第29話 ワケありオーガたち
変異種オーガの残る一体が俺へ殺意を漲らせて吼えた。
相棒がやられて頭にきたか? 悪いな、こっちも仕事なんでね。
俺は残る変異種に挑む。オーガ変異種は金棒を地面にぶち当てると、それを振り上げた。砕かれた岩の欠片が散弾となって俺を襲う。
「防御障壁!」
ガン、ガン!
ずしりとした衝撃。しかし障壁が阻止! そして肉薄――
「断頭――」
ザン!
オーガ変異種の首が飛んだ。二体目だ、オラァ!!
残るオーガどもは――俺は視線を巡らせる。
通常オーガが一体、すでに倒れていた。セアが次のオーガにとびかかり、側頭部に刃を突き入れた。
耳の穴に手ならぬ凶器を突っ込んだ結果がこれである。比較的、頑丈なオーガといえど、耳の奥を鍛えることはできない。
小柄な少女が、大男以上の体躯を誇るオーガを仕留めていく……。格好いい!
一方、オーガの一体がネージュに襲いかかる。しかしこれをヘイレンさんが阻止。鈍重だが凶暴な棍棒を、うまく避ける老戦士。
立ち直ったネージュが魔法剣スノーホワイトで、オーガの横手から切りつける。
「舞えよ、白雪! 我が敵を凍らせよ!」
魔法剣から冷気が溢れる。それはたちまち、オーガの半身を凍らせ、その動きを封じる。
こちらも大丈夫そうだ。残りは……っと、俺の視界に、例の白髪のオーガ娘と、それに向き合う白髪の少年型オーガが見えた。
消えたと思ったら、そこにいたか!
と、少年型オーガは手に刀を持ち、オーガ娘に向けていた。こりゃ本当に仲間割れってやつか。
じゃ、ちょっくら邪魔してやりますかねぇ!
俺はオーガ変異種が落とした金棒を拾った。……ってぇ、こいつは重いわ。なんちゅう鉄の塊! オーガサイズだけあって、短槍くらいの長さだが極太だ。
普通なら持ち上げることも難しいだろうそれを持ち上げ、踏ん張る。パワーMAXを舐めんなよ! いざ、投擲っ!
ビュンっ!
飛翔する金棒。少年型オーガに真っ直ぐ飛んだそれは、そのなかなか整った顔を側面から潰し――
ガシャン、と壁に金棒がめり込んだ。なんてこった、避けられた!
「うるさいなァ、人間!」
オーガ少年の視線が俺へと向く。涼しい顔して殺意に、ビクっと一瞬背筋が凍る。
が、せっかくだ、理由は知らんが拘束されているオーガ娘の鎖を魔法で切り落とす。するとどうなるか?
オーガ娘が目の前の少年型オーガに飛びかかった。そりゃそうだ。何せ殺されかけてたんだからな! 俺の予想どおり、仲間割れ加速!
その間に、もう一本の金棒を広い、オーガ娘の背後に迫った一体のオーガに。
「投擲っ!」
グシャリ、と金棒がオーガの顔面にヒット! 頭が潰れた大鬼がぶっ倒れた。
さあ、これで残りは上位種オーガの少年と娘のみ! オーガ娘は壁にめり込んだ金棒を引き抜くと、それを少年型オーガに叩きつけた。オーガだけあって、あれで筋力とか人間離れしている!
「邪魔が入ったなァ!」
オーガ少年は、金棒を回避すると指先を動かし、何やら魔法を発動させた。するとオーガ娘の膝がガクリと折れ、その場に倒れ込んだ。
「お前の始末は、また今度だ。……次は必ず殺してやる! 人間! お前もだぞ!」
そう言い残して、少年型オーガは消えた。転移魔法か!? 凄ぇな!
感心している間に、残っているのはオーガ娘だけになった。金棒を支えに立ち上がろうとしているが、足が動かないようだ。魔法の効果かもしれないな。
他のオーガと比べると小さく見えたが、人間としてみると長身だ、この人。
鑑定っと。フラム・クリム。オーガ上位種。呪われ姫――え、またお姫様ってか?
