タリナイ(4)
「言ってることがめちゃくちゃだ。ユリナは今自分で言ったじゃないか、僕のことを百パーセント好きなわけじゃないって」
「それはコウタだって一緒でしょ?」
確かにそうだ。そもそも僕らがこんな残酷なことをし始めたのだって、僕がユリナを百パーセント好きじゃないと言ったことが始まりだ。だがしかしユリナはずっと言っていたじゃないか。僕のことが好きだって、愛しているって、だから……僕は……
「多分私はコウタの右腕も左腕も右脚も左脚も下腹部も上腹部も……きっと……顔も、別に好きじゃないんだと思う。ていうか顔に関してはどっちかと言えば嫌い。私はもっとイケメンのが好みだからね」
「うるさいよ」
「でもね……私はコウタのこと、大好きなんだよ。そんな嫌いな部分も含めて、私はコウタが大好きなの、愛してるの。それっておかしいことかな?」
嫌いな部分も含めて……好き?
僕にはいまひとつ理解ができなかった。嫌いなのに好きだという、そんな相反する言葉を理解できるなら、僕はとうに……
「もう一度聞くよ、コウタは私のこと……ユリナのことは好き? こうしてコウタが好きな最高の部位を全部兼ね揃えた私を……コウタは百パーセント愛してる?」
僕はユリナの全身を見回した。隅から隅まで、ユリナのものとなった全ての部位を。おかしい。そんなことありはしないのに。だって今のユリナは僕が理想とする全ての部位を備えた最高の人間なはずなのだ。そのはずなのだ。それなのに何で……。
「僕は……」
……何でユリナを……。
「好きじゃ……ない」
こんなにも最高なのに僕はユリナを百パーセント好きだとは言い切れなかった。一つ一つの部位は最高なのに何かが抜けていた。ユリナに何かが足りないというわけではない。多分僕の方に何かが足りないのだ。だから僕はユリナを好きになっていないのだ。では、一体僕に何が足りないというのだ。僕は一体ユリナの何が見えていない?
僕は人間の――何が見えていない?
僕の頬を、何かが掠めて通過して行った。右腕だった。包丁をにぎりしめたユリナの元右腕。壁にぶつかり、ユリナの元右腕は重力に従って落下する。
後ろを振り返ると、頭部のないユリナの身体は他の死体共にズタズタに引き裂かれて倒れていた。死体共は引き裂いたユリナの身体を、自分達の足りない部位に補う。そうしてまた、完全な身体を作り上げて……、
……僕らを襲う。
「ユリナ……何で君は僕のことが好きなんだ? 好きな部分が全くないのに、何で僕を好きになったんだ?」
僕はユリナに背を向けたまま、近づいてくる死体共を凝視しながら、問う。
「だって私はコウタのことが好きだから。コウタの部位だとかそういうのじゃなくて、私はコウタが好きだから……」
「わかんないよ。僕は……ユリナの言いたいことがわからない」
「そっか……、残念。簡単に言うとね、私はコウタの外見ではなく内面が好きだったんだ。つまり……心……だよ。設計図には記載していない、人の心。私はコウタの心が好きだったんだ」
背後から聞こえてくるユリナの声。でも後ろを向く余裕はない。前からはもはや誰の死体なのかわからない死体が僕たちに歩み寄っている。顔はあの女子高生だが他の部位は全て別の人間のものかもしれない。そんな死体が僕の目の前で、あの鉈を振り上げた。僕はそれが振り下ろされるよりも先に、死体に体当たりを喰らわす。死体はバランスを崩して、様々な部位を崩れ落としながら倒れる。結合が不安定なのだろう。ボロボロとそれらは容易く外れ、そして落ちる。
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