第7話 新手のストーカーか?
次の休憩時間も女子たちの質問攻めが続いた。
よくもまあ、揃いも揃って同じような質問ばかりしてくる物だと感心していたが、これが続くと、少し不味いかもしれない。
何故なら——
……因果関係は分からないし、科学的検証を行ったわけではないし、たった2回の事だから統計的確率根拠もない。
だけど……完全にそっぽを向いてしまっている。
「ねえ、倉科さん……その教科書」
「皆んなにお願いすれば?」
目も合わせてくれない。
早速、嫌われてしまったのだろうか。
考えるだけで全身の力が抜けて、身体がだるい。
……さっきの彼女達との会話、嫌われるような発言は、していないつもりなのだが……何か気に触ることでも言ってしまったのだろうか。
もっと、トークテクニックを磨く必要がるってことか。
ままならないな。
「転校早々、モテモテでよろしいですね」
ようやく話しかけてくれたと思えば、薔薇のようにトゲのある言葉だ。敬語はやめようって言ってくれたのに、敬語だし。
「いや、何というか……皆んな物珍しいのかな?」
「私の方が、先に知り合ったし……だって……したのに」
うん?
今、倉科さんなんて言ったんだ?
声が小すぎて聞き取れなかった。
とは、いえ、無視するわけにもいくまい。
「そうだね。だから僕はこの学校……」
「え……」
あ……やべ。
何口を滑らせてんだ、僕の馬鹿っ!
僕をじぃーっと見つめる倉科さん。
僕が何を言いかけたか、知りたいのだろうが。
——これだけはバレるわけにはいかない。
僕は知っている。
僕の行っている行為は、ストーカー行為と間違われても仕方のないようなことだ。
犯罪行為は一切行ってないし、そんな事をするつもりもないが、これだけはバレるわけにはいかない。
「今なんて言ったの?」
なんだ、やけに前のめりになっちゃった。
「ううん、何でもないよ」
とりあえず、全力で誤魔化す。今の僕にはそれしかできない。
「こらっ! そこっ! 何、喋ってんだっ! 授業中だぞ!」
タイミングよく、教師に叱られた。
本来なら、とても恥ずべきことだが、これは大いなる助け舟だ。
この僕の窮地を救ってくれたのだ。
お前にも金一封をくれてやろう。
末代まで自慢するがよい。
「すみません!」
とりあえず、やつの面目を立てるために謝罪しておいた。
「ちゃんと、聞いてたか?」
「はい」
「じゃぁ、前に出てこの問題に答えて見せろ」
とても自信満々な顔の教師。
解ける物なら解いてみろって顔だな。
「おい……あの問題って」
「まだ習ってないよね」
ふん……そう言うことか。
この僕に、恥をかかせたいのか。
いいだろう……。
だが、この問題は、とてもイージーだ。
ていうか、この教師、この設問の意味をちゃんと理解しているのか?
この設問から導き出したい、答えは君が考えているようなシンプルな物じゃない。
ここがこうなって、こうして、こうだ!
「出来ました」
僕は完璧に答えてやった。
「あ、あ、あ、あ……せ……正解だ」
教師は、あんぐりとしていたが、それも仕方あるまい。面倒臭くて学会には発表していなかったが、それがその設問の真の答えの導き出し方なのだからな。
「すっ、すげー山田……」
「やっぱり山田くんって頭がいいのね!」
「さすが
「素敵っ!」
「山田くん私に勉強教えて!」
そんな騒ぐほどのことでもないのに、皆んな結構大袈裟だな。
「す……凄いね、山田くん。あんなの私、ちんぷんかんぷんだよ」
「いや〜、そんな大したことないよ」
「そんなことないよ! 山田くん凄いよ!」
席に戻ると、倉科さんの機嫌はすっかり良くなっていた。ナイスアシストだ教師よ。
僕に恥をかかせようとした、さっきの非礼は帳消しにしてやる。
——そして次の休憩時間は。
「なあ山田、ちょっと俺らについて来てくれよ」
男子達に誘われた。
「え、ついていくって何処にだ?」
「いいから、いいから、俺らとちょっと遊ぼうぜ」
ほぼ初対面なのに肩を組んで、僕を遊びに誘うこの男子生徒。
やるな……これがコミュニケーション強者というやつか。
そして、これほどまでのコミュニケーション強者に、さも親友かのように親しげに誘われるってことは。
——僕にも遂に友達ができる日が来たってことか!
