00*3 名無しの手紙


 親愛なるあなたへ


 霧の国の窓の外にも美しい銀雪の景色が広がり、こちらは冬篭りの季節です。どうしてもあなたに手紙を書きたくて、筆を取りました。


 まず初めに、この手紙に名を記さない無礼をお許しください。誰にも読まれることのない手紙だとしても、あなたの名前も、僕の名前も、書いてはならないということは承知しています。


 一つ前の手紙で、学を修め、評議会の一次採用試験に合格したことをお伝えしましたね。


 今日は二次試験の結果が発表され、これも無事通りました。


 晴れて僕も今日からあの評議会の一員ですよ。まだ配属される部署は決まっていませんが、捜査官として【霧雨アルカ】への配属希望を出しました。望み通りにことが運ぶかは分かりませんが、きっと、そうなると思っています。


 僕には、未だにあの日のことが忘れられません。あの赤と金色の空が、眠るたび、夢になって出てくるのです。


 なぜ、あの様な事が起きてしまったのか、評議会に所属したとしても、何かしらの情報を掴むこと自体やはり難しそうでした。


 情報はかなり高度な魔法で秘匿ひとくされていて、全てに、第一級の封鎖法式が施されています。ですから、さらに上を目指さなければ、閲覧さえもできないということです。


 聞いたかぎりでは、あなたの耳飾りの片方は評議会の最深部で保管されています(これはいつか必ず取り戻してみせます)。もう片方はまだ見つけることができていません。あなたの手の中にあるのなら、それで良いのですけれど。


 あの時、第一の守人もりびと様が指揮権を持っていたとだけ、耳にしました。


 あのお方の真意は、僕には全く汲み取れません。


 友人であったあなたなら、あの方の考えに納得されたのでしょうか。あのような仕打ちは、正しかったのだと言うのでしょうか。あなたをおとしめて、何の後悔も抱いていないのでしょうか。


 考えれば考えるほど、のうのうと生きているあいつらを見ていると、堪らないのです。


 なぜあいつらは生きていて、あなたは生きていないんだろうって。


 まだ約束を覚えていますか?

 

 あの時の約束を、僕は違えてしまった。許して欲しいなんて言いません。だけど、もう一度、もう一度だけ機会をください。


 あなたが死んでから、十二年の月日が経った。僕にとってこの年月は、長くて、でも、短かった。今はただ、あなたの無念を晴らしたいのです。


 カラディの戦いも、夜明けの乱でも、あなたの行いは正しかったはずだ。何も間違えたことなんてしていなかった。だから僕は、あなたの身に起きた出来事の真実を、絶対、明らかするつもりです。


 いつもより短いものとなってしまいましたが、今回はこのくらいにします。


 いえ、本当は、あなたへの手紙はこれで最後にするつもりです。どうかこれは、評議会に入る僕の決意だと思ってください。


 それでは、また、いつか全てが終わった時に。


Runueルエネ - therunaチェルナ - ieruramorutaイエルラモルタ


 いつまでも、あなたの傍に。







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