第14話 大まかな方針

 今日で何度目だろう……彼女の行動のせいでこの店の客から白い目を向けられたのは……原因はどう見ても俺の発言だけど。マティルドはおどおどしているし、初恋ではないだろうけどあまり恋愛経験は豊富ではない気がする。恋愛経験皆無の俺に相談するのはおかしな話だけどね。


「そろそろ落ち着いた?」

「いきなり告白できるって聞かれて落ち着いてるわけないじゃない!」

「だよねー、マティルド初心っぽいし。じゃあ質問を変えよう、マティルドは生まれてから何回恋をして、何回その思いを告げた?」


 ずけずけ言っているのは分かる、でも必要だから聞かなくてはいけない。俺がさっきから聞いていることは、マティルドにとっては喉元に刃物を突き付けているような発言ばかりだ。だから、今問われているのは君の勇気。その恋を、幸せを得るために過去に経験した出来事糧にできる決意があるかどうか。それを俺程度に示しも出来なかったら、告白なんて夢物語に等しい。


「正確な数は忘れたけど、初恋は多分幼稚園の先生だから……恋したのはアシル君で二回目よ……告白はされたことはあるけど、したことは……(ごにょごにょ)」

「最後の方が聞こえなかったけど、察するに告白したことないんだね」

「されたことが多いから、それを参考にやってみようと思ったのだけれども……踏ん切りがつかなくて。それで、藁にも縋る思いで誰かもわからないジェントルメイデンに相談しに来たのよ」


 思いの強さは伝わってくるんだけど、多分接点が足りないいんだろうな。簡単とまではいかないけど、友達だったら告白するチャンスとか、自分の魅力をアピールする場面は多いだろうに。告白はひとまず置いといて、二人の距離を縮める方法を考える方が得策か……その間にマティルドの決心がつけばいいのだが……


「そういえばクラスは同じなのに、なんで友達になろうとしないの?マティルドって陽キャの化け物クラスだから、話したいと思えばいつでも話せるでしょ?」

「陽キャの化け物って……確かに距離的には近いんだけど……」


 いきなり押し黙ったマティルドは、顔を赤らめながら視線を落とした。まるで、何かとてつもないほど深刻な事態に直面したような雰囲気を感じる。失礼ながら、そんな彼女の表情はとても絵になると思ってしまった。だが、そろそろ俺も彼女に慣れてきた。最初の俺なら心配したり、どうしてそんな表情をするか聞いてしまうだろう。だが目の目の少女をもう十分知ってしまった、だから彼女が黙った理由は―――――


「好きな男の子にどうやって話を切り出すのかわからなくて……」


 ――――単に恥ずかしいだけだろう。むしろ頭の中ではくだらないとすら思えてきてしまった。ん?女子とまともに喋れないお前が自分のことを棚に上げるなと?はっはっは、何のことだか……くだらないと思ったことは撤回しよう、自分にもダメージが来る。


「予想はしていたけど、本当マティルドって恋愛関連ではポンコツ化するね」

「うぅぅ、何も言い返せない」


 ポンコツではあるが、行動力はある。彼女に足りないのは経験と後押し、そしてそのどちらも俺は。俺に恋愛経験があるわけないから、そこはマティルドの頑張り次第。後押しは俺がアドバイスをやればなんとかなる。大体の方針は決まっているから、後はもうチャレンジあるのみだな。


「好きな男の子って言ってもね、大抵の男子は女子に話しかけられたら少なからず嬉しいはずだよ」

「じゃあ淵君は?」

「さぁ、想像にお任せするよ。それより、アシル君だ。聞いたところ彼はちゃんと話を聞いてくれそうだし、拒絶する可能性は限りなく0に近い。そして、君たちには接点がないから特別悪い印象も、良い印象もないと来た。つまり、普段男の子と喋っている感じで近づいても問題はない。話題に関しては、君たちの容姿、体格、趣味趣向は対局とまではいかないだろうけど似ているとは思えないから、最初は生きている限り誰でも知っている世間話とか、相手が面白いと感じるような物で良い。そこで、アシル君が好きなもの、好きなことについての情報を引き出して俺にくれたら調べ上げて君に有用性のある情報を渡そう」

「わ、わかったわ。でも、近づくにしても露骨すぎるとクラスの皆から私がアシル君に恋してるとわかるんじゃない?それはそれで恥ずかしいから、避けたいんだけれども……いいえ、今言ったことは忘れて、ここまでしてもらって難易度をまた上げたら淵君に無理させちゃうわ」


 申し訳なさそうに言った彼女の目の奥には、後悔の念が見えた。他人を思いやれる、優しい女の子。君は、僕の負担を減らそうとしているようだけど、そんなことは必要ない。何故なら、その程度のことを想定していない俺ではないから――――


「問題ない。クラス内カースト上位のマティルドが、アシル君に接近したら注目を浴びることはわかっている。そしてそれを君が恥ずかしがって、何とか別の方法で近づきたい、という考え方をするのも想定済み。だから、もう対策はついている」

「問題ないって?えっ?!な、なんで、私が気にすることを知っていたの?!淵君って、読心術の心得でも学んでいたの?!」


 今のマティルドは失魂落魄しっこんらくはく状態。あわあわしながら、驚き一色の顔。もう精神が不安定の人と言われた方が納得するほど奇妙な動きをしているし……彼女にとって今日は想定外の連続だったろうな~…大抵のことは俺のせいだけど。


「そんな大層なものは学んだことはない、ただの推測だ。それより、城を落とすために、しなくてはいけないことは何だか知っているか?」

「それよりって……今一番重要なのは、そこだと思うのは私だけ?」

「マティルドだけだと思うよ、それより質問に答えて」

「そ、そんな~……城でしょ、なら門からじゃない?」

「その通り。今回はあえて外壁と言わせてもらうけどね。これを聞いたらおのずと答えは出てくるはずだよ」


 思案顔をし始めたマティルド、普通に考えれば城と恋愛なんて全く関係ないがよ~く考えてみると少し似ているところがわかる。おっ、気付いたようだ。


「もしかして、友達から攻めるって言うの?」

「そう!アシル君と一緒にいても普通であるためにはまず、アシル君の周りいる友達と仲良くなればいい!」

「いい案だと思うけど、時間がかかるんじゃない?時間がないわけじゃないんだけど、遅すぎるのもちょっと……」

「何を言っているんだ?アシル君の友達とは一日で友達なるんだよ?」

「へ?一日ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ???!!!」


 だ~~か~~ら~~、俺の耳をちょっとは気にして!!今回は手で耳を塞いだから、大丈夫だったけど……危ない。

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