第33話 長い一日の終わり
プリクラを外から見たことはあるけど、近づくことはなかった。
印象としては、女子がいっぱいいることと、思い出を記録する場所と思っている。
あながち間違いではないだろう。システムは知っているけど、あまりにも女子率が高かったため、今まで一度も撮らなかったが、今回はマティルドがいるから難なく入れる。
プリクラ自体は大きな箱でみたいな場所で、中にはカメラと画面がある。
やり方は知らないけど、画面でいろいろ写真をいじるんだろう。
こういうのは、経験のあるマティルドに全部任せる。
なんか画面でいじっているけど、さっぱり分からん。
おっ、準備が終わったみたいだ。俺の予想が正しければ、ポージングをしなくてはいけないから、何か言ってくるだろう。
「淵君はプリクラ初めてだよね?」
「えぇ、そうですね。プリクラを撮る機会なんて女子と一緒じゃなければ、早々訪れないので」
カップルと女子の団体しかプリクラを撮らないと思う。
もしくは、勇気ある男子の団体。
「じゃあポージングとかは私の真似をしてね。ボタンを押してから、ポージングをするから、その時にね。後は……メイク、スタンプとメッセージはどうする?」
何を言っているのかさっぱり分からない。言葉の意味は分かるけど、何を、そしてどうやってやるかは分からないし、全部お任せで良いと思う。
「マティルドさんにすべて委ねますよ」
「分かったわ。でも後から文句言わないでね」
「自分から責任を投げ捨てるのに、後から文句なんて言いませんよ」
そんな器の小さいやつにはなりたくないね。世の中にそういう人ははたくさんいるんだろうけど。
「そう、じゃあ始めるから私の横に立って」
一瞬迷ったが、どうせさっきと同じように言い負かされるため辞めた。
やっぱり女子慣れには恋愛が一番なのだろうか?なら俺には一生無理だな、あはは。
……考えるのを辞めよう、自分で言って虚しくなってきた。
マティルドの横になって、マスクを外す。画面にカウントダウンが表示されているため、いつ写真を撮られるか分かりやすい。その間に、マティルドがやっているポーズを見様見真似で行う。色々なポーズをした。多分プリクラという存在がなければ、この人生でやることのなかった様々なポーズを。
ピースは定番だった。続いて、自分の顔を両手に乗せたポーズ等、自分の体を後ろに向かせて頭だけカメラの方を向いているポーズ等、なんかファッションモデルのようなポーズをしているものもあったり、ふざけているのか見分けがつかないポーズまであった。
初めてのプリクラをどう思ったかと聞かれたら、意味不と答えるだろう。
でも楽しかったのも事実。経験としては良かったと思う。
「出来た!はい淵君の分のプリクラだよ」
プリクラの画面でマティルドが編集を終わったようだ。代金は予め渡してあったため、お互い8枚のプリクラを手に持っている。
「ありがとうございます。…………これは」
「凄いでしょ」
なんというべきなのだろう。凄いと言ったら凄いのだけれど。そもそも、プリクラを撮ると顔が変わるとは知らなかった。それはさておき、やたらとスタンプにハート形のやつとか、星とか、メルヘンチックな物が多く使われている。それに8枚のうち数枚には、ケモミミが付いている俺達が写っている。これは、まぁ普通の範疇だけど。
なんで矢印を書いて友達とか、ジェントルメイデンとか書くのかな?別にいいけど。そんなに友達と認識していないことがショックだった?
「凄いですね。まさか、プリクラという機械はここまでの事を出来るとは思いませんでした。プリクラの機械の前を通ると、思わず取りたくなる人の事が少し理解出来ました」
「そこまで気に入ってくれたなら、次一緒に来た時また撮ればいいじゃん」
「次はアシル君と来てくれれば幸いです」
流石にもう作戦決行間近なのに、別の男といるところがターゲットにバレたら危ない。それにこれを撮るためだけに、ここに来るわけない。労働力の無駄だ。
「そ、そういうならわかったわ。つ、次はアシル君と…るわ」
アシル君の名前をっくだけでここまで初心になれるなら、これも弱点とみなしていいだろう。まぁ、俺はどっかの誰かさんみたいに弱点をつついて脅しはしないけどね(ヤンのゲームを没収して協力を強制的に促した犯人)。
「それでは、時間も時間ですしそろそろ帰りませんか?多分昨日みたいに、お連れの方がお迎えに上げるでしょうから、そこまで送って別れましょう」
もう17時だから、そろそろ帰らないと俺の親が心配するだろう。というのは嘘で、早く帰って精神的に癒されたい。とりあえず、帰ったらベッドに直行は決定した。
「そうね、そうしましょう。淵君の予想通り昨日みたいに、私は車で帰るわ」
「では行きましょうか」
マティルドとたわいのない話をしながら、ショッピングモールにある無数の出口の内の一つに向かった。
前回同様、出口から出たら黒い車がマティルドを待っていた。
「では、さようなら。また学校でお会いしましょう」
「学校でもその喋り方をするのか楽しみだわ」
「さぁどうでしょう。最後に、学校で私と接触しようとするなら、ヤンと一緒に来てください。その方が自然に感じるので」
一人で来たら、クラス中が『なんで陰キャの黒曜淵にカースト上位のマティルドが話しかけてるんだ?!』って言われて、変な噂が流れるだろう。
「分かったわ、でもヤンとは気まずい関係ではなかったの?」
「大丈夫ですよ、ジェントルメイデンとして活動していたら、彼も分かってくれますから」
「そう、なら今度こそバイバイ」
「また学校で」
そのまま、黒い車に乗ってマティルドは帰路に着いた。
「ん~~、今日はもう色々ありすぎて疲れたから、帰ったら寝るかもな」
そして俺も長い一日を終わらせるべく、家の方向に歩き始めた。
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