暴露合戦とヤンデレに片足突っ込む女子高生
「私、すごくイヤな女なの……」
俺の胸に顔を埋めながら、美玲が弱々しく口を開く。
「さっきも言ったけど……いつからか分からないけど、おじさんがお母さんと仲良くしているのを見ると、すごくイヤな気持ちになる。はじめはお母さんが取られるからそう思うのかなって思ってた」
そう考えるのは自然だな。
「でも違った。おじさんは誰とでも仲良くするから、お母さんだけじゃなく、他の女と一緒にいるのを見るだけで嫉妬しちゃう……。おじさんは大丈夫って思っても、すごく不安になって心が締め付けられるように苦しくなるの。それまで気づかなかったけど、私ってすごく独占欲強くて嫉妬深い女なんだなって……」
――グリグリ
お母さん……美帆にも嫉妬してたのか。
まったく気づかなかった。
てっきり、母親を取られると思って、俺に当たってきたのかと。
「きっと怖かったんだと思う。おじさんを誰にも取られたくない、私から取らないでって」
「美玲……」
それにしては、キモイって言い過ぎてる気もするが……。
「ついでだから言っちゃうけど、他の女を見ちゃダメ、私だけを見てって思ってる」
――グリグリ
なんという独占欲。
俺はキモいと言われて、嫌われているなと思いながら、どこか嬉しかった。
ぞくぞくするというか……って、そうじゃなくて、キモい発言の裏にそんな独占欲が隠れていたとはな。
「じゃあ、美玲の「キモイ」って発言は俺に対する好意や独占欲の表れ、と?」
「うん……それにキモイって言えば、他の女が気持ち悪がって寄り付いてこないし」
「そっかそっか…」
俺はうんうんと頷きながら、美玲の頭をやさしく撫でる。
うん、ちょっとおじさん怖くなってきたよ。
「なあ、美玲。自慢じゃないが、オレはお前のおしめを替えたこともある」
「……知ってる。その節はお世話になりました」
「お前がおねしょがなかなか治らなかったのも知ってる」
「うん……もう治ってるけどね」
「寝言でおじさん、おじさんと言いながら、抱きついてきたことも知ってる」
「え……そうなんだ」
知らなかった事実を突きつけられてグリグリが止まる。
「悪いことをしてお尻ぺんぺんすると嬉しそうにしてたのも知ってる。むしろ、わざと俺にぺんぺんさせようとしてる節もあった」
「……うそ、そんなことない」
「最近ではテレビを観ているときに、わざとパンツを見せてたことも知ってる」
「それは……そうかも。すごく恥ずかしいけど、ちょっと嬉しいかも」
「その時は決まって白。それに、冬場はタイツだよな~って言ったら、そんなに寒くない日でも、タイツを履いてたこと。俺のところに来る時だけ、スカートの丈を短めに調整してることも知ってる」
「そこまで分析されると、嬉しいより逆にキモいんだけど……」
顔を埋めている美玲がなぜか引いているのが分かる。
恥ずかしさからじゃなく、純粋にキモいと思っているようだ。
でも……
「知ってる。だって、おじさんも私のこと好きだもんね」
美玲が顔をあげて微笑む。
う、すごく可愛い。
恥ずかしいから、俺はそっぽを向く。
「ふふ、おじさんって可愛い」
「キモイの間違いだろ?」
「ううん、そんなことないよ。可愛いところいっぱいある。スマホも使いこなせてないから、むしろガラケーでいいんじゃね?ってところとか、親父ギャグや下ネタがウケていると勘違いしているところ。唾をつけて書類をめくったり、おしぼりで顔を拭いて「あー」って言うところとか。白髪が増えてきたけど、どういう訳か髭のほうが白髪率が高いな~って悩んでいるところとか」
「よく見てるな、お前」
「頭を撫でているときにデレデレしてるし、パンツを見てるときに鼻の下を伸ばしているかと思えば、私が睨むと目を逸らすところとか。私が立っているとしゃがもうとしたり……私に気づかれないように、匂いをクンクン嗅いでいるところとか」
