第43話、アルトズーハ防衛戦

 俺たちは西の外壁へと走った。


 町の建物の隙間から、外壁の上で炎と煙が見えた。


 索敵スキルを外壁周辺と外へと向ければ、レッサーデーモンとアイ・ボールが50以上空を飛んでいた。


 外壁上の守備隊や冒険者たちを、紅蓮の火球や電撃、氷の槍で吹き飛ばしていた。


「予定より侵攻が早い!」


 俺たち同様、装備を整えていた冒険者たちが外壁西門へと駆けている。


 西門の上では、翼を生やしたレッサーデーモンが耳障りな奇声を上げて、魔法を放っていた。


 弓で対抗する兵士、魔法を放つ冒険者だが、ほとんどが威力不足や、あるいは避けられていた。


「くそっ、地上に降りてきやがれ!」


 わめく冒険者が、悪魔を挑発する。そこへ目玉の化け物アイ・ボールが、その冒険者を見た。魔力の光が瞬いた瞬間、その冒険者の体が硬直する。


 魔眼――おそらく麻痺だろう。強力なものだと呪いや石化もある恐るべき魔の眼だ。


 動きを封じられたその冒険者に、レッサーデーモンが石つぶてを投げつけた。ギャッと悲鳴が上がり、投石をくらった冒険者が倒れる。悪魔は嘲笑した。


 ふざけやがって!


 俺は異空間収納からドラゴンスピアを出す。見てろよ、こいつの威力ってのを見せてやる!


 槍を構えて、魔力を流し込む。邪竜の魔石が反応し、その穂先に魔力が収束する。


「喰らえよ、ドラゴンブレスっ!」


 槍から黒い魔力の塊が放射された。コラソン工房で作ってもらったドラゴンスピア。その魔力解放時、疑似ドラゴンブレスとも言える攻撃が発射される。


 それを空に向かって撃てば、野太く広がるブレスにレッサーデーモン数体とアイ・ボール数体が巻き込まれて、塵と化した。


 さらに前進。ブレスを見ただろう冒険者たちが俺を見たが、今は敵の排除だ。


「セア、ネージュ、援護を頼む! ドラゴンブレスを使う!」

「わかった」

「お任せください、ツグ様! 私が盾となり、必ずお守りします!」


 距離を詰めて、俺は再びドラゴンスピアを空に向けて放射。それを流すように動かす。


 ブレスを躱そうとしたレッサーデーモンやアイ・ボールだが、ブレスを広範囲にばらまくように動かしたため、射線に巻き込まれ、またも十数体が消し飛んだ。


「やるなぁ、ツグ!」


 フラム・クリムが邪竜弓を構えた。特製の矢を番え、発射! 


 バスン!


 レッサーデーモンが胸を貫かれて、墜落した。


「ナイスショット!」

「次!」


 新たな矢を矢筒から抜いて、フラム・クリムは素早く次のデーモンを狙撃する。ブンと風を切る矢が、移動するレッサーデーモンの翼を切り裂き、地面へと叩き落とす。


 その落ちたデーモンは、近くにいた冒険者たちにタコ殴りにされトドメを刺される。


「くそ、オレたちも負けるか!」


 空の脅威が減ったからか、冒険者たちが息を吹き返した。爆裂魔法で、アイ・ボールを吹き飛ばしたり、魔法槍を投げることでレッサーデーモンを地上に引き下ろしたり。俺もドラゴンスピアの第三射で、数体の悪魔を蒸発させた。


 ……空の敵は、今ので半分くらいになったな。このまま行けるのでは――


「ツグ!」


 セアの声。レッサーデーモンが一体、ダイブして突っ込んでくる。冒険者がすれ違いざまにデーモンの爪に引き裂かれて、血しぶきが舞った。


「こっちへ来る!」


 ドラゴンスピアを構えても、ブレスは無理か……!


「お任せを!」


 ネージュが俺の前に出て、レッサーデーモンの突撃をドラゴンシールドで防いだ。ぐっと力を込めて、踏ん張るネージュ。


 すさまじい衝撃だったはずだが、彼女は耐えた。逆にレッサーデーモンが地面に叩きつけられる。


 セアが二本のドラゴンダガーで、起き上がろうとしたレッサーデーモンの頭を突き刺した。脳みそをえぐられ、悪魔は絶命した。


「ツグ君!」


 プラチナさんの声がした。漆黒の重甲冑をまとい、大剣を持った暗黒騎士のようなのが早足で駆けつける。


「えっと……プラチナさん?」


 意外な姿だ。あのお美しいギルマスが、巨大剣を持つ暗黒騎士で現れるとは。


「遅くなったわ。状況はどうなっているの?」

「空からの先制攻撃です。外壁は――」


 俺は、ちらりと外壁上を見やる。魔法の集中攻撃を受けたようで、そこで戦っている者はほとんどいなかった。


「レッサーデーモンにやられました。西門裏は、見ての通りです」


 上からやられ放題になりかけたところを俺たちが駆けつけて、イーブンな状態に引きもどした。


 ふっ、とフラム・クリムの邪竜弓が、またも一体のレッサーデーモンを仕留めた。


 さすがドラゴン素材。オーガ上位種のパワーに負けない強弓だ。普通の矢の一発や二発では死なない悪魔でさえも、一撃で撃墜している。


 これは、フラム・クリムの腕がいいんだろうな。急所に一撃は効くぜぇ。


 彼女の使う矢は、俺が複製魔法で増やしたが、そろそろ補充が必要か。矢筒に入る量は限度があるからな。


 その時だった。凄まじい轟音が西門を砕いた。鋼鉄の門が吹き飛び、砕けた鉄片が周りにいた者を襲った。


 こっちに飛んできた鉄の凶器は、ネージュが盾で弾いた。こういう時のための盾だ。


「いったい何……?」


 プラチナさんが呟く。俺の索敵スキルが、それらの到着を告げる。


「敵が来ます!」


 西門が壊され、悪魔の地上部隊がアルトズーハに侵入してきた。スケルトン、グールが流れ込んできて、オークの部隊がそれに続く。


 空で注意を引いて、上に視線をとられたところを下から叩く。なるほど、いい作戦だ。


 西門裏で待機し、頭上の敵に対抗していた冒険者や守備隊兵が、突入してきた敵本隊に呑まれる。


 スケルトン兵の持った剣や斧で、死傷者が相次ぐ。正面からの戦いなら、それほど苦戦する相手ではないスケルトンだが、冒険者たちは対応が遅れたのだ。

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