第37話 拠点を作りたい
装備について追加の注文を済ませた後、俺たちはコラソン工房を後にした。俺はさっそく作ってもらった装備を、複製して予備を異空間収納に入れた。
予備用、保存用、予備の予備……。希少な装備だが、武具である以上、壊れることもあるからね。オーダーメイドだから、同じものをどこかで購入する、ということは不可能なのだ。
そして今日も冒険者ギルドへ。すれ違う冒険者たちは、俺とセアの新しいマントや鎧に興味津々だった。
「新しい装備かい?」
「それ、ドラゴンの素材?」
「すげぇ……」
立ち止まって声をかける者、遠くから羨ましそうな目を向ける者など。ちょっとした騒ぎになった。
「ドラゴン討伐の賞金注ぎ込んだからね。もうすっからかんさ」
ふだんは、こういうことは言わないのだが、俺は敢えて、聞いてきた冒険者たちに答えた。……もう、俺らを襲っても、金はありませんよアピール。ギルドの中心で金欠を叫ぶ、なんちゃって。
そうこう話しているうちに、ネージュらは掲示板にクエストを見に行った。俺は受付カウンターに行くと、ウイエさんが立ち上がった。
「こんにちは、ツグさん。ギルドマスターがお待ちです。先日の件で」
「ありがとう」
ということで、俺はギルマスの応接室へと通される。銀髪の見目も麗しいプラチナさんは、今日も凛々しかった。
「ポルトン村のクエスト、お疲れさまでした」
事務的な口調の時は、お仕事モードのプラチナさん。
「おかげでゴブリンは一掃されました。……あなたたちを襲った冒険者たちだけれど」
「はい」
俺は、襲撃してきた冒険者の件を、プラチナさんに報告していた。黙っていることもできたが、ギルマスには話を通しておくべきと判断したんだ。
冒険者同士の争いは、よほどのことがなければギルドが介入することはないし、殺生沙汰になっても言わない冒険者も多いんだけどね。
「出頭した冒険者は余罪を告白しました。彼の仲間はモンスターに殺されたと言っていたのですが……」
「はい。俺がそう言うように言いました。……ということは、彼はその通りに説明したんですね」
「非常に素直で、こちらとしても助かりますが……何があったんでしょうね?」
「仲間の死が堪えたのではないですかね。彼以外、全滅しましたし」
始末したのは俺たちだけど。だが、やらなきゃやられていた。それはプラチナさんも理解してくれていた。
「その仲間たちは死をもって償った、ということですね」
プラチナさんはカップをとり、お茶を一口。
「……さて、話は変わりますが、ポルトン村に拠点を構えることについて」
「はい」
テント暮らしでなく、きちんとした家が欲しいと俺は思っている。強い雨や風にさらされては、安心して寝ることもできやしない。
「町の中で、家を借りるとか、買うという手もあると思うのだけれど……」
「まあ、今回みたいに後ろから襲われるのは嫌といいますか、周りに迷惑かけたくないですから」
「上級冒険者を襲撃って、そうそうないことなんだけれど……。でも、実際に貴方たちは襲われたわけだし、否定できないのがギルドマスターとしては悲しいわ」
プラチナさんは目を伏せた。
「ポルトン村は魔獣によって滅ぼされ、廃村状態。その土地についてはアルトズーハの町を含め、この一帯を収めているトラート伯爵のもの、ということになっているわ」
廃村だから誰もいないのだが、だからといって何をやってもいいわけではない。
「それで貴方の提案にあった、あの廃村を拠点にするという話だけれど、伯爵様は面白い、と許可されたわ。今のところは貸すという形になるけれど、そこを魔獣狩りの拠点にするもよし、家を建てるのもよし、だそうよ」
「案外、早くまとまりましたね」
「私の姉が、伯爵の妻やってるからね。お屋敷をアポなしで訪ねても、お話が許されるのよ」
親族特権というやつらしい。妙なところで繋がりがあるものだ。
「それは別にして、あの廃村は、ゴブリンや魔獣が居つきやすい場所だから、監視所なりを置きたいという話は前々からあったのよ」
プラチナさんは微笑を浮かべた。……綺麗。
「ただ予算や人員がまとまらないまま、今に至っていてね。そこを強い冒険者がそこを拠点にしてくれるなら、領主としても人員や予算の節約になる。常時監視をしなくても、誰かが住んでいれば、魔獣が棲みつき難くなるわ」
要するに、俺のやりたいと言っていたことは、期せずして領主様にとっても渡りに船だったということだ。
「それで、何か必要なものはある?」
プラチナさんは聞いてきた。おや、それは――
「拠点作りを支援してくれるってことですか?」
「もちろん、個人の家ならギルドのお金を使うなって、冒険者たちに怒られてしまうのだけれど……拠点としてなら、多少は、ね」
つまり、その拠点の一部を休憩所なりに使いたいってことだろう。魔獣狩りの冒険者や、遠征中の中間拠点として。
金を出すから、必要な時は融通を利かせてくれ、というやつ。……スポンサーってやつは口出ししたがるものだ。
「うーん、今のところは、特に必要ないと思います」
俺は、支援をお断りすることにした。
「そんな大層なものを作るつもりはありませんし」
資材についても使えそうなものを複製魔法で増やして、調達できるものは現地で済ませてしまうつもりだ。足りないものは、アルトズーハの町で購入する。
「そう。困ったことがあれば、頼ってちょうだいね」
プラチナさんはそう言ってくれた。
さて、拠点作りである。何だか秘密基地作るみたいでワクワクしてきた。……秘密基地なるワードがどこから浮かんだかはさておいて。
応接室から出た俺は、執筆チートを使うべく手帳に書き込み。建築知識と技術……っと。これで魔法の時のように直感のように閃きながら正解を引き当てられると思う。
……そういえば、鍛冶とかも執筆チートでできるようになるんじゃないか? 他にも魔法で武具を作ったり、改造したりも。
思いついた時に手帳に書いておこう。後で、なんて考えていると忘れてしまうかもしれない。これで上手くいくなら、執筆チートは神能力だな!
仲間たちと合流した俺は、これから廃墟のポルトン村へ行き、拠点という名の家づくりをすると宣言した。
「許可が出たのですね!」
ネージュが顔をほころばせた。ヘイレンさんは首を少し傾ける。
「しかし、拠点作りと言っても人手は我々だけですよね……」
「テントよりマシならいいんじゃね?」
フラム・クリムは力こぶを作ってみせる。
「ツグ、力仕事なら任せろよ」
「頼りにしているよ」
俺は、自分たちのホームを作ることに、もう笑みが止まらなかった。気持ち悪いやつに見えたらごめんよ。
「まあ、大したものは無理だろうから、そんな期待はしないようにな」
現地に行く前に一部の建材や家具など、買っておこうか。
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