第32話 サンドルを倒せ
寝込みを襲ってきたオーガ上位種のサンドル。今回は魔獣を使役してきたわけだが、俺の魔法で、その戦力の大半を片付けた。
あとはサンドルと、ストーンゴーレムが三体を残すのみ!
『それで勝ったと思うなよ、人間!』
サンドルの声がはっきりと聞こえた。
遠くから岩の塊が飛んできた。とっさに横っ飛びで回避。投石機で打ち出すようなデカい岩だ。当たれば即死間違いなし!
「サンドルっ!」
フラム・クリムが叫び、突進した。セア、ヘイレンさんもその左右につく。
そこへ立ちふさがるは、岩で構成されたゴーレム。高さは2.5メートルくらいで、肩幅が広く、見た目からしてパワータイプだ。
『そいつらは、オーガのようにはいかないよ!』
またもサンドルの声。魔法なのかな、これ。
『お前たちの武器は、こいつらには通用しない!』
そりゃ岩相手じゃ、刃物じゃ相性が悪いだろう。
「ふん、じゃ、とことんぶん殴る!」
脳筋じみたセリフで、フラム・クリムが金棒を、手近なストーンゴーレムに叩き込む。
バキリ、とゴーレムの表面にヒビが入る。しかしゴーレムも黙ってはいない。その巨腕を振り回してのパンチ! フラム・クリムは下がってそれを避けたが、ゴーレムパンチは地面を穿った。
ならば、お助けしましょ。俺は浮遊の魔法をストーンゴーレム二体にかける。ふわり、と地面から浮いたゴーレム。その二体をお互いに高速で激突させる!
岩の破片が飛んだ。しかしまだ、全面崩壊とはいかず。
「なら、もう一発!」
ごっつんこ! 激しく衝突。しかしヒビが走れども、まだまだ本体は無事だ。想像より固かった。
『フフン、思いつきはよかったけど、それまでだったみたいだね!』
サンドルの声は笑いやがった。……じゃあ、こうだ!
俺は浮遊で持ち上げているゴーレム二体を、三体目のゴーレムに立て続けにぶつけた。さながらゴーレム本体が凶器。パンチを交互に繰り出すように、ゴーレム同士をぶつける。この岩の玩具がバラバラになるまで、殴るのを、やめない!
『ちょ、おま……』
自慢のストーンゴーレムがグズグズに形が崩れ、もはやただの岩になった。
「残るはてめぇだけだ、サンドル!」
フラム・クリムが、サンドルに金棒を振り上げた。直撃すれば即死だろう一撃は、しかし届く寸前、サンドルの放った衝撃波によってフラム・クリムごと吹き飛ばした。
「……!」
セアが一気にサンドルの懐にまで接近する。あまりの速さに、オーガ少年が目を見張る。
ガキン!
セアのラン・クープラの刃が、サンドルの寸前で止まる。見えない壁に弾かれた。
「僕が防御の結界をしていないとでも!」
……じゃ、その結界とやらを解除。
俺が解除魔法を試みる。すると止まっていたセアの刃が動き、サンドルの体を斬りつけた。
「ぎゃっ!?」
鬼の血が飛んだ。セアはすかさず次の斬撃を繰り出す。サンドルはたまらず下がる。
「馬鹿な、僕の結界が……!」
少年だった体が肥大化、大鬼の姿に変わる。
『ボクを斬りツケタナァー!!! 小娘ェーー!』
丸太のような拳が襲う。しかしセアはすぐに後退し、恐るべき剛腕は空を切った。
そこに――
「その大振り、もらったぁーっ!」
フラム・クリムが金棒を横薙ぎに振り回した。大鬼サンドルの首から上がボールのように飛んていった。
えぇぇ……。死ぬわあれは。
大鬼の体が地面にズシンと突っ伏した。ああ、少年だった体がこんな化け物みたいになって。
『ユルサナイ……! ゼッタイニィ!』
「おや?」
幻聴かな? サンドルの声が聞こえた。頭と胴が分かれたんだ。普通死ぬだろ……?
『お前タチ……今度は絶対に――ギャっ!!』
サンドルの声が途絶えた。何だったんだ、今の?
俺は周囲を見渡すと、ヘイレンさんが剣先に丸い何かを刺してやってきた。
「鬼というのは、確実にトドメを刺さないと、案外生きていると聞いたことがあります」
サンドルの頭だった。頭を貫かれ、さすがにこれは生きていないだろう。
「ナイス、ヘイレンさん!」
これで、終わったかな? サンドル絡みの問題は。
・ ・ ・
「狼九頭、グリフォン二体、ゴーレム三体……? 凄ぇなツグ」
フラム・クリムは、セアと一緒に魔獣の死骸を見下ろしながら言った。残り一体のグリフォンはネージュがトドメを刺した。
「うん、ツグはすごい」
セアがコクリと頷いた。
「サンドルに攻撃が通るようになったのも、ツグのおかげ」
「マジか!? ツグは結界まで消せるのか! そういや、あのゴーレムを持ち上げてぶつけたやつ、アタシも度肝を抜いたぜ!」
ゴーレム同士を武器代わりにぶつけまくったやつな。
「ゴーレムは岩でできていたから、お手上げ」
セアが言った。同じ巨体を誇るオーガでも、あれは急所をつけば何とかなる。しかし全身岩であるゴーレムには難しい。
フラム・クリムは腕を組んだ。
「そうさなぁ、あれを砕くって、できなくはないけど、ふつーはゴーレムだって動き回るから、簡単じゃねーわな」
一応、コアを破壊するという弱点もあるにはあるが。
「ま、何にせよ、もうアタシを狙う野郎はいなくなったーっ!」
フラム・クリムはノビをしながら万歳した。
「アタシは自由だー!」
「うん」
よかったね、と言いそうな顔になるセア。子供な体型の彼女と、大女であるフラム・クリムでは、親子みたいに見えなくもない。
自由か……。俺は頷いた。
「フラム、あなたはこれからどうするんだい?」
「ん? どうするって?」
「命を狙ってくる奴は返り討ちにした。とりあえず逃げるって話だっただろ?」
「あー、そうか。そうだったな……」
自身の白髪をかくフラム・クリム。
「そうは言っても、何かしたいことがあったわけじゃねえしなぁ……」
ちら、と俺のほうを見る彼女。まるで『仲間になりたそうな目』をしている。当面の危機のことが頭にあって、その先のことは考えていなかったのだろう。
「じゃあ、しばらく俺らと冒険者でもするか?」
こっちは人間社会だから、別種族には若干生きづらいところはあるんだけど。フラム・クリムは一族から追放された身だし、他に頼れる者がいないなら、故郷にも戻れないし。
「いいのか……?」
ばつが悪そうな顔をするフラム・クリムである。セアは首肯した。
「ツグがいいなら、いい」
彼女の答えは決まっている。……嫌なら嫌って言ってもいいんだぞ、セア。
後はネージュとヘイレンさんか。
「ツグ様がそれでいいなら、私も構いません」
ネージュはそう言って、少し視線を下げた。
「正直に言いますと、最初はオーガって大丈夫なのかなって思ったのですが、短いながらも一緒にいて、普通にお話できるなって感じましたので」
「それを言うならアタシも、この人間たち大丈夫かなって思ったぜ!」
あはは、とフラム・クリムは笑った。
種族違い、どちらかと言えば敵対的な関係にあるから、何も思わないわけがないということだ。……いやはや、今さらながら、俺もよくフラム・クリムに声をかけたもんだ。
「私も、皆様が同意するならば異論はございません」
ヘイレンさんも了承したので、正式にフラム・クリムが俺たちの仲間になった。
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