第12話 意中の相手

「君の好きな人は――――――――かい?」


 吃驚仰天きっきょうぎょうてん。椅子から落ちそうになり、飲んでいたアールグレイを俺の顔面目掛けて噴出したマティルド。俺がどうなったって?俺はというと、避けられる反射神経を持ち合わせておらず、もちろん全部くらったからビショビショだよ。

 まっ、それぐらいで済んだからむしろ良かったよ、過去に言い当てた時の反応に比べると……いや、辞めておこう……黒歴史っていうのは二度と思い出さないように心の奥底に封じるものだ……決して再度浮上していいものではない……

 あっ、脳内でくだらない茶番を繰り広げていたせいで、目の前の少女の存在を完全に忘れてた。目で『説明して頂戴!!』っていうメッセージを窺える。


「説明するのはいいけど……その前に顔を拭く時間をくれないかい?この状態だとちょっと……ね?」

「ッ!!……悪かったわ(ボソッ……拭いたら説明してね…」


 自分の行いに反省しているのか、マティルドがハンカチを貸し出してきた。律儀だなー、紙なら店内にあるのにわざわざ貸してくれるなんて。ありがたくその行為に甘えよう。


「ありがとう」

「いえ……それくらいしか……ッ!!」

「?どうしたのいきなり押し黙って?俺の顔になんかついてる?」


 俺が髪をかき上げた瞬間、目を丸くして俺の顔をまじまじと見てきた……ちょっと恥ずかしいから、辞めてもらえませんか?


「淵君、女の子に告白されたことはある?」

「ないけど?」

「じゃあイケメンだとかは?」

「ないない。この顔だぞ?イケメンって呼ばれるのは、俺の周りにいるあの三人の幼馴染だよ。それに女子が俺に話しかけるときは多分、他の三人と喋りたいがためだろうから、俺は三人のところへ連れて行った後邪魔しないように屋上とか人気のいない場所に行くんだよ」


 だって、俺が輪に入るとあまり面白い話とか浮かんでこないもん。マティルドみたいにコミュ力お化けじゃないんだし、隅っこで本を読んでいた方がお似合いだよ。理由はほかにもあるけどね……

 ……なんで頭を抱えて、残念なやつを見るような、いや完全に残念なやつを見る視線を送ってくるんだ?


「淵君……」

「その憐れむような目辞めてくれる?俺憐みを感じさせること言ったつもりないんだけど?」

「君……周りの人に無自覚とか鈍感とか言われたことないの?」


 な、なんでマティルドからみんなと同じ言葉が出てくるんだ?!えぇ……まぁ……言われましたけど、適当に流してましたねー。


「イエマッタク」

「棒読み」

「うぐっ!!」

「言われたのに気付かないなんて……相当重症よね(ボソッ」

「なんか今物凄く失礼なこと言わなかった?」

「イエマッタク」

「真似しなくていいわーーー!!っていうか、それ自白しているのと同じじゃん!」

「それより、早く話の続きをお願い。私未だに驚いているもん、一発で私の想い人を言い当てるなんて」

「…………」


 露骨に話を逸らしたな、いやどちらかというと話を戻したの方が正解だけど……

 ぐぬぬ、納得いかない。でも口論で彼女に勝てる気はしないから辞めておこう…

 わざわざ危険に身をさらすどっかのアニメの主人公みたいにはなりたくない。


「まず高校についてだけど、これはただの勘。これで違うと言われていたら別の高校の人も出していたけど、今回はそうならなかった。次に何故彼に行きついたか。これはもっと簡単、ただだったから」

「は?」

「だから、ガタイのいい人って印象に残るじゃん。だからさっきの特徴である程度の目途はついていた」

「でもそれだけでは私がす、好きな人がアシル・ボドワンだと特定できないはず。そこはどうやって?」


 好きっていう言葉を言うのは恥ずかしいのか、顔が少し赤くなっている。それに相まって甘酸っぱい封印気も出てるし、青春だね~……今思ったことは取り消そう、同い年なのに自自臭いことを言ってしまった。俺はまだ枯れていないぞ!!むしろ青春真っ只中だからな!!……コホン、話を戻そう。そう、印象的だからと言って特定するのは至難の業、よって僕がとった方法は――――――


「言えません」

「……へ?」

「これ以上は言えない、もし知りたいのなら個人的に調べてもいいけど…何かを見つけられとは思わないな」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!一番重要なところは秘密ってそんな馬鹿な話―――

「最初に言ったよ、俺の恋愛相談は特殊だって。それに俺を信じると決めたのはそっちだ、だったら最後まで信じ切ってくれ」


 そうしてくれないと困る。例えあらゆる手で拷問されようが、薬漬けにされようが、この秘密は絶対に話すことはない……自分で言ってて怖いな……信者じゃないけど、明日の帰りに教会で祈りに行こう…


「……いつか絶対に教えてもらうからね」

「ジェントルメイデンは謎多き人物なんだ、そしてそれが変わることはない。教えることは絶対にないから、暴きたいならご自由に」

「む~~。淵君のいけずー」

「どうとでも。それより、早く貴方様の白馬の王子様について教えてくださいな」

「だれが白馬の王子様よ!」


 思いっきり拳をテーブルの上に振り落としたせいで、ガシャンという音がした……いたそー、あっ痛みで身悶えてる。いやー、最初はこっちが翻弄だれていたけど、だんだん素が出てきたなー。

 さてさて、彼女の想い人はどんな人かな?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る