立つゾンビ跡を濁す
春野訪花
立つゾンビ跡を濁す
夜中コンビニに行く。
本当はコンビニになんか行きたくない。
フラつく酔っ払いが、こちらを睨みつけてくる男が、道の端で眠る汚いホームレスが、そんなのが視界いっぱいに広がっている。
こんなのが見たいわけじゃない。
ただ、コンビニは、マシだから。手軽に体に良くない美味しいものがあるから。
吐き出した吐息が白くなる時期は、少し前に過ぎた。その白いモヤが好きだった。
ビルの一角に押し込められた手狭なコンビニに入る。やけに陽気なBGMと、覇気のない出迎えの声が聞こえてきた。
ギラギラと照らされる店内から外へ目を向ければ、暗がりの中、壁に手をついている男の姿が見えた。まるでゾンビのように草臥れて、体を震わせている。
そっぽを向いて、当てもなく、店内をぶらつく。
清く正しく整列されたおにぎりの群れをするりと眺め、パンコーナーをちらりと見、飲み物コーナーの前で立ち止まる。
新商品!と銘打たれた、「炭酸キムチ」という頭のおかしなものを見つけた。
手に取ってラベルを見てみる。
曰く、キムチの辛味と炭酸の仄かな甘味をいい具合にブレンドして美味しくしたらしい。
いかに美味しく、いかに頑張ったか、ラベルの狭いスペースを奪い尽くさんばかりに書かれている。
頭がおかしい。
「炭酸キムチ」を手に、レジへ向かう自分も、大概おかしい。
死んだ顔をした若い男が、レジを打つ。手短に会計を済まし、気のない謝礼を背に店を出る。
さっき見たゾンビは、汚れた地面を残していなくなっていた。
コンビニの明かりを背に、「炭酸キムチ」を開封する。噴き出た空気と共に、キムチの香りが漂ってくる。
透明なこの液体に、どれだけのモノが詰め込まれているのか。
一口飲んで、思わず吐きそうになった。
立つゾンビ跡を濁す 春野訪花 @harunohouka
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