第15話 謎の双子

「……いや、どうすんのこれ」


 少し時間が経ち、少し冷静になって、自分自身の状況を振り返る。


 ママが連れてきたヤバい男がわたしを襲おうとして、そして今そこで男は死体になっている。


 わたしの部屋のど真ん中で。


「ママはどこに行ったんだろう」


 部屋から出ようとした。


「……いや、やっぱりやめておこう」


 躊躇した。


 人を殺したからって、引きこもりは引きこもることをやめられないのだ。


「……もういいや。なんかどうでも」


 いやいや、そんなことあるはずないだろうと思うかもしれないが、そんなのわたし自身が思っていることなわけで。


 これが心の鎧。


 自分自身を守るためならば、自立はしないし、外にも出ない。


「ふ、これがわたしの人生なのさ」


 かっこいい独り言を呟き、ゲーム機の前に移動。


「さあてと、今度は2週目プレイで成し遂げていくか!」


 と、した瞬間。


 ガラガラと、部屋の窓が突然開いた。


「へ?」


「突然ですが失礼します」


 突然のイケボ。


「申し訳ございません祟り神様。お部屋に失礼させていただきます」


 そして少女の美しい声。


 2階の部屋の窓から、突然、二人の男女が入ってきた。


 自分の目と耳を疑う。


「へ? へ?」


 そして不審者二人は、わたしの前に跪く。


「5百年ぶりのお目通りができて、光栄です」


「こうして長年の時を超えて、同じ時代に生まれ、出会えた奇跡、心より喜ばしく思います」


「あ、は、うん?」


 いやいや、どういうこと?


 いつも以上に言葉が出ないほど狼狽える。


 コイツラ誰だ?


 いやまじで突然家に押しかけて、意味不明なんだが。


 すでに今日2回目の発狂寸前なんだが。


「姉がわかりやすく説明します」


「ではわたくしから説明を。

 あなた様は転生し、前世の記憶を無くされているのです」


「ぜ ん せ?」


「そうです。あなたは元々は神様。

 祟り神だったのです」


 そ、そうきたかぁ……


 そんなアニメや漫画みたいな展開が実際にあるのかぁ……


「そして祟り神様は、たった今、人を殺めてしまったのだと推測します」


 内心、図星だった。


 なんでたった今のことを知られたんだ? 怖っ!


「あ、あ、いあ、チガ…違く、無いけど、」


 相手は悪い奴、正当防衛だ。


 けど、やっぱり警察沙汰で、犯罪になるのだろうか?


 捕まりそうで怖い!


「けど、心配ございません」


「へ?」


「穢れ<ケガレ>の量がそこまで大きくありません」


「けがれ??」


「穢れについて説明します。長くなるので、想像しながら聞いてください」


「はぁ」


「穢れとは、世界の歪みのことです。

 神様の力で命を奪う時、世界の本来あるべき姿が変えられてしまい、世界が歪んでしまいます。

 そしてその歪みの大きさだけ、穢れが発生し、<よくないもの>の吹き溜まりになるのです」


 神様の力。


 それってつまり、あの男を殺した時に脳裏に浮かんできた言葉、【スキル 呪殺】のことだろうか?


「もう一度言いますが、祟り神様がその男を神様の力で殺した。けどその時に発生した穢れの量が大きくない。

 つまり、世の中への悪影響が少なかったということです」


 わたしはチラッと、部屋でくたばっているおっさんの死体を見る。


「さらに言うのであれば、あの男は所詮、ここで死ななかったとしても短い命だったのでしょう。

 子も居なければ、家庭も無い。人間関係も薄い。社会への影響力も殆どない。

 つまり、今死んでもさほど問題ない人間だったということです」


 ボロクソに言われているが言い過ぎということは無いだろう。


 レイプ魔に同情の余地はないよなぁ……。


「ここまでで分からないことはありますか?」


「……あ、はい」


 分からないことだらけだが、まあ、うん。


 深く考えないことが一番だと理解した。


「それで祟り神様! 自分からお尋ねしたいことがあります!」


 と、男が大きな声で言った。


 内心びっくりする。


「ヒ、ヒャい!」


「自分たち、もっとフランクな感じにしていいですか!

 正直きついです、これ!」


 ひざまづく二人の来訪者。


 そういえばずっと、跪かせたままだ。


「も、も、もち、ろん……はい」


 すると男はあぐらで座る。


「ふぃー、いやあ祟り様が気楽な感じで助かったよ! こういう礼儀作法は似合わなくってな。

 な、霧子<きりこ>?」


「もー緊張したぁ。優しい人で助かったよぅ! 敬語とか無理無理って思っちゃった!

 ね、春雨<はるさめ>」


「……」


 凄まじいギャップだ!


 こっちも身構えて少し損した気分だ。


 あ、でもこの二人、よく見たら高校生ぐらいだ。


 わたしより年下だ、若い。


 しかも二人共同じ年齢くらい?


 ってことは双子?


 しかもなんだか、二人とも陽キャの雰囲気がある。


 姉弟揃ってリア充?


 春雨くんは、どう見てもイケメンだ。


 背も高くて細マッチョで、絶対モテるタイプ。


 そして霧子ちゃんは、どう見ても美少女だ。


 背筋がピンとしてて、黒髪がしなやかでいい匂いがしそうな、絶対モテるタイプ。


 あ、だめ、辛すぎ、めっちゃ引きこもりたい。


 陽キャオーラを浴びて溶けそうだ。


「霧子……きたぜ」


「春雨……きたわね」


 二人が突然立ち上がり、構える。


「え、何? ……!? これって!?」


「穢れだ」


「穢れよ」


 死体の男から、何か薄汚れた波動のようなものを感じた。


「ああああああああああああ、許せぬ、許せぬ!

 なぜだ! なぜ、女なんかに殺された!? くそ! くそ!」


 あの死んだ男の怨念が、言葉となって響く。


「黙って成仏してくれ」


「地獄で後悔するのね」


「くそがああああ!」


 悪霊が、わたしに向かって飛んできた。


 悪霊は、わたしを憎んで逆恨みしてるらしかった。


 が、それを阻むのは、霧子と春雨の二人だった。


「そういえば、自己紹介がまだだったな」


「そうね、わたし達は元々、【生まれなかった子供】だったの」


「けど、縁結びの神様が必死になって、男女の仲を結び続けて」


「そして私たちが生まれた」


「縁結びの神様は、祟り神様の恋人なのさ」


「わたし達はね、あなた達二人に再会を果たして欲しいのよ」


 姉と弟は、手をかざした。


 そして


「オン」


「アロリカ」


「「ソワカ!」」


「ぎゃあああああああああああ!」


 二人の手から放たれた閃光によって、悪霊は消え去るのだった。


「うわぁ、アニメみたいだ……」


 素直に驚くわたし。


「縁結びの神様……」


 そして、胸を締め付けるような、そんな気持ちになるのだった。




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