第11話 ジェントルメイデンの誇り

 ――――長い。この一言しか頭に浮かんでこない。いや、実際はちゃんと考えているよ、でもこの情報をメモる作業だけはすっごく長い。しかも全部重要なことだから、ちゃんと書かないといけないと来た。簡単に纏めるとこうだな、


 本名:マティルド・ルーフス

 年齢:15歳

 性別:女

 学校名:私立ヴァシエンヌ高校

 家族構成:父、母、弟

 学校での性格:陽気、友達思い、コミュ力お化け、文武両道、ちょっとぶりっ子、小悪魔、可愛い系、モテル

 家での性格(素):家族仲良好、ちょっとぐーたら、めんどくさがり屋、無口、涙脆い、意外とゲーム好き


 ――――ってところかな。彼女が言ってくれた情報で纏めるとこうなるね。う~ん、多分隠しているものもあるから、質問していこうか。心の中で謝っておくよ、今からはデリカシー皆無になるから。


「マティルドさ~ん、一つ忘れていないかーい?」

「な……何を?」

「とぼけないでくれるかな、一番重要な情報だけまだ聞いてないよ?」

「うぐっ……本当に言わないと、駄目?」


 マティルドは涙目でこっちを見てくるから心臓に悪い……少しは自分が可愛いことを念頭に置いてもらいたいな!まるで俺が悪いことをしているみたいじゃないか!いや、恥ずかしいのは分かるよ。でも俺に相談するということは、それ相応の覚悟を持ち合わせていないとだめということ……つまり―――――


「言わないと進まないよー。っていうかそれがないと、こっちはどうしようも出来ないよ」

「わ…わかってるわよ!……でもいざ言葉にしようとすると……恥ずかしくて…」


 顔を赤らめながら、目の前でモジモジしているこの子は一体何なんだろう?さっき散々俺をからかったくせに、今は恋する乙女の顔になってる……恋する乙女は美しいというけど……正にそれだね。


「はいはい、恥ずかしいのは百も承知なんですよ。どうせ後で好きな人の名前を聞くんだから、対して変わらないでしょ。休日とか時間があるときに相談されていたら、もうちょっと猶予を与えていたけど、時間がないからさっさとしてくれ」

「……淵君、最初はすっごいおどおどしていたのに、恋愛相談が始まってからは遠慮がなくなってきたわね」

「悪いがこういう話はストレートが一番というスタンスでやっているからな」


 正直に言うと、恋愛なんて『好き』という感情が相手に届くか届かないの話。そして、それを相手に『好き』といわず、気付かせるのはほぼ不可能。だからそこで必要となるのが、愛の告白。そして告白とは、嘘偽りなく、自分の心からの言葉を相手に送ること。自分の好きなタイプの男性さえ他人に言えない状態で告白なんてできるわけがない。だから今行ってるいることは、情報を得るためでありながら、告白するときの緊張感に慣れる練習も兼ねてるというわけだ。


「急かす気はないが、そろそろ答えてもらってもいいかな?」

「……いいわ、大分緊張が和らいできたし、言えると思うわ」


 深呼吸をしながら、自分を落ち着かせている彼女からどんな言葉が出るのやら……とても、不謹慎だと思われるとかもしれないけど、この瞬間は不安でありながら少し楽しみなんだよね。


「私の好きな男性のタイプは………」

「………………(ゴクリ)」

「—―――――よ」

「えっ?今なんて?ちゃんと聞き取れなかったからもう一度言ってくれる?」

「わざとじゃないでしょうね?」

「誓って本当に聞き取れなかった」


 多分聞き取れなかったのではなく、マティルドが使わないような言葉が出てきたせいで俺の脳が処理しきれなかったんだけど思うけど……今回は聞き取れるはず。


「じゃあこれで最後の一回だからね」

「わかった、わかった。だから、その射殺するような視線を俺に向けないでくれ」

「じゃあ言うわよ……私の好きな男性のタイプは―――――――長身、筋肉質で頼ったら何でも解決できそうな人」

「…ふむ……な・る・ほ・ど、大体理解した」

「な……何がよ」


 未だに顔が真っ赤なマティルドが、何故ここまで渋ったのがね。後、今の情報で彼女が恋している男性のがいくつか絞れた。とりあえず今は答え合わせだ。


「一応聞いておくけど、好みの男性を打ち明けたのは俺だけであってる?」

「なんでわかるの?!」


 マティルドが何故近しい友人に教えなかったのか……それは簡単なことである。後、驚いて席を立つと周りの人から注目を集めるよー。あっ、気付いたみたいだね。せっかく落ち着き始めていたのに、顔がまた真っ赤になってる。


「で、なんでわかったの?」


 今度は俺の耳に顔を近づかせて囁いて聞いてきた。……耳元でささやくこと以外に方法はなかったのかな?思わず店内で発狂しそうになったよ……後変態じゃないけど、物語とかで女の子はいい匂いと言った主人公の気持ちを理解した………はっ!ヤバい、危うく匂いフェチになるところだった。落ち着け俺……というわけで、脳内でくだらない葛藤をしてから、彼女の疑問に答えることにした。


「簡単だよ。多分だけど、他の女子達と恋バナとかしていた時に、自分だけ好みがズレていたんじゃない?」

「そ、そうよ、よくわかったわね。過去にそういうケースがあったの?」

「いや全く。ただの推測」

「…………」


 何故かマティルドが絶句して変人を見ているような顔をしている。仮にも相談に付き合っている人にその顔はないだろう……っていうか、このくらい誰でもできるだろ。


「どうやって当てたかはいいとして、君のタイプの男性を聞いたから、次はその人の名前と行こうか」

「そうなるわよね……ちょっと心の準備を―――

「ダメに決まってるだろう」

「そうよね…」


 全く、一々待つのは嫌だって言ってるのに。っていうか今更心の準備言うか。最初の小悪魔っぷりはどこへ行ったのやら。いや恋がマティルドの小悪魔を引っ込ませたのか。愛の力に勝るものなしだな。………埒が明かない、もう最終手段を行うしかないか。


「そっちが言いたくないなら、こっちも考えがあるからな」

「な、なによ」

「さっきの情報を全部合わせたら、俺の中で候補が複数できたから、今から一人一人名前を呼んでいくから、君の思い人だったら頭を縦に振って。わかった?」

「……渋ってる、私拒否権はないわ。それでいいわ、でもその中に私が好きな男性の名前はいない可能性は?」


 確かにある。むしろ、いない可能性の方が高いの当たり前。でも、俺は予測の段階で。だから、すべてにおいて自信がない俺でも、これだけは自信を持てる。これが俺の特技で、俺の誇りでもある。


「大丈夫、絶対に当てて見せるから。それじゃ一人目いくよ。

 君の好きな人は―――――――――――――

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