第18話 恋愛相談が終わって……

 さて、かなりの時間を有して方針を立てたし、外も暗くなってきた。今日はもう解散の時間だ。まだマティルドをアシル君とくっつける事は出来ていないから、恋愛相談自体はまたやるであろう。


「そんじゃ、今日はもう終わりにしますか」

「いつもの間に外がこんなに暗く……熱中していて気付かなかったわ」


 熱中とは……アシル君あは愛されてるねー。

 コーヒーを飲み干して一緒に店を出る。時刻はもう19時か……女の子が一人で帰るような時間帯じゃないな。


「家まで送り、マティルド

「……結構打ち解けたと思っていたのだけれど、結局恋愛相談外では敬語なのね」

「…えぇ、私はそれなりのことが起きなければ敬語はやめませんよ」

「腕に抱き着いたらその他人行儀な敬語は消えると思う?」

「ははっ、ご冗談を。腕に抱き着かれてしまったら私の魂が消えてしまいますよ」


 腕に抱き着かないよね?しないよね?毅然な態度をとっているが内心では不安だ。敬語については、しょうがないと思ってもらうしかない。周囲の目があるというわけではない、でも俺にとってはこの仮面を勇気はまだないのだ。いつか捨てられるとも思わないがね。


「魂が消えてしまったら、私の恋愛相談に乗ってもらえなくなるから止めておくわ。でも、いつか敬語を使わないくらいの仲良しになるわ」

「……ご自由に」


 普通、タメ口から敬語に変わると大体悪い反応をされのに、もっと仲良くなろうという人は初めてだ。マティルドみたいな人を人徳のある人と呼ぶのだろう……


「えぇ、そうさせてもらうわ。ところで送ってくれるんでしょう、ジェントルメイデン?」

「その名前に聞き覚えはありませんね。私の名前は黒曜淵ですよ?」

「そうね今は淵君よね。悪いんだけど迎えがいるから、車で帰るわ。提案ありがとう」

「いえいえ、私でなくてもこう言ったでしょう。ではまた二日後」

「よい週末を~……あっ、私の連絡先はこれだから何かあったら教えてね~」

「わかりました、では必要な時に連絡させてもらいます」

「はーい、まったね~」


 黒い車に乗ったマティルドを見送って、俺は空を見上げていた。

 ヴァシエンヌ高校入学式からたったの1ヶ月。それなのに、もう恋愛相談を受けるとは思いもしなかった。いつも恋愛相談をした後、夜だった場合星を見てしまう。そして思う、星みたいに輝く人と巡り会えたと。


「やっぱり、人間はこの世で最も醜く、尊い存在だ」


 独り言。町は地面を辛うじて見えるほどの明るさ。夜になると、生きているうちに抱えるすべてのものを忘れられる。たとえ一時的な事だと知っていても、自由になれる。やっぱり俺は夜が好きだ。


「……そろそろ帰るか」


 一人の夜を堪能したからもう帰るとしよう、親には心配をかけたくないからね。俺は帰路に就いた。そして徒歩で帰るまで音楽を聴こうと思ったが、辞めた。ちょうど、アシル君攻略において必要不可欠な情報をまだ得ていなかったから。こういう時は、事情を知っていて頼りになる幼馴染に頼ろう。


「…………………………」

「……おかけになった電話をお呼びしましたがお出になりません」

「嘘つけ!!がっつり人間の声じゃん!」

「ははっ、やっぱりバレてしまったか」


 初っ端からいたずらをして、電話越しでからから笑っている相手はサーシャたちではなかった。


「—―――それで?今回のジェントルメイデンとしての依頼は何だ?」


 さっきまでチャラチャラしていたのに、電話した理由を察したのか、声のトーンが一段下がって、真面目な雰囲気になった。電話している理由を知っているなら最初っからこうすればいいのに……まぁ、学校ではこんな真剣な声出さないしね。


「相変わらず話が早いね、やっぱりモテル男はそれなりの理由があるってことだな」

「モテていても肝心の本命に伝わらなかったら意味がないんだがな」

「そりゃそうだわ、脱線したすまん。新しい依頼人が出来た、彼女の名前はマティルド・ルーフス。多分お前の情報収集能力なら誰かは知っているだろう?」

「そりゃファンクラブまである美少女だったら、誰でも一度くらい名前は聞いたことあんだろう。むしろお前みたいに、他人に興味ない人の方が珍しいさ」


 他人に興味ないとは失礼な……事実だな、何も言い返せんな。


「そうかもね……それより、マティルドの想い人を知っているが接点がないから、その想い人の友達から崩す」

「なるほど、つまり俺はその友達の情報を集めればいいんだな?」

「そういうことになる、マティルドが好きな人はアシル・ボドワンだ。俺すら知っているのに、お前が知らないはずがない。話から聞いて、友達は少数と見受けられるから、そっちの仕事は楽だろう」


 マティルドと交わした口外しないという約束は、あくまで個人情報についてであって、彼女が好きな人の名前は入っていない……実際はそれも個人情報になるのだが、成功のために仕方なく教える。それに、幾度も手伝ってくれた彼を、俺は完全に信用しているから、大丈夫だろう。


「そうだな、過去にやった仕事に比べれば―――――

「やめろ言うな……思い出したくもないあんな地獄……」

「はは、本当はいい思い出として扱っているのに素直じゃないな。さて、ではアシル・ボドワンの周辺にいる友達の情報収集が今回の依頼で合っているか?」

「あぁ、そうだ。いつも悪いな、

「いいって、いいって、俺たちの中だろ淵?この九重海ここのえかいにお任せあれ!それじゃあ、明日から取り組ませてもらう、お休み!」

「お休み、海」


 そして電話が切れた。いつも思うんだが、あいつ高校生にしては早く寝すぎじゃないか?まだ19時30だぞ?ロングスリーパーなのか?幼馴染でも謎はあるってもんだな。

 よし、この件については何とかしてくれるだろうし、本当に帰るか。明日は、ヤンのところに、を送り出さないといけないし――――

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