マジか。
それじゃ、まるで俺が変態みたいじゃないか。
嬉しいという気は全くない。ただ、恥ずかしいだけだ。
「……それは気のせいだ」
「まだあるよ?制服じゃないと、あからさまにガッカリするところ。夏服の時は下着が透けて嬉しそうなんだけど、本当は他の男に見られたくないって思っているところとか。巨乳には全く興味ないから、お前にはずっと貧乳でいて欲しいと真面目に考えているところとか。たまに私に踏まれたままの状態でパンツみたいな~って思ってる」
「おいっ、後半は捏造だ。しかも最後は断言してる」
捏造だと否定できない。
できないが、見透かされているのはすごく恥ずかしい。
「おじさんのこと誰よりも知ってる」
ーーグリグリ
グリグリを再開して、意地悪そうな笑みを浮かべる美玲。
知っているというレベルじゃない。
社会的に抹殺できるレベルだ。
「……キモイな、お前」
「おじさんこそ、女子高生を観察しすぎ。キモすぎる」
どっちもキモい。
でも、どっちも相手のことばかり見ていたからこそのキモさだ。
そう思うことにしよう。
「私はね……ずっと好きだったんだよ、おじさんのこと。私が彼氏を作らないのも、告白を全部断ってきたのも、全部、おじさんがいるから。私はね……ずっとずっとおじさんだけだったんだよ?こんなに拗らせちゃったけどね」
いつも疑問に思ってた。
美玲は誰が見てもすごく可愛いと思う容姿をしている。
普通に美少女だ。
その彼女がどうして彼氏を作らないんだろう、と。
「そうだったのか……」
「おじさんは鈍感じゃない。ううん、むしろすごく敏感なほうだと思う」
「そんなことはない。お前の俺に向ける想いに気づかなかった」
「違うよね?気づいていたはず。知っているからこそ、知らないふりをした。考えないようにしていたんじゃないかな」
そう、俺は気づいていた。
美玲が俺に向ける好意が、家族に向けるものとは違うことを。
だから俺は……
「私を遠ざけようとした、よね?」
「……」
美玲の言葉に俺は黙ってしまった。
普通に考えてみろ。
同級生の娘、年齢の差はかなりある。
俺のようなおじさんよりも、同年代、近い年齢のほうがいいに決まってる。
そのほうが美玲にとって幸せ。
俺はずっとそう考えていた。
「何度も言うけど、おじさんのことを誰よりも知っている。それは目に見えるものだけじゃない、目に見えないものも全部。不思議に思っている?でも、毎日、いつどこにいても、おじさんの事ばかり考えていたんだから、それは不思議でも何でもないんだよ」
そうか…。
なら、俺が遠ざけようとした本当の理由も分かっているだろう。
「私、今のおじさん嫌い」
頬を膨らませながらジト目で俺を見る美玲。
俺はダメって彼女の言葉に耳を傾ける。
「だって、いつまでもうじうじして、意気地が無いんだもん」
でも……と、美玲が目を閉じ、言葉を続ける。
「そんなおじさんがすごく可愛い」
「キモイの間違いだろ?」
「ううん、そんなことない。私の冗談に真面目に答えるところも、テレビを真剣に見ているところも、すぐに恥ずかしがったり、照れるところも全部可愛くて、全部が愛おしい」
「……キモいぞ、女子高生」
「うん、そうかも。でも、私だけが知っているおじさん。私だけしか知らないおじさん。世界で誰よりもおじさんのことを愛してる」
「……」
ずっと子供だと思ってた。
こいつは娘のような存在で、俺はこいつの父親。
そう思っていた。
いや、そう思うようにしてきた。
でも、俺は美玲の言葉を聞いて間違いに気付いた。
本当に大事なのは『何か』ってことに。
いつの間にか大人に成長していたんだな……。
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