第19話 我が家

 家に着いた時の時刻はもう20時を過ぎていた。高校生にしては中々遅い帰りだ。こういう時、男の子として生まれて良かったと思う。女の子だったら、危なすぎて次から門限とかを付けらるだろう。

 見慣れた自分の家の玄関を開ける。


「ただいま」

「「「おかえりー」」」


 入った瞬間、三方向から出迎える声が聞こえてきた。一人はリビングにいる父、もう一人はキッチンにいる母、そして最後に自分の部屋に引きこもってゲームをしているであろう弟。


「貴方の分はテーブルの上に置いてあるから、後でレンジで温めて食べて」

「わかった」


 母の葛葉くずはは、晩御飯の後片付けをしながら言ってきた。


「今日は淵の当番の日なのにいなかったから、明日代わりにやってくれよ」


 ソファーで寛ぎながら、面倒くさい当番について言ってくるのは、俺の父、京司けいじだ。


「わかった」

「ところで学校はどうだった?」

「いつも通りだよ母さん」

「そのいつも通りを何年も聞いていないから、聞いているのに……」


 俺の答えは一見、作業をするように淡々と答えているようだが、別に家族仲が悪いってことじゃない。聞かれたら答えるが、その答えに色を付けるかと聞かれたら、付けないだけだ。家族と一緒にいて15年の時が流れても、世間話を俺から吹っ掛けたことはない。


「学校のことなら、ひかるに聞けばいいじゃん?」

「陽は中学生で、貴方は高校生じゃない。高校一年生になってから、唯一得られたものって、貴方のクラス写真だけじゃない……」

「……気のせいだよ」

「今の長い沈黙が、貴方が嘘をついていると物語っているわよ」


 母親という存在は厄介だな……嫌なところを適切に突いてくる。これ以上話していても、負け戦になるから、自分の晩御飯が乗っている皿をもって、電子レンジのところへ逃げt……移動した。

 電子レンジの中で回っている晩御飯を見ながら、今日起きた出来事を頭の中でお思い出す。新しい依頼人、ヤンというパイプ役、海への要請、etc……

 濃い一日だった。

 温め終わったので皿を取り出して、晩御飯を食べ始めた。


「どう?今夜のご飯は?」

「いつも通り家庭的で、美味しいよ」

「貴方いつもそれしか言わないよね…」

「そういう言葉を求めて聞いているんでしょ?」

「いや、貴方の意見を聞いているんだけど……」


 わからないね。料理する人が求めるのは、賛辞の言葉ではないのか?

 例えば彼女が手料理を振舞ってくれて、それを食すとしよう。男ならたとえそれがまずくて、吐きたくなっても、耐えて『美味しい』と笑顔で言うべきではないのか?俺はその理論で考えているから、同じ言葉が出てくるだけだ。

 自分の意見など—―――


「御馳走様。じゃあ、俺はから部屋に入ってこないでね」

「はいはい、勉強頑張ってね」


 騙していることに多少の罪悪がんが芽生えるけど、気にしないでおこう。

 この家は、地下室ありの横に長い二階建てだ。一階に、リビング、キッチン、トイレ、京司の書斎と猫部屋がある。二階には、家族全員の部屋とシャワールームがある。後、特徴と言ったら庭が広いってところかな。自分で言うのもなんだけど、普通の家のちょっといいバージョンって感じかな。

 晩飯を食べ終わった俺は、自分の部屋に直行せず、庭へ出る。


「やっぱり、今日の夜空も綺麗だなー」


 別に星とか天体観測に興味があるわけではないんだが、自然と足が動くんだよ。そして、脳が訴えるんだよ『星が見たいって』。俺にとって、恋愛相談する人は星のように輝く存在だ。別に崇め称えるわけではないが、素直に尊敬に値すると言った方が適切だろう。だから、いつも星が見える夜は、庭に出て、自分が人の心を揺さ振っているということを再確認することを習慣としている。10分位、座って今まで幸せにできた人と逆に、ある意味絶望のどん底にした人たちを思い出す。『ありがとう』の言葉と、『怒り』の言葉を戒めにして、自分の部屋に向かう階段へと赴く。


 俺の部屋は、この家で唯一鍵で閉められる部屋だ。扉には、赤い文字で『 knock before entering!』と書いてある。小さいころに、親に頼んで鍵穴を設置して貰った。小さい頃はあまり使わなかったけど、今は見つかってしまったら危ない物がいっぱいあるので大助かりです。……エロ本じゃないからね?18歳を超えていないのに、そういうのはダメ絶対!

 扉を開けて中に入る。目の前に広がるのは、本棚の中にびっしりと詰まった漫画とラノベの本棚と明らかにゲーマー用の椅子とコンピューター。引き籠りにとっては楽園みたいな部屋だ(引き籠る気はないが)。扉に鍵をかけて、ゲーミングチェアに座ってヘッドホンを装着。準備万端。


「今夜も長い夜になりそうだ!」


 そして、コンピューターの電源を付けた――――――

 今、ゲームすると思ったでしょ?違うからね。マティルドに必要な物だから勘違いしないでね。そして俺がコンピューターの電源を切ったのは、窓から太陽の光が差し込む時間だった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る