第36話 新装備ができた!
3日後に来てくれ、と言われていたので、俺たちはアルトズーハの町にあるコラソン工房へとやってきた。
ドワーフのコラソン、サイクロプスのピュグメーがいる。
「よう、待っておったぞ!」
ヒゲもじゃドワーフの武具職人は、俺を迎えてくれた。
「注文の品はできておる」
「早いな、さすがだ」
「ピュグメーの奴がとても張り切ったんじゃ。楽しくてしょうがないらしい」
邪竜や雷獣の素材なんていう、滅多にないものをふんだんに使えたのだ。サイクロプスの職人も大喜びだったようだ。
「これは外套、まあマントじゃ。邪竜の血と鱗、骨を特製の魔法薬で液体にして、染みこませたクモ布で作った。丈夫で、魔法にも強い。おまけに周囲との距離感を狂わせる効果まである」
「へえ、いいね。黒いのは邪竜素材がメインだからかな?」
これが、俺のとセアの分がある。
「金属じゃなくても、扱ってるんだなここ」
「ピュグメーの趣味じゃよ」
コラソンは鼻をならした。
「で、こっちは邪竜の鱗を使って作られたスケイルアーマーじゃ。金属部分はミスリルな」
竜鱗の鎧というらしい。少し服のようにも見えるが、印象どおり軽めだった。俺のレザーアーマーより少し重いくらいか。金属製のプレートメイルなどよりは断然軽いと思う。
これも俺用と、セア用の軽鎧が用意された。
「これは邪竜の鱗と雷獣の毛皮、そして雷属性の魔石を使ったサンダーバックラーだ。電撃に耐性がある上に、襲いかかってきた相手の攻撃を盾で防ぐと同時に痺れさせる効果がある」
コラソンは自慢げに説明した。自分が関わったものには饒舌になるのが職人らしい。
「むろん、ドラゴンの鱗じゃから防御も、生半可な金属盾より頑丈じゃ!」
「素晴らしい仕事だ」
俺は、さっそくサンダーバックラーを左腕にベルトで固定してみる。……うん、重さもほぼ前のと同じだ。おそらく敵の攻撃を一番受けることになる防具だ。ドラゴンの鱗が貼られているというだけで、頼もしさが半端ない。
「ここからは武器じゃ。こっちは嬢ちゃん用の邪竜の牙で作ったバトルダガー。ご希望どおり、ふた振り作った」
セアがドラゴンダガーをとる。ずいぶんと軽そうだ。金属部分はミスリル金属かな? これも相当なお値段になるだろう。
セアは手にとって確かめている。心なしかうれしそうだ。
「こちらの槍は、雷獣素材のサンダースピア。雷を放出することができる。こっちの黒い槍は邪竜素材のドラゴンスピアだ。お前さんのアイデアに従い、ドラゴンの魔石を仕込んだからの、本格ブレスほどではないが、疑似ブレス攻撃が可能じゃ」
槍だけでなく、魔法杖としても使えるということだ。敵をまとめて攻撃できる武器になるように、っていうこちらの注文を取り入れてくれた格好だ。
いいね、俺は満足だ。
「そしてお待ちかね。お前さんから注文された剣がこれじゃ」
コラソンは一振りの剣を持ってきた。青みを帯びたその剣はミスリル製か。剣の柄の部分には雷獣の魔石を加工した宝玉がつけられている。
「サンダーブレード」
俺は握りに触れる。宝玉に触れ、魔力を流すと、剣の刃が電撃をまとい、紫色に輝いた。
「おおっ」
後ろで見ていた仲間たちが、驚きの声が上がった。電気をまとう剣は、さながら光剣だった。
「素晴らしい剣ですね」
「神々しいぜ……」
ネージュとフラム・クリムが目をキラキラさせている。
コラソンは言った。
「剣自体もミスリルと邪竜素材を合わせたもので切れ味抜群じゃ。これに雷の魔石のよる魔法効果が加わって、刹那で焼き切って威力もさらに上がる!」
「完璧だ……!」
俺は宝玉に触れて雷を止めると、ドワーフの職人に握手を求めた。
鑑定してみても、これが特上の仕上がりであると証明してくれた。頼んでよかった仕事ぶり。たっぷり報酬を支払おう。
「いい仕事をしてくれた」
「なあに、こっちも楽しかったぞい。また何か面白い素材があったら持ってこい」
「うん、その面白い素材はまだなんだが、次の仕事を頼めるか?」
俺は、後ろにいるネージュ、ヘイレンさん、フラム・クリムを指し示した。
「うちのパーティーメンバーなんだが、作れるか?」
「素材があればな。あるのか?」
フラム・クリムが工房を覗き、そこにいたサイクロプスの職人に「うおっ!?」とか言って驚いていた。
「ある」
複製で増やした分がね。仲間うちの装備として利用する分は増やした。
「貴重素材以外は、うちで調達するわ。そこは割高になるじゃろうが」
「それは仕方ない」
俺が言ったら、端で聞いていたネージュが慌てた。
「い、いえ、ツグ様! そんないけません!」
え、何かダメなことしたか……?
「ただでさえ、お世話になっているのに、私たちのために装備を作ってもらうなんて!」
「いいでしょ? ドラゴン素材の装備」
あ、ネージュにとってはデビルドラゴンは国に災いをもたらした敵だから、それを使った装備は嫌だったか?
「もちろん、ツグ様が手配してくださるなら大変光栄ですが、お金が……」
「そうです、ツグ様」
ヘイレンさんも言った。
「この手の装備は大変高額。我々にはそれを自前で買う資金はございませんし、かといってツグ様が出してしまわれては、御恩ばかり増えて、お返しすることができません」
うーん、まあ、それもわかるんだけど。しばらく一緒に行動するとわかっていて、俺とセアだけ上等なものをつけて、残るメンバーがそこらのグレードの低い装備というのは、ちょっとな……。
ネージュは元王族だけあって、鎧もミスリル製。武器は魔法剣だから、無理にドラゴン素材の装備はいらないだろうが、ヘイレンさんとふつうのショートソードにバックラー、チェインメイルと基本的構成だし、フラム・クリムにいたっては、ほぼ拾いものの貧弱防具だ。
「アタシは欲しいぞ、いい装備」
フラム・クリムは工房にいるサイクロプスに手を振って、反応を見ながら言った。ネージュは目を剥く。
「フラムさん! あなたはもう少し遠慮というのも――」
「そりゃ、あんたはいい装備持ってるからな。でもアタシは、正直借り物だから気持ち悪くてたまらない」
「でも、それだとツグ様にだけ出させてしまうことに……」
「その分は、ツグの役に立つことで返すさ」
フラム・クリムは堂々を胸を張った。
「ぶっちゃけ、アタシはツグといるつもりだ! オーガであるアタシを受け入れてくれたってだけでも充分なのに、ここ居心地いいからなぁ」
いわゆる出世払いってやつか。話を聞いていたコラソンが眉をひそめた。
「なんじゃ、お前さん、オーガなのか!?」
ああ、と頷くフラム・クリム。俺は補足した。
「上位種族のな。大丈夫、人は食べないよ」
「ほーん……ま、うちのピュグメーを見て動じないなら、似たようなもんじゃろ。で、どういう装備が欲しいんじゃ?」
希望を聞くと、フラム・クリムは「防具!」と即答した。
「胴体を守る防具がな。軽いんだけど防御力ねえし。あと、アタシ角があるから、それを誤魔化せる兜も欲しいな」
「武器は?」
「金棒あるけど、近接用に刃の短めの剣があるといいな。あ、あと弓とかあれば欲しいな……でもこれは贅沢、か?」
ちら、とネージュのほうを見るフラム・クリム。一応、遠慮しているつもりらしい。俺は考える。
「弓か……」
いまのメンバー構成を考えると投射攻撃が、ほぼ俺の魔法だけ。弓持ちは、射撃戦になった時に頼りになるだろう。
オーガが使う弓なら、盾ごとぶち抜きそうだ。カバーする前衛には盾持ちのネージュがいるし。あ、そういえば盾!
「コラソンさん。彼女に弓が欲しいがアイデアはあるかい?」
「ちょうどドラゴン素材があるだろう。あれなら、簡単には壊れんものが作れるだろう」
「それと、ネージュ。君の盾、結構ガタがきてるようだから、作ってもらおう」
以前、オーガと戦った時に盾がへこまされてた。恐るべきはオーガのパワーというところだ。
「盾は大事な防具だからな。どうせ新調しないといけないんだ」
「そうですね……。ではお言葉に甘えて」
ネージュは頷くと、すっと俺のそばにきて耳元で囁いた。
「このお礼もいずれお返しいたします。何なりとお申し付けくださいね」
何なりと? つまり何でもか? 俺は柄にもなくドキリとしてしまった。
ああ、それはともかく、コラソンに刀の製作も頼んでおく。ヘイレンさんは何も言わないけど、作ってもらう。いずれ、何かの役に立つだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます