第34話 夢の中で

 家に着いたのは夕方の、空が黄金色になり始めていた時間帯だ。

 疲れた。いつも通り玄関を鍵で開けたら、夕食の匂いがしてきた。

 うちは、食べる時間帯が気分で変わるため、とても遅い日があるときもあれば、逆に今日みたいに早くに済ませることもある。


「ただいまー」

「「おかえりー」」


 弟の声は聞こえないから、多分ゲームに集中しているか外にいるのだろう。


「今夜は豚カツよ、淵は食べる?」

「食べたいところだけど、もう済ませたからいいよ。俺に残さなくても大丈夫だから、みんなで食べて」

「分かった、なら京司さん淵の分も食べるわよ」

「いや、ちょっとこの量はさすがに無理だから明日に残すというのは……」

「頑張ってねあ・な・た♡」


 あの年になっても、と言っても15歳の男児の親としては若い方だけど、ウィンクしたらハートが出てくるとは……愛が見えると言いたいところだが、これは京司に晩御飯を残さず食べる用の脅迫だ。うちでは、ご飯を残すことを禁じているため京司も逆らえないだろう。

 ついでに、このルールが作られたのは、京司と陽のお皿に残り物が多すぎたためである。あの二人は、親子揃って好き嫌いが多すぎるのだ。


 俺は仲がいい親を放置して、部屋へ直行した。途中で京司の『助けてくれ』という視線を送ってきた気がするが、勘違いだろう。

 部屋に入ってクローゼットの中から適当にパジャマを取って、着替える。そのまま、歯磨きをしに洗面所へ向かう。

 歯磨きをし終わって、部屋に戻った俺は、扉に鍵を閉めてベッドで寝る体制になる。

 扉に鍵をつけたのは、この部屋にあるヤバい物を隠すためだけど、もう一つは自分の無防備な姿、もしくは一人でいるときの姿を見られたくないからである。

 たとえ、生まれた時から一緒の親でもね。


「……俺が特殊な考えを持っているのは自分でも分かる」


 でも、変える気もないし、理由もない。

 寝る前に、頭の中で情報の整理をする。これで、次の朝起きた時にちゃんと思い出したい記憶は思い出せる。

 朝は、ジョギングをしていた時に銀髪美少女を発見、そして映画を見た後に再開して、ヴァシエンヌ高校に案内した。

 次に昼は、サーシャと一緒にヤンの家に行ってゲームを出来ないように没収。今頃ヤンは暢気にカードゲームなどをやっているだろう。飲み物を飲んだ瞬間、睡眠薬で爆睡するとも知らずに。

 最後に、またもやイレギュラーな再開。マティルドと一緒にショッピングモールの中を駆け巡って、楽しんだと思う。服屋さんと、クレープ屋、そしてプリクラ。どれも、良い体験だった。明日の朝には、プリクラをどこかに片づけないと行かない。


 そして眠るために目を閉じる。動いた事の疲れと、美少女相手に喋ったことへの疲れのおかげですぐに眠りに着いた。


 夢を見た。俺が銀髪美少女と一緒に歩いて、楽しそうにしている自分を。

 そして、夢の中で見ても美しい少女から目が離せなかった。

 大勢の人間に囲まれる理由がよくわかったよ。

 今日みたいな無表情な顔ではなく、年相応な笑顔を浮かべていた。

 これは俺が今日、疑問に思っていたことだ。

 まるで、悟りを開いているかのように彼女はおとなしかった。おとなしすぎた。あの年で、あそこまで違うと来たらおかしいとすら思える。だから、ずっと思っていた。彼女は何かを隠している。そしてその隠し事が彼女をこうさせた。気にはなるが、何もしない。

 俺は聖人君子ではない。困っている人がいたら、助けるような人ではない。俺は、ただの一般人だ。助けるとしても、出来るのは俺の周りの人間だけだ。

 そう結論付けたら、夢が終わって自分の体が覚醒し始めるのが分かった。

 人間は寝ている間に見た夢を忘れると言うが、果たしてどうだろう――――――


 俺が起きたのは、朝のかなり早い時間だ。前日徹夜をしたためか、疲れのせいなのか、12時間も寝てしまった。そのおかげで、いつも通りの時間に起きれたけど、12時間寝ると、体がぽきぽき言ってうるさい。それにちょっとだるい。まだ、疲れが完全に抜けきれてないかもね。何かいい夢を見ていた気がするが…覚えていない。

 そのまま起きようとしない体を、強制的に動かしてシャワーを浴びて目を覚ます。

 朝食は前回同様、自分で作って済ませた。


 日曜日になった。今日は特にやることもなく、久しぶりにオフの日だ。ゴロゴロしながら、ゲームなどを楽しむ予定だ。だがその前に、面倒ごとを先に終わらせていこう。部屋に戻って、携帯で電話を掛け始める。俺も一日で、大したことではないが、ジェントルメイデンとして活動して進めたから、あっちの方も多少情報は集まっているはずだ。


「……………もしもし?」

「……おかけになった電話をお呼びしましたがお出になりません」

「だから、そのネタはもう前回聞いたからいいわ!」


 前回、アシル君の情報を探るように頼んだ九重海だ。電話するときに毎回ツッコミをされないことを祈ろう。毎度これをやらされると、序盤から気分がダウンする。


「あはは、二回目はもう飽きたか」


 飽きたかどうかの問題ではない。ついでに今の時刻は8時だ。彼はショートスリーパーなため、あまり寝なくても、疲れが取れるからだだから羨ましい。


「冗談よりアシル・ボドワンについて教えろ。もう、海なら見つけているんだろ?」

「勿論さ!この、ジェントルメイデンの情報屋を頼ったら、欲しい情報を全部拾ってきますよ」


 頼もしいもんだね。じゃあさっそく、報告を聞こうか。

 これで、作戦を立てていくのだから――――

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