第6話 モテモテ
転校初日、僕はいきなり
この調子で、また休み時間に彼女と話して、どんどん親睦を深めていければ最高だ。
あ、でも、そんなに頻繁に話しかけたら『こいつあからさまに私のこと狙ってね? キモいんだけど』とか思われないだろうか。
まあ、そこまで極端じゃないにしても、警戒されて距離を取られたりしないだろうか。
くっ……こんな時に相談できる同年代がいたら、どれほど頼もしいことか。
だが、まだ焦る必要はない。
僕はこの転校で、ある意味人生をリセットしたのだ。現時点でまだ、友達がいないだけだ。
女子は好意的だったし、男子からも熱い視線を向けられていた。
きっと、今までとは違う結果が待っているはずだ。
きっと、ボッチから卒業できるはずだ!
柄にもなく僕は、新生活に期待を寄せていた。
そして、休み時間になると、僕の席の周りには人だかりができた。
こんなことは人生初だ。
僕の周りにできる人だかりはいつも、遠巻きだった。半径5メートル以内に人だかりが出来たことはない。
だけど、この人だかりは、よく見ると——女子ばかりだった。
「ねー山田くん、なんでウチに転校してきたの?」
「鬼龍院学院って美男美女揃いって本当だったんだね」
「鬼龍院学院ってことは山田くん家って相当なお金持ち?」
「ねーねー、山田くんはどんな子がタイプ?」
「ねー、山田くん彼女いるの?」
「山田くんってどんな曲聴くの?」
「ねー、山田くんって休みの日は何して過ごしているの?」
「鬼龍院学院って学食にフランス料理があるって本当?」
「鬼龍院学院の鬼龍院くんってめっちゃイケメンってきいたんだけど本当?」
「山田くんって鬼龍院くんと友達だったりする?」
しかも、めっちゃ質問攻めされた。
僕は聖徳太子じゃない。
こんな一気に質問されて、答えられるわけがない。
……というのは嘘だ。まあ、厳密にはできる。彼女達が話している事は、全て把握している。
この質問に答えていく事は余裕で可能だ。
だけど、ひとつ問題がある。
それは、僕が彼女達の名前を、まだ把握していないということだ。コミュニケーションを成立させる上で、名前は重要なファクターだ。
なのに彼女達ときたら、質問攻めにするだけで、誰1人名乗りはしない。
まあ、それは気にしないとしてもだ。
僕は彼女達に、どんな口調で答えを返していいのかが分からない。
あまり畏って返して『え〜山田くんノリ悪い〜』って思われるのも嫌だし。
軽く返して『山田くんってチャラい〜そんな人だったんだね』とか思われるのも嫌だし。
普通に返して『なんか山田くんって、思ったより全然普通でつまんない〜』なんて思われるのも嫌だ。
考えれば考えるほど、最適解が分からない。
だから、ここは敢えて、分からないフリをすることが最適解なのだ。
「ごめん、そんなに一気に話しかけられたら、分からないよ」
「だよね〜」
「ごめんね山田くん」
「じゃぁ、こんど2人っきりでゆっくり話そうよ」
「あ——っ! 抜け駆けずるいっ!」
「そんな事ないよね〜」
「じゃぁ、交代で2人っきりで話す?」
「じゃぁ順番決めないとだね〜」
「私が1番」
「え〜ウチだよ!」
「公平にジャンケンで決める?」
「折角だから山田くんに決めてもらおうよ」
「それがいいよね」
「山田くん、誰が1番?」
なっ……。
最適解だと思っていたのに、思わぬ落とし穴が待ち受けていた。
誰が1番って言われたら……そりゃ、倉科さん以外ありえない。
だけど彼女は、この会話に参加していない。対象外だ。
くっ……どうするべきだ。誰に決めるって、まだ名前すら知らないんだぞ!?
しかし、天は僕を見放さなかった。
予鈴が鳴り、一旦、事なきを得た。
これがゴングに救われたってやつか。
本当に助かった。
「モテモテだったね」
「……あ、なんか凄かった……ね」
って、なに? どういう事?
さっき迄、あんなにもフレンドリーに接してくれたいた。倉科さんが口を尖らせ、そっぽを向いてしまった。
その仕草自体は可愛いのだけど。
何事!?
僕……なんか嫌われるような事しちゃった?
授業がはじまっても倉科さんは教科書を見せてくれなかった。
「あの……倉科さん……教科書見せて欲しんだけど」
「モテモテだったじゃない。他の子に頼めば?」
え……何?
本格的に嫌われちゃったの?
でも、僕がもじもじしていると。
「でも、席が離れてるから無理だよね」
「え、うん」
「仕方ないから私が見せてあげる」
「ありがとう、倉科さん」
倉科さんは教科書を見せてくれた。
つーか……倉科さんとの距離が1限目よりも遥かに近い。
肩と肩が密着するほどの距離だ。
つーか、ページをめくると、それだけで肩が触れてしまう。
でも、相変わらず口は尖らせたままの彼女。
つまりこれは——どゆこと?
女心は複雑だと聞いたことがある。
なるほど確かにそうなのだろう。
世界最高峰の教育機関を、飛び級で卒業したこの僕ですら分からないのだから。
そんなことでも、考えていないと思考回路がショートしそうになるほどの、密着感だった。
そして僕の鼓動は、また最速記録を塗り替えるのだった。
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