第38話 拠点を作った


 アルトズーハの町より南へ徒歩1時間半ほど。森を抜け、名ばかりの街道は平原に続き、廃墟となったポルトン村がある。


 なお、このポルトン村から北西に1時間半くらい行くとミデン・ダンジョンがあった。そのダンジョンからアルトズーハの町までは、およそ1時間と少しだったりする。


 廃村の住民は、数年前の魔獣襲撃で全滅した。無傷の建物はひとつもなく、屋根が一部でも残っている家自体、数軒ほどしかなかった。


 前回のゴブリンを討伐した際、雨宿りをした屋根付きの建物を拠点とする。


「見晴らしはいいな」


 壁が崩れているせいでもあるが。さすがにこのままでは家とは言えない。


「まずは、家の周りに壁を設置しよう」


 集落や村にも、魔獣除けに柵や石垣がある。今のポルトン村には、それがほぼ崩れている状態なので、外部からの侵入に非常に無防備なのだ。


 魔法――アース・コントロール!


 ゴゴゴッ、と地面から地面が持ち上がった。頭の中でイメージを固め、丘状を形成する!


「ええっ!?!」

「なな、なんだこれっ!?」


 ネージュとフラム・クリムが後ろで素っ頓狂な声を上げた。


 高さにして5メートルくらいか。で、この丘を壁に近い形に成形する。余分な土砂を撤去、撤去。特に外側は、魔獣などが登ってこれないように切り立った崖のようにする。


「すっげぇー! ツグっ、これも魔法か!?」

「し、信じられません!」

「まるで伝説級の魔術師の所業!!」


 フラム・クリム、ネージュ、ヘイレンさんの声。確かに、ここまでの魔法は俺も初めて使うから、びっくりするのはわかるけど。


 あと、そこらに落ちている岩のブロックから手頃なものを見つけて複製。これを大きくしたり、成形していく。大きなブロックなら、特に接着しなくても重みで動かないだろうが、小さいのを使う時は必要か。


 まあ、拠点周りの外壁はデカいのを複数使って二重、三重の厚みを持たせて上で、重ねて壁とすれば充分にだろう。人間なら、まず破壊は無理。角猪でも脳震盪を起こすレベルの外壁にしてやる!


 拠点から村の外側は土の壁と巨岩ブロック、村の内側、南北に通る街道沿いは、適当に巨岩ブロックで壁を形成しておく。


 数トンはあるだろう巨岩ブロックを浮遊させて、積み木のごとく積み上げていく。


「つ、ツグ様、そんなに魔力を使って大丈夫なのですか!?」


 ネージュが心配してくれた。そうねぇ……。


「大丈夫。とくに疲れたりしんどいってことはないなぁ」

「何という魔力量……」


 何だか神様を見るような目を向けてくる騎士姫様。セアは、ずっと黙っているが、俺が巨岩ブロックを移動させているのを興味深そうに見ている。心なしか目がキラキラしている。


「あー、ツグってバケモンだなぁ」


 フラム・クリムが自身の白髪をかいた。


「力仕事を任せろなんて言った自分が恥ずかしいわ。あんな巨岩、アタシでも無理だわ」

「ツグ様」


 ヘイレンさんが近くにやってきた。


「せっかくなので、拠点の補強や部屋づくりを、私たちで始めましょうか? ツグ様だけ働かせるわけにもいきませんし」

「そうだね」


 異空間収納に入れてきた木材などの建材や工具などを出して、並行して作業を進める。


 屋根となる部分は基本的に木材を使う。支える強度がないと天井が落ちてくるからね。重量に気をつけないといけない。


 いっそ壁も巨岩ブロックの厚さを半分くらいにして、そのまま家の壁に利用してもいいかもしれない。見た目が気になるなら、漆喰を塗り込めば、ぐっと家らしくなる。


 倒れない壁にするために地面を掘って地下からしっかり作っていかないとな。こう、ブロックを成形して――


 などと、やっていくと、半日で大まかな形ができた。家と定めた建物の庭先で火を起こし、晩ご飯である。


「案外、できるモンなんだな」


 フラム・クリムの言葉に俺は、作っていた肉入りスープをよそった。


「まだ家として見ると、全然だけどな」


 天井はあるが、壁はまだ空いたまま。家と呼ぶには不足過ぎる。まあ雨は問題なくしのげる。


「ですが、拠点の周りの外壁は、ツグ様のおかげで出来てますし」


 ネージュが俺からスープを受け取り、顔をほころばせた。


「魔獣の心配をしなくていいのは大きいですね」


 野宿より多少マシな家だが、外からの守りは、かなり確保できたと思う。


「家の完成度は上げていかないとな」


 住みやすい拠点にしよう。それぞれの個室も作っていきたいね。ベッドは買ってあるから、人数分複製できる。基本的な家具は揃っているが……。


「あとは魔道具を、家に取り入れたいな」

「魔道具ですか?」


 ヘイレンさんが首をかしげた。


「うん、たとえば魔石灯があるだろ? あれを各部屋に置いて光源にする。魔石は俺が複製すればいいから、常につけっぱなしにしてもいい」


 夜でも明るい。


「火を使う調理用の魔道具とか、あとは水を自由に出せる魔道具とか」

「え……」


 固まるヘイレンさん。ネージュは声を上げた。


「そ、そのような魔道具を、家に使うのですか!?」

「変かな……?」


 俺の頭の中で浮かぶアイデア。いや、確かに執筆チートを得る前だったら、考えつかないようなネタばかりだが。


「調理用の魔道具とか、聞いたことがなかったので」

「でも、照明用の魔道具とかはあるし、もっと日常の生活で使う魔道具があってもおかしくないと思う」

「ですが、魔道具は基本、お高いですから」


 苦笑するヘイレンさん。あ、なるほど。それには俺も納得。


「それに魔道具と言いますと、戦闘や旅など、危険な地に赴く者たちのもの、という印象が強いですからな」


 確かに。魔道具って基本値が張るから、一般人はあまり持ってない。冒険者などは、ダンジョンに行ったり魔獣と戦う都合上、中級以上だと珍しくはないのだが。


「でもまあ、そんな難しくないと思う」

「うん、ツグならできると思う」


 セアが同意した。フラム・クリムも笑った。


「そうだな、ツグができるって言うならできるわ」


 魔石があるし、何より複製できるのが大きい。魔法の時と同様、魔道具製作能力を執筆チートで獲得すればいけるだろう。


 ヘイレンさんは夜空を見上げた。


「こんなことを言うと、ツグ様に失礼極まりないのですが、私はもっと小さな拠点ができると思っておりました」

「……」

「まだ拠点の内装などはこれからとはいえ、すでに拠点周りの外壁などは、さながら砦のようです。これを一日足らずで作り上げてしまうとは……神の所業だと存じます」

「ヘイレンさん、それは大げさだよ」

「大げさ!」


 ヘイレンさんは、仲間たちを見回した。


「本当にそうでしょうか? 私だけでしょうか、そう感じているのは」


 彼女たちは揃って、首を横に振った。


 ……それはどっちの意味だ? 大げさだって意味か? それともヘイレンさんに同意か?

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