第14話 そして現代に生まれ変わったタタリちゃんは引きこもり女になってしまった件

 人生の袋小路というのは、それは引きこもりのことだろう。


 それだけでゲームオーバー待ったなし。


 完全に詰んでいる。


 少なくとも引きこもりの住人であるこの部屋の主人はそう思うわけ。


 わたしの引きこもりに具体的な理由があるわけじゃない。


 だから親だの、ほとんど会ったことない先生だのクラスメイトだのがいくら束になったところで、わたしの引きこもりを解決できるわけがなかった。


 そして時間が経つごとに、誰からも見放され、親からも諦めと放任という形で引きこもりを容認する。


 辛いのは嫌だ。


 誰も同じだし、わたしだって同じだったのだろう。


 引きこもりなんて腫れ物に触れたくないのは当たり前だ。


 当然反対の立場の、こんな腫れ物だって、他人と触れ合いたいとは思わない。


 なんでこうなっちゃったの?


 知るかぼけ。


 ……いや、理屈だけなら説明できる。


 最初はささやかなきっかけで、引きこもる。


 引きこもれば、孤独になる。


 孤独になったら、孤独感に苛まれ、苦しくなってくる。


 苦しみが徐々に、他人への不信感になり、より孤独を選ぶようになる。


 心のバリア、ATフィールドのようなものを全人類に向けて貼る感じ。


 西洋騎士のような甲冑を常に(心の中に)身につけ、相手を威圧し続けないと押し潰されるほどに臆病になる。


 んで、結果として、わたしのような引きこもり歴12年の怪物(実年齢20さい)が生まれてしまったというわけ。


 もう完全に人生逆転は不可能。


 就職に恋愛に結婚に……なんてことは今更できるはずもない。


 親が死ねば生活保護、それが無ければ素直にこの世を去る。


 これが人生の袋小路と言わずしてなんだというのだね。


***


職業:勇者

レベル:78

スキル:聖剣スラッシュ、スパークライトニング、金星の加護、自爆


***


「ついにここまできたか。勇者よ」


「魔王ベルゼブブ! お前の野望もここまでだ!」


「この星の死こそが、わが願い。どれほどの力をつけようが、すべての命は闇に呑まれて無に帰る。それが定め」


「たとえどんなに深い闇でも跳ね除けてやる。命が持つ輝きは、決して消えることは無い!」


「こい! 勇者よ!」


「うぉおおおおお!」


「ほい、自爆っと」


 ポチー


「へ? じば?? ぎゃああああああ!!!!!!」


「ゆ、勇者??????  ぎゃあああああああああ!!!!!!」


 わたしはコントローラーから手を離し、ガッツポーズする。


「ッしゃ!! やったぜ!! ゲームクリア!!」


 エンドロールがテレビから流れる。


 昔のRPGだからどんなものかと思ったが、素直に楽しめた。


 心の中が、満足感と達成感と感動でいっぱいだった。


「めっちゃ感動したなぁー。いいゲームだった」


 頭の中によみがえる名シーンの数々。


「……」


 が、そんな感動は20分もしないうちに薄れていく。


「……あ」


 きょうは何か、特別な日だったかのような気がする。


 何かの休日だったような……


「……成人式」


 急に感情のようなものが失せる。


 忘れていた? いや違う。


 気づいてなお、忘れていたかったのだ。


 成人式を忘れるためにゲームしていたといっても過言じゃない。


「……だめだ。寝よう」


 布団にくるまった後、ふかふかの敷布団に対して、頭突きする。


「——あああああああああ!!」


 憎悪が止まらない。


 人類死ね。


 全員死んで、わたし一人にしてくれ。


 そして——


「十代が、終わってしまったぁあああああ」


 十代だったら、まだ若者だ。


 いつだってやり直しがきく。


 が、ずっと恐れていたことが起こってしまった。


 これまでずっと大人だと思っていた20歳になってしまった。


 後はもう、老いていくだけだ。


 この人生で何か青春的なことってあったっけ?


 いや無い。


「つらい。死にたい」


 というか、こんなこと誕生日の時も同じ事をしたような気がする。


「……新しいゲーム、しよ」


 またママにお願いしないといけないとな。


「ママ? ママぁ!」


 呼んでみるが、返事がない。


「ただの屍のようだ……じゃなくて、どこか出かけてるんだった」


 諦めてもう一回寝ようとしたとき、ガチャンとドアの開く音がした。


「ただいま。ミコトちゃん、ただいま」


 ママがちょうどいいタイミングで帰ってきた。


「よしよし、これで新しいゲーム買ってもらえるぞ」


 わたしはドアをトントンと叩いて、「ママ来てー」という。


 階段を上ってくる音。


「ん?」


 だが、すぐに異音に気づく。


 なぜなら、二人分の音がするからだ。


 いやな予感がする。


 ドアの鍵、閉めなきゃ——


「開けるわよ」


 そういって、ママがすぐに部屋のドアを開けた。


「ひ——」


 ママのとなりに、人の気配のようなものを感じるが、死角で見えない。


「き、急に開けんなよ……」


 いきなりすぎて声がうまく出ない。


「あのね、今日は成人式の日なの。知ってた?」


「……」


「あなたが8歳の時に、部屋から出なくなって、そして出てこないまま大人になったんだよ」


「……」


 知ってるよ、そんなこと。


 言わなくていいじゃん。


 あたしが一番、そんなことわかってるし。


「だからね。あなたのことを直してくれる人を紹介するわね」


「——へ」


「やあ」


 奥から男が現れ、部屋に入ってきた。


 男は、40代ぐらいのおっさんで、生え際が後退していて、白い和服を着ていた。


「——(絶句)」


「僕は新真宗というところから来ました。君のお母さんに頼まれて君に取り付いている悪霊を退治しにきたんだ——」


「ぎゃあああああああ!!! いや!!! 来ないで!!!」


 わたしは錯乱した。


 いや、発狂していた。


「それじゃあ、奥さん。荒療治になりますので二人きりにさせてください」


「どうか娘をお願いします」


「ま”って”よママ!!!」


 ママと一緒にドアから出ようとしたところで、男に体を抑えられる。


「さあてと、ミコトちゃん。僕と一緒に治療しましょうねぇ」


「ひぃ!」


「悪霊退治にはね、お互い服を脱ぐ必要があるんだよねぇ、へっへっへ」


***


 ああ、まさかこんなことになるなんて。


 ママがまさかわたしにこんなことをするなんて。


 というか、初めての男が、こんな見下げ果てたクズ野郎だなんて。


 すべてが急に色あせて見える。


 この世なんて、あまりにひどくて残酷だ。


 ああ、こんなことって。


 こんなことって——


——『ありがとう また 会おうね』


——『ああ、また会おう。』


***


「死ね」


 たった一言念じた瞬間、男は白目をむいた。


「……」


 何が起こったのか、わたしもよく分からない。


 力いっぱい蹴り飛ばしてみる。


 男はぴくりとも動かない。


「ねえ?」


 返事がない。ただの屍のようだ。


 そして、その瞬間、脳に直接文字が浮かんでいた。


——スキル【呪殺】を発動しました


「……」


 なにが起きてるかわからない。


 分からないが——


「ッしゃ!! やったぜ!! レイパーぶっ殺したぁああ!!」


 謎のハイテンションになるわたしだった。



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