第28話 オーガを探せ


「指名依頼とはね……」


 俺はウイエさんからもらったクエストを思い出す。


「ギルドからご指名とは、さすがツグ様です」


 ネージュが言えば、ヘイレンさんも同意した。


「それだけ頼りにされている、ということですからな」

「そうなんだろうな……」


 邪竜を討伐した功績は認められているということだろう。セアがこちらを見る。


「ツグ、依頼内容は?」

「ダンジョンに変異種のオーガが現れたらしい。それを探して、討伐してくれってさ」

「変異種、ですか……」


 怪訝な顔になるヘイレンさん。ネージュが考え深げに顎に細い指を当てた。


「オーガといえば、鬼族ですよね?」

「人食いの大鬼だね。概ねパワー系で、その腕力は人間の比じゃない」


 正面から殴られたら、普通は人間のほうが命を落とす。


 魔獣ランクは下級だとCくらい。ただ上位のオーガになるとB、場合によってはAもあり得る。


「今回は変異種……要するによく知られている奴らとは違うタイプかもしれないってことだ。かなり手強いだろうね」


 俺たちは町を出てダンジョンに向かう前に、食料の買い出しと、道具類の購入、補充をした。


 そして念願の羊皮紙と羽根筆、インクを買った!


「紙と筆、ですか……?」


 ヘイレンさんも、ネージュも怪訝な顔をする。まあ、冒険者にはあまり縁がないからね。


 いやあ、お金があるっていいなあ。以前の俺だったら、冒険者として必要なものしか見なかったし、買わなかっただろう。


 小説書きたい、でウズウズしている心の声をなだめ、さあどんなものを書こうかと考えながら、ネタ探しも兼ねてダンジョンへと行った。もちろん、油断はしない。


 ミデン・ダンジョン。前回来ているが、今回は違うルートで行こう。例によって索敵とオートマップで、ルート選びは問題なし。


 モンスターとの遭遇を最低限に絞り、ネージュやヘイレンさんの動きを見る。パーティーを組んでいるわけだから、どれくらい戦えるかを把握しておきたいのだ。


 ちなみに、二人の冒険者ランクはD。でも内に秘めた能力では、もっと上のランクでもおかしくないんだよなぁ……。特にヘイレンさん。


「セア殿の動き、とても素早いですね」

「まったくですね、ヘイレン。セアさんに狙われたら、並の魔物は逃げ切れないのではないでしょうか」


 遭遇したゴブリンをあっという間に距離を詰めたセアの一閃。二人は、セアのスピードに感心しきりだった。褒めの言葉が聞こえているのだろう。顔を合わせないまでも、セアの頬がほのかに赤く見えた。


 一方、ネージュの戦いぶりは堅実だ。カイトシールドで守りながら、魔法剣による攻撃。だが、この攻撃が強い。ゴブリンの粗末とはいえ盾や棍棒を、その体ごと一刀両断にしてしまう。


 盾を構えての攻撃だから、若干振りが大きくても隙が少ない。セアのようなスピードと的確な急所をついてくる相手ならともかく、普通のモンスターではその守りは崩せなさそうだ。


 ヘイレンさんは可もなく不可もなしといったところだ。セアとネージュが前衛を張っているので、雑魚相手では出番がない。


 ただ、俺の見たところ、この人は全体の動きをよく把握していて、それに合わせてポジショニングをしているようだった。さすが、お姫様の護衛をやっていただけはあると言ったところか。


 それに、鑑定スキルで見たところ、この人、得意武器に『刀』ってあるんだ。それもその使い手としての技量も高いときた。……何で刀を持ってないんだろ、この人。ひょっとして旅費のために手放したのかな……?


 それはともかく、肝心の変異種オーガの捜索だが、そいつがどこにいるか彷徨うことはなく、俺の索敵で居場所は突き止めた。……突き止めたんだが。


「……ちと、厄介だな」


 近くの岩に隠れて、様子をうかがう俺たち。ヘイレンさんも厳しい顔。


「あの赤いのが変異種ですか?」

「そうだ」


 鑑定によると、オーガ赤、変異種だそうだ。並のオーガよりひと周り体格がよく、パワーも二倍以上らしい。ランクではAクラスとの鑑定結果。


「それが二体もいるなんて……」


 息を殺しつつ、ネージュが言った。


 そう、俺たちは目的とおぼしきオーガを見つけた。だが一体だけではなく、変異種二体、通常オーガが五体。


 数でも相手側が有利だ。


「ここで何をしていると思う?」

「食事中……だけではありませんな」


 オーガどもは何かの肉を食らっている。そこらの魔物の肉……と、こいつらオーガは人肉を食う。つまり、そういうことだ。不幸な冒険者のものかもしれない。


「何かを待っている、ようにも見えます」


 ヘイレンさんの意見に俺も賛成。赤オーガの一体、その奥に、膝をついている人型がいる。


 白髪の娘。人間サイズで、オーガにはとても見えないが、額に角がある。上級のオーガには、見た目人と変わらないオーガもいるって話を聞いたことがある。


 事実、鑑定によればオーガ・上位種だそうだ。……なんで、その上位種オーガ娘が、後ろ手に鎖で縛られているのかは不明。


「仲間割れ、でしょうか?」

「下位種に反逆された上位種って可能性」


 俺はどうしたものかと考える。変異種討伐が依頼内容だ。連中が集団となると、ダンジョンを探索する冒険者に被害が出るおそれがかなり高い。


 だが想定より規模が大きいゆえ、一度引いてギルドに報告する手もある。……あったのだが。


「……どうやら、こっちがバレたっぽい」

「はい?」


 俺の索敵が、俺たちがやってきたルートからやってくる別のオーガを捉えた。しかも急に現れやがった!


「おや、気づかれたのかな?」


 流暢な人間の言葉が聞こえた。オーガ上位種――白髪の少年型オーガが現れた。


「ニオイがしたから、もしやと思ったけど、まあいいや。ほら、オマエたち! 新しいエサだよ!」


 少年型オーガが手を叩くと、オーガ変異種と、普通オーガたちが武器を手にこちらへと向かってきた。


 挟み撃ち――と思ったら、少年型オーガは消えていた。索敵からも消えるとか。けしかけるだけけしかけて逃げたのか?


 いや、今はそれどころじゃない!


「オーガを迎え撃つ!」


 やらねば、こっちがやられる!


「轟け、雷鳴! サンダーボルトっ!!」


 俺は先制の電撃を放射した。向かってきたオーