第21話 不思議な朝

 土曜日の朝(6時)に、作業が終わった。

 腕を伸ばしながら、今日やることのスケジュールを立てる。


「ヤンの家にを犠牲に送らなくてはいけない」


 僕と幼馴染でありながら、ヤンとも幼馴染である存在。どうせ暇だろうし(拒否権を与えないだけ)、朝飯を食べて連絡するか。


 もちろん休日のこの時間に家族は起きているわけないし、フランスだから24時間空いているコンビニもない。

 なら、自分で作るしかない。……正直に言うと面倒なことこの上ない。堕落人間にはきついスタートだ。学校では違う態度をとっているので、所謂俺の素だな。親も知らないだろうけど…


「ふわ~…今日は一汁三菜メニューでいっか」


 白米は昨日残っているやつを使うとして、味噌汁と副菜だな。後飲み物。

 水を沸かしている間に、まな板と包丁を用意する。そのまま豆腐、ジャガイモ、人参、大根を適切なサイズに切る。他家では知らないが、うちはあるものを入れる。

 沸かした水の中に出汁を入れて、続いてわかめ、その数分後に味噌、そんでさっき切った具材を投入。


 出来上がるのを待っている間に、副菜を準備。一つ目はサラダ、これは簡単ただ冷蔵庫の中にある野菜を盛り付けてドレッシングをかけるだけだ。

 二つ目は梅干し、これはもう準備が出来ている。日本に行くとき、毎回祖母ちゃんがくれるから無くなることはない。…いつも美味しく頂いております。

 最後に、定番の卵焼き。本当はだし巻き卵が食べたいんだけど、面倒だから今回は普通のを作る。ボウルを用意して、卵を二個投入。塩より醤油派なので醤油多めで。かき混ぜて、予め油を染み込ませたキッチンペーパーで玉子焼き器を拭く、そして卵焼きの素を投入。奥から手前に巻く、そしてそれを何重にしたら卵焼きの完成。


「あっ…飲み物忘れてた…」


 朝は脳があまり働かない体質なせいか(徹夜したせい)、飲み物を忘れてた。電気ケトルでお湯を沸かして、マグカップとティーバッグを用意する。今日は、あいつに会うから、対ストレス用のレモンバームとかが入っているお茶にしよう…


 というわけで、簡単朝メニュー完成っと。いやー、自分で料理するとやっぱり専業主婦とか、子供にご飯を作ってくれてる親の大変さが少し理解できるよ。毎日毎日、メニューを考えて料理するのって大変だろうなー。好きならそれでいいだろうけど、俺なら役割分担してする方が楽だな~。

 そんなことを考えながら、パパっと朝飯を食べ終わって、現在の時刻7時。


「なんか、こういう中途半端な時間に起きると何をしていいかわからなくなってしまう…」


 まだ寝ている人いるから、音は立てられないし。かといって画面はもう見たくない。


「……久しぶりに外で走るか」


 どちらかと言うと俺はインドアだから、学校以外では特に外には出ない。

 買い物はいつも親がやってくれて、服も一年に数回しか自分から買いに行かない。

 でも外が嫌いなわけではない。ただ、あまり人にじろじろ見られたくないだけだ。フランスにアジア系の人がいると、反射的に見られるからあんまり外に出たくない…     

 まぁそれはどの国も同じでしょうけど…


 階段を上って、自分の部屋でパーカーとスポーツレギンスに着替える。そしてフードを被り、スポーツ用の通気性が高いマスクをつける。これで、誰も俺の顔を認識できない。しかも7時にはあまり人はいないだろうから完璧。

 家のカギをもって、軽く走り始める。


「ハッ…ハッ…」


 フランスの入学式は9月、そして今はその一か月後の10月だ。秋の季節。少し肌寒くなる季節。この時間で、薄いながらも霧が発生していることにちょっと驚いた。冷たい空気が俺の灰の中に入って、一気に目が覚める。

 走り始めて10分、近くにある公園についたので休憩を刻むため、ベンチに腰掛けた。周りには誰もいない。


「ハァ…ハァ…水持ってくるんだった」


 完全に忘れてた。それにしても、7時半にはもうちょっと人がいると思ったけど、この公園を見渡す限り鳩しかいない。もしくは、霧のせいで見えないだけかも。


 そう思っていた時、鳩が一斉に飛んだ。多分他の人が来たんだろう、俺も十分休憩が取れたしそろそろ行こうか。

 反射的に、鳩が飛ぶ前にいたところを見ると、そこには一人のが立っていた。雪の色に近い銀髪を持ち、背中しか見えないが、多分スタイルのいい女の子が立っていた。年は多分俺とそんなに変わらないだろう。でも、思わず足を止めてしまった。

 別に恋に落ちたとかそういうロマンチックな理由ではなく、霧のせいかは分からないが―――――目の前の少女があまりにも儚くて…


「いや何を考えているんだ俺は…銀髪が珍しいから思わず、立ち止まったんだ…」


 自分に言い聞かせるように、言葉を吐いて再び同じ場所を見ると――――


「ッ!!あれ?いない…徹夜したせいで、頭がおかしくなったか?」


 俺の脳が幻を見せたのか、本当にいて帰っただけなのか…まぁ、たとえ本当にいたとしてももう会うことはないだろう。

 朝の目覚めにはなったし帰るか。


「家に帰って、シャワーを浴びたら時間的にはちょうどいいかな」


 この時間なら、流石に起きているだろう。ヤンの家に泊まらせる犠牲者君は―――


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