第22話 犠牲者
帰りは特に物珍しいものもなく、家に着いた時には霧が完全に晴れていた。
帰ってすぐに、シャワーを浴びた。かなり音を立てたつもりなのに、家族はいまだにぐっすり。睡眠薬でも飲んだのかな?
いや、陽はただ単にゲームを遅い時間までやっていただけだろう…
さっぱりして、時刻を見ると8時30分。
「流石に起きているだろう、俺じゃあるまいし」
普段なら(恋愛相談を受けていない場合)陽みたいにゲームをやるか、何かを遅くまで楽しんで昼頃に起きるだろうけど、恋愛相談を受けたときは大抵徹夜だから慣れた。…学生だというのにもう社畜体質になっているのでは?そうなっていないことを願おう。
リビングで電話をかけると親を起こしうる可能性があるから、防音性が高い俺の部屋で彼に電話しよう。何故防音性が高いって?小さいころにカラオケにハマっていて、自分の部屋で一人カラオケをしていたから。……寂しい奴じゃないからね?友達いるからね?
スマホを手に取ってコールする。
「………もしもし」
「もしもし起きているかい?」
「休日にしては早くないか?」
「規則正しい生活を送っているだけだよ(徹夜した人)」
「どうだか」
俺が徹夜したことを彼なら大体察しているだろう。まぁ重要なのはそれじゃないので置いといて。
「そんで、俺に何の用かな?女の子でも紹介して欲しいのか?」
「そんな訳ないってわかってるだろ。ちょっとお前に頼みごとがあってな、今日暇か?」
「まぁ、彼女とデートしようか悩んでいたけど――――
「よし、暇だな」
「俺の拒否権どこ行った?!!」
まぁ予定がもう決まっていたのであれば、俺は別の人を頼っていただろうけど、暇ならば遠慮なく頼らせてもらうよ。地獄に連れていくけど…
「別にいいぜ、どうせお前には数えきれないほどの恩があるからな」
「恩って…大袈裟なやつだな。友達は持ちつ持たれつだろ?」
「それが一方通行だから恩って言ってんだよ」
「…何のことだか」
彼が恩と称すものは、確かに心当たりがあるけれど、別にそこまで言わなくてもいいと思う…って言うか、思い当たるの恋愛相談以外何もない。今度聞いてみよう。
「その話はまた今度ということで。今日の昼頃から明後日の月曜日までヤンの家に泊まれる?」
「ん?そんだけでいいのか?ならいいぜ」
「後、今日の昼にヤンが持っているゲーム全て俺に持ってきてくれる?」
「理由は分からないが、それくらいなら構わな……待て今なんて言った?」
ちっ。気付いたか。前に俺がヤンの家に泊まって被害を受けたと言ったが、その後に彼の餌食になったもう一人の幼馴染がこいつだ。朝なら脳の反応が鈍って、酷な頼みごとをしてもバレないと思ったが、流石クラスナンバーワンの切れ者。寝起きでも脳は正常ってことか…
「一生のお願いとは言わないが、ヤンの家に泊まりに行くときゲーム機とゲームソフトを全部俺に渡してくれないか?一時的だ、月曜日の夕方には返す」
「待て、淵お前も知ってるだろ?あいつがゲームを失った時に暴れる姿を?あれは一種の新しい化け物だぞ、ゲームに魅入られた新種族だ」
酷い言われようだ。これが幼馴染に対する態度なのだろうか?俺もゲーム巣食う魔人とか言っていたが…同じような事だった。正直に思うことを言い合える仲こそ幼馴染の特権と思えばいい。
「理由は言えんが、ヤンのコミュ力がいる」
これで察してくれるとありがたい。理由が言えない場合、ジェントルメイデンとして活動しているという意味なのだから。長い時間をともにしてきたお前ならわかってくれるだろう。
多分……
「………ッ!!そういうことか…ならやむを得ないな、協力してやるが今度なんか奢れよ」
「協力ありがとう、サーシャ。今度何でも奢ってやるさ」
「冗談だ。さっき返し切れない恩があるって言ったばっかなのに、奢らせるわけないだろ」
「俺はどっちでもいいんだけどな。じゃあ、集合場所は俺の近くにある公園分かるか?13時にルネロ公園で集合な」
「OK、分かった。んじゃまたな」
「また後でな」
というわけで協力者ゲットー。後はヤンの合意が必要だが、マティルドが何とかしてくれるだろう。確かに、大前提が成功していなければ今日やることは無意味だろう。だが、ヤンは確実に協力してくれるだろう。もしマティルドが説得できなかったら、もう完全な脅しとなるだろうけど、無理やり協力してもらう。
ゲーミングチェアで今後のことを考えていると、スマホから着信音が発せられた。
「この着信音はマティルドだな、多分ヤンの説得についてだろう」
えーと、何々。
『昨日の夜帰ってからヤン君に連絡して協力を仰いだわ。恋愛相談が出来たと聞いたら、事情を何も聞かないで了承してくれたわ』
ほら、見たことか。ヤンは友達のお願いには弱いんだよ。
ゲームが没収されると言われていたら、絶対に協力してくれないだろうから、何も聞かないで合意してくれたのはありがたい。
その優しが仇になるぞ…
なんか悪役っぽくなった。悪いことではないとおもんだけどなー。たまにはゲーム以外のことを体験しろということさ。
「ヤンは俺以上のインドアだからな。違うところと言ったら、ゲームへの依存度と人目だろう」
ヤンは俺と同じようにアジア系の容姿なのに、人目を気にしないから外に出ることへの抵抗はない。ゲームがなければの話だけどね。俺は友達が周りにいると人目を気にしないでいられるが。一人だと結構準備などをしなくてはならない。
「人の物を没収しに行くというのに、久々の外でワクワクしてきた」
どうやら、俺はまだ子供のようだ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます