第20話 恋愛相談を受けた者
▲Side マティルド
時は少し遡り、帰りの車の中のマティルド――――
私は車の中で、頬杖をつきながら思う、『今日起きたのは本当に現実だろうか?』と。別に信じていなかったわけではないわ。でも、ジェントルメイデンという変なニックネームの持ち主を、初対面なのに信用できるわけがない……
淵君は知らないだろうけど、町の人たちは彼のことを色んなことで噂している。
曰く、ジェントルメイデンは経験豊富なおじさんだとか。
曰く、彼は恋を叶えるのではなく破綻させるための存在だとかね。
だから、初めて会った時は驚いたわ。噂とは違うけど、変人というのが私の第一印象。初めての会話がツッコミから始まるし、女子と喋るときに敬語で話すし、照れると全力で走るし、etc……
「……今思い返すと、結構振り回されたわね」
思わず呟くほどに刺激的な一日だったわ。
でも、カフェに入り始めるところから印象が変わったのよね。15歳で女の子に頭を下げる男の子って中々レアだと思うし、注文はまともにできないし、店員さんとまともに喋れないほどのコミュ障と来た。変人から、いつの間にか放っておけない子と認識していたわ(後イジリがいがありそうな子)。
「だけど、そのせいでもっと不安になったのを淵君は知らないだろうな~」
こんな頼りがいなさそうな子で本当に恋愛相談に乗ってくれるのだろうか?とても心配だった。自分のことで手一杯な感じの他人に、私の恋を預けてもいいのだろうか……
そんな心配、恋愛相談が始まってすぐに吹っ飛んでいったけどね。変人、オロオロしている子から何が来ると思うと、なんと目の前には別人がいた。別に人が変わったわけではない。人格も変わったわけでもない。ただ纏っているオーラが、空気が、一瞬で変わった。あの時顔には出さなかったけど、本当は心臓が飛び出るほどに驚いたのよ?女子が触るだけで頭がショートして身動きがとれなかった少年は、私の相手を特定した瞬間、鷹みたいな鋭い目つきに変わり、豹変した。
淵君が考え始めたその時に、ぶつぶつ何かを言っていた。私は好奇心で耳を傾けて、何を考えてるいるのかを聞こうとすると、『いま必要なのは感情ではない』と聞こえた。意味が分からなかったわ。恋愛から感情を抜いたら何も残らないのに、淵君は私とアシル君がどうやって出会ったのかを当てたわ。そして、対策を練った。あの短時間で。
話を聞くだけでは信じられないと思うわ。でも淵君と、ジェントルメイデンと直接恋愛相談をしたらわかるわ。多分彼の頭の中では、無数の可能性が存在していて、それを自分の経験と推測で特定しているんだわ。
人間は並行的に脳を使うことはほとんど出来ないわ。例えば、ロックを聞きながら先生の授業の内容を覚えられるわけがない。でも、もし淵君がすべてのパターンを頭の中で想像して、その中から選んでいるのなら、それはもう歩くコンピューターと同じだわ。
「しかも、恋愛特化と来た。素直に褒められないわね......」
淵君の脳が勉強のためにあったら、世界有数の存在に慣れていただろうに......いや、無理だわ。だって淵君目立つの嫌がっているし、例え頭がとてつもなく良くても公にはしないだろう。
「フフッ。アシル君がいなかったら淵君に惚れていたかもね」
それにしても、ジェントルメイデンの噂は本当だったってことね。これで私の恋が叶ったら、あの人の力になってくれるだろうし。淵君自身は、私の恋愛相談としか思っていなさそうだけど、本当はもう一つ理由があるのよね。別に、アシル君が好きじゃないというわけではないわ。ただ、あの人の悩みを解決するために、私が身を投じて先にジェントルメイデンの噂は本当だということを証明しなくてはならない。
でも、淵君は高校ではあまり知り合いはいなそうだけど、変人だから変なところで人脈を発揮しそうなのよね~。まぁ、そこを気にしていても時間の無駄よね。
それに、お互い秘密は多そうだし......
あの時—―――――――
『一回しか言わないから、ちゃんと聞いてね。俺の秘密は――――――――――』
あれが本当なら、貴方は一体どういう過去を生きてきたの?しかも、関係ないと言って遠ざけたのなら、なんでわざわざ一番重要な秘密を私なんかに?確かに情報の人質扱いはいい案だと思った、でもこれじゃあ私は何も貴方に返せないじゃない……
淵君こそ、なんで会って1時間しか経っていない女子高校生に重大な秘密を暴露したのよ……考えたってもしょうがない、今は彼が言った通りに、自分の恋愛のことしか考えてはならないわ。それが今私が出来る、淵君への最大の礼儀。
でも、願うだけはいいわよね……たとえ、私が貴方をその絶望から助けてあげられなくても……
いつか、淵君の心を光で照らしてくれる人が現れますように――――
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