俺は鑑定結果に戸惑う。よくわからないが、同族から殺されそうになっていたというのは『呪われ』って部分が影響しているんだろうな。
しかし、どうしようなこれ。
「ツグ」
他のオーガを倒したセアが、視線をオーガ娘――フラム・クリムに向けた。それは『始末』するか確認をする目だ。
オーガであるなら、倒してしまっても問題はない。何せ向こうは、人を食い、襲いかかってくるからだ。冒険者的にいえば、クエストで討伐対象になる魔物ではある。
ただ、上位種のオーガはまた別なんだよな。
俺の長い冒険者歴から言えば、先ほどの例もある通り、人語を解して交渉が可能。他の亜人種族と同じ、襲ってこない限り、スルー推奨なんだ。
あの少年型は、オーガをけしかけ俺たちを襲わせたので倒してしまっても問題ないが、こっちの娘は、まだこっちに敵対する意思を見せていないんだよな。
「……」
なお、凄い目で睨まれているが。警戒されてるんだろうな。特に今、彼女は満足に動けないようで、こういう隙をついて上位種を倒してしまおうなんて考える、不埒な冒険者もいなくはない。
「ツグ様!」
「あー、ネージュ、剣を向けないでやれ。警戒しているだけだから」
とりあえず、経験則にのっとり、彼女のことはスルーしよう。
「オーガの討伐証明を回収して、さっさと帰ろう」
目的は果たしたんだ。俺の言葉を受けて、セアは構えていた両手を下ろした。
「わかった」
非常に素直なセアである。何だか今にも吠えてきそうなフラム・クリムに近づかないように、オーガ変異種と通常オーガの遺体を回収、異空間収納に放り込む。ついでにクソ重たい鉄の塊である金棒や、石の棍棒なども拾っておく。
「それにしてもセア。オーガを三体も倒したのか。凄いじゃないか!」
「ううん、変異種には歯がたたなかった……」
どこかしょんぼりしたように見えるのは気のせいか。ネージュがやってくる。
「まったくです。変異種の防御力はまるで鋼のようでした。でも、ツグ様はそれを簡単に貫いてしまって……さすがです!」
「ツグ、すごい」
「お、おう。ありがとう」
なお、ショートソードは二本ともガタがきてしまったがな。強化魔法は予めかけたが、そうでなければ、やはり切れなかったんじゃないかな。予備はあるが、もう少し複製しておこう。10本くらい用意しておけば、さすがに大丈夫だろう。
近場を見回っていたヘイレンさんがやってきた。手には複数の小物やら武器やらがあった。
「オーガにやられた犠牲者の遺留品です。ランクプレートも回収してきました」
「ありがとう、ヘイレンさん」
「いえ。このようなことしかお役に立てず……。しかし、変異種の首を両断した技……。さすがですな、ツグ様。見事な一太刀でした」
「いやいや……。あなたも、ネージュが飛ばされた時、よくカバーしてくれた」
「その通りです、ヘイレン。ありがとう、助かりました」
「もったいなきお言葉」
一礼するヘイレンさん。さすが護衛の鑑。俺も安心して戦えるってもんだ。
「それでは、地上に戻りますか?」
「戻ろうか」
同意。長居はしたくない。
「ちょちょ、ちょっと待て!」
不意に女の声。例の白髪のオーガ娘が、こちらに手を伸ばした。
「お、お前ら、アタシをこのままにしていくつもりか!?」
「え、そのつもりだったけど?」
俺は、ヘイレンさんや仲間たちと顔を見合わせる。
「俺たち変異種オーガの目撃例があったからきただけで、上位種オーガは関係ないんだ」
「ま、ま、ま、待ってくれ! さすがにこの状態で放置されると、アタシは殺される!」
フラム・クリムは土下座するように頭を下げた。
「恥も外聞も捨てて言う! すまないが、助けてくれ! この通りだ!」
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