第31話 襲撃してくるかな……?
「野宿……か」
フラム・クリムは焚き火を前に言った。
アルトズーハの町の外。昨日の野営地に天幕を張って、キャンプである。
「悪いな、フラム。実は、俺たちもちょっとした理由で、町の宿を避けているんだ。あなたがオーガだからとか、そういう理由じゃないから誤解はしないでほしい」
「理由というのは?」
「先日、俺たちは、ダンジョンでドラゴンを倒したんだ――」
その結果、莫大な報酬を得た。それを狙う不届き者が、ちらほらいるようなので、町の外にいるというわけである。
「返り討ちにすればいいんじゃないか?」
「まあ、宿で寝込みを襲われるとか、他の人に迷惑はかけたくないからな」
今日の晩餐は、ブラッディウルフの肉を使った串焼き。食材や調味料を色々買ったから、本格的に取り組んでもいいが、きちんと家があるところでやりたい。野外だと、やれることに限界があるのだ。
「それに、ここなら、サンドルが攻めてきても、誰も巻き込まないで済むだろう?」
「ああ、邪魔が入らないって意味ならそうだな!」
フラム・クリムはうなずくと、早速、串焼きに手を出した。豪快にかぶりつく。一方のセア、ネージュもそれぞれ串焼きをとって狼肉をかじる。
「独特の風味がありますね……」
ネージュが心持ち眉をひそめる。フラム・クリムは――
「そうか? 旨いぞ、これ」
「血の風味」
セアの言葉に、そうそれ、とフラム・クリムは頷いた。
「アタシはこれ好き」
肉食のオーガは、血の風味が強いのが好みかな。それはさておき、サンドルである。
「あのオーガは、ここに来ると思うか?」
「そうさなー」
フラム・クリムは首をひねった。
「ダンジョンなら足がつきにくいから襲いやすいってのはあるけどな……。でもどうだろ、ここ何もないし、やりやすいかもしれねえ」
周囲へと視線を向けるフラム・クリム。今夜は雲が多く、いつも以上に暗い。テントは張っているが、魔獣が徘徊しているような場所だから、心細さってのもあるだろう。
俺の索敵は、周囲に危険生物がいないことを知らせてくれているけどね。
「仕掛けてくるなら、俺たちが寝静まる頃かな」
雨とか降らないといいけど。……きちんと屋根のあるところで寝たいな。雨風が強いとテントだと心許ないし。
「フラムさん、聞いてもいいですか?」
「なんだい、ネージュ」
軽い調子で返すフラム・クリム。ネージュは丁寧な口調で言った。
「サンドルは、あなたと血縁関係にあると聞きましたが、その……襲撃してきた場合、殺してしまうこともあると思うのですが」
「ああ、いいよ。言わなかったっけ?」
本当に軽いぞ、フラム・クリム。
「あいつ、アタシを殺そうとしたんだぜ? 前々から嫌いだし」
「ちなみに、サンドルって魔法使うみたいだが、強いのか?」
俺は質問した。フラム・クリムは「うーん」と考える。
「殴り合いなら、アタシのほうが強いと思うんだけどなー。魔法? 術に関しちゃあ、アイツは一族でも結構有名だから、そっちで来るとなぁ」
「魔術師系か」
「あ、でも普通に殴り合いでも、人間よりは強いぞ。あんな見た目でも、たぶん人間くらい軽くミンチにできると思うぜ」
「オーガの上位種って凄いんだな」
「おう、凄いんだぜ!」
一族が褒められたと思ったのか、フラム・クリムは笑顔になった。
まあ、こりゃあ、相当引き締めて掛からないと危ないな。そんな相手に狙われることになっちまったのは不幸ではあるが、さっさと片をつけたいよな。
・ ・ ・
深夜。交代で睡眠をとりつつ、一夜を過ごす。雲はだいぶ少なくなり、時々、月明かりが降り注いだ。
「……セア」
俺が小声で呼べば、すっとセアが目を開けた。寝ていたと思えないほどの反応のよさである。
「ネージュを起こして。……ヘイレンさん」
テントの外で見張りをしていたヘイレンさんが身構える。その間に、セアがテントの中で雑魚寝状態のネージュとフラム・クリムを軽く叩く。
「ネージュ、フラム」
「……うーん」
「あぁ?」
こっちはよくお休みだったようだ。俺がテントの外から中をちらと見ると、ゴロンと一回転してフラム・クリムが起き上がると「来やがったか?」と臨戦モードのお顔になった。
「団体さんのお付きだ」
サンドルと、他にも魔獣が十数体。そのほとんどがグレイウルフだが、岩のゴーレムが三体、さらに鷲の頭と翼を持ち、獅子の体を持つグリフォンが四体いた。
「オーガはいない」
敵はこちらを包囲する動きを見せている。
「ほら、ネージュ起きて」
セアが、中々起きない女騎士をペシペシと叩く。それでようやくお目覚め。
「おはようございます……」
「おはよう。武器を取れ、敵だ」
俺が言うと、ヘイレンさんが近くにきた。
「包囲されるのはよろしくないですが、作戦はありますか? ツグ様」
「俺が魔法で数を減らす。それまで俺を守ってもらっても」
「わかりました」
ヘイレンさんは疑問を挟まず、頷いた。信頼してくれてるのがわかって、俺もちょっと嬉しい。
「数が減ったら、打って出て各個に撃破。それで行こうと思う」
「いいぜ、ツグ。それで行こう」
というわけで、まずは数を減らそう。目視はしていないが、索敵で敵の位置と動きはわかっている。
「まずはスリープ」
睡眠魔法を、ゴーレム以外に使用。うん、狼どもの動きが止まり、グリフォンは鈍くなったか。サンドルは先ほどから動いていないので、効いているのかわからないな。
「続いてアーススパイク!」
地面から突き出す岩のトゲが、標的を串刺しにする! 狼どもの反応が、一挙に消えた。これで敵は半分以下。グリフォンは……まだ生きてるな。それどころか飛び上がったか。
「テントから離れろ! 突っ込んでくる!」
一頭のグリフォンが急接近。俺たちは急いでテントから散った。数秒後、巨大なグリフォンがテントにのし掛かり、そのまま押し潰した。
「凍れ! スノーホワイト!」
ネージュが魔法剣で、テントを踏みつぶしたグリフォンを刺し、そこから凍結の魔法を流し込んだ。
「ナイスだ、ネージュ!」
よし、じゃあ、俺は残るグリフォンに、サンダーボルト!
雷がほとばしり、岩のトゲでダメージを負っていたグリフォン二体を貫いた。
「残りはサンドルとゴーレム三体!」
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