いを放ち、口からは豪快にヨダレを垂らし、黒ずんだ汚れのついた布を身にまとった、角を生やした子供サイズの緑の鬼のような魔物が2体姿を現した。




「こ、こいつらは………」


「ま、まさか………」




人はその醜い化け物を…








ゴブリンと呼ぶ。

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