「ああ、行こう! 今すぐ行こう!」
何だ、この胸が踊る感覚は。
倉科さんと一緒にいる時とは違う、この高揚感。僕は今……猛烈に期待している。
「山田くん……いくの?」
うっ……倉科さんが、すがるような目で僕を見つめる。
僕の本来の目的は、倉科さんに想いを伝えて、両想いになることだ。
遊んでいる場合じゃないのは分かっている。
だけど僕は。
「うん、ちょっと行ってくるよ」
友達ができるかもしれないという、期待感に打ち勝つことが出来なかった。これがボッチの
しかも、1、2……6人か。
6人も一気に友達ができるかも知れないのか。
いや、本気で転校してよかったわ。
あの時、バナナの皮を捨てたやつに本当に感謝だ。
そういえば、あのバナナの皮に残っていたヘタの部分に付着していた唾液からのDNA鑑定が、もうそろそろ終わるよな。
たっぷりお礼をしないとな。
あなたのおかげで、僕は今、幸せですって。
——僕達は、人気のない。
体育倉庫裏に移動した。
……こんな場所で何をするんだ。
「さあ、山田、たっぷり遊ぼうぜ」
そう告げると、コミュニケーション強者の男子は、僕に殴りかかって来た。
フッ……そういうことか。
僕は彼の拳を左手でいなし、そのままの勢いで、軽く当身を食らわせた。
すると、男子生徒は大袈裟に後ろに吹き飛んだ。
そんなに力を入れていないのにだ。
ていうか……やっぱりだ。
男というのは幾つになっても、子どもだな。
高校生にもなって、格闘ごっこで遊びたいっていうのだからな。
いいぞ、僕も日々の鍛錬は欠かしたことがない。怪我をさせないように、遊びに付き合う手心を加えるなど、造作もないことだ。
「よし! 面倒だ、皆んなまとめて掛かってこい!」
「畜生! なめやがって!」
ぷっ……『畜生! なめやがって!』とか、セリフまで言うんだ(笑)
何のシチュエーションなのか、後で聞いてみよう。
だけど、皆んなの演技が、あまりにも真に迫るものだったから、僕もつい調子にのって。
「お前達の実力は、そんなもんか! そんなんじゃ僕を倒せないぞ!」
ついつい、恥ずかしいセリフを口走ってしまった。
のわぁ〜〜〜〜〜〜っ! 恥ずかしい! これは黒歴史ものだなっ!
まあ、でも……こうやって童心に帰って体を動かすのも、悪くないものだな。
「おっ……覚えてやがれ!」
そして、最後には捨て台詞を吐いて、クラスメイトは僕を置いて、先に教室に戻った。
「お、おい! 待てよ、待ってくれよ」
だけど、誰も待ってくれなかった。
……しかし、いくら遊びにリアリティーを求めるとはいえ、これはいただけない。
僕は教室までの正確な帰り道を知らないんだぞ。
……とりあえず、職員室にいくか。
なんて思っていると。
「きみ……なかなか強いね」
おそらく校則のドレスコードから大きく違反しているであろう、短い丈のスカートを履いた少女が近づいてきた。
長い黒髪を後ろでひとつに束ね、切れ長の
とても、グラマラスだし、恐らく彼女は美少女に分類されるのだろう。
「きみ……誰くん?」
彼女は、パーソナルスペースを犯すほどの距離まで、ずいっと顔を近づけてきた。
なんだろう、倉科さんといる時ほどではないが、ドクンと鼓動が跳ねた。
「や、山田です」
「山田くんか……ウチ、きみの事が気に入ったよ……1年だろ? 何組?」
「1組です」
「そうか……じゃぁ、放課後迎えに行くからウチとイイコトしよっか?」
い……イイコトだと?
イイコトってなんだ?
「先に帰っちゃダメだぞ?」
「え……」
「もし、逃げても……地の果てまで追いかけて行くからね」
なんだこいつ。
地の果てまで追いかけてくるって新手のストーカーか。
転校初日。
僕の学校生活は、大きく変化した。
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