3 新枕

婚儀の後、しきたりに則って三晩は紅妃のもとで夕食を食べたが、明煌と千慧里に打ち解けた様子は見られなかった。

急に環境が変ったせいもあって、明煌は毎日をつつがなく過ごすのに精一杯のようで、昼の間はたまに紅梅舎に顔を出すことはあっても、夜はさっさと寝室に入ってしまい、自分から行くと言わなかった。


そんな彼にしびれを切らしたのか、ふた月ほど立った頃、紅梅舎から、夜の膳を用意するので、ぜひおいでください、と伝令がきた。

彼は少しの間考えていたが、実は母妃からももっと紅妃を尋ねるようにと言われていたので、やっとその気になったようで、晩に紅梅舎を尋ねた。


以前訪れたときのように、食召の間で紅妃の接待を受け、少しは飲めるようになった酒も口にして、時間を過ごしていると、国から彼女に付いてきた侍女頭が紅妃を呼んだ。

席を立っていった紅妃が、なかなか戻らないな、と思っていると、

「殿下、あちらで紅妃さまがお待ちです」

その侍女頭が呼びに来た。


部屋の入り口でその様子を見ていた月桂は、最初からそういうことだったのだな、と思ったが、それは明煌も同じように感じたらしい。

彼は月桂に合図をすることもなく、言われるままにふらふらと紅妃の寝室へと向かった。

彼の後ろ姿は、これから起こることへの期待感などみじんもなく、なぜか淋しげに見えた。


明煌が紅妃の寝室へ消えた後、月桂は侍女に待機部屋へ案内されたが、やはり落ちついてはいられず、建物の外に出た。

今、寝室でどんなことが行われているのかを考えたくなかった。


月桂は箱庭の隅に立ち、植えられた花々を見るともなしに見ていた。

建物の端々に灯篭が置かれ、太い蝋燭が灯っている。明るい月も建物を照らしている。


明煌がまだ子どもだった十三の時から仕え、主人でありながら、時には弟であり、時には友であり、相談相手でもあった。

彼のことなら、本人よりよく分かっているのだ。

その彼が、親の決めた相手と、男としての初体験をしようとしている。


女人じょにんと親しく話をしたこともなく、ましてや恋など体験したこともない。

女人の身体に触れたこともなく、その時、自分の身体がどうなるかも知らないのに。

そういう感情の高まりゆえの行為ではないことが、月桂を不安にさせていた。


本当なら、控えの間でしばらく待って、明煌が今夜ここへ泊まるとはっきりすれば、一度宿舎に戻って、朝早いうちに戻ってくれば良いはずだった。

彼は気持ちを持て余し、舎殿へ上がる数段の階段の端に座り込んで、明るい月や庭を見るともなく眺め、しばらく時間を潰した。


これまで明煌と過ごしてきた日々が、さまざまに思い出される。

少年だった明煌は、少しずつ大人になっていく。

自分はいつまで彼に付いていられるだろう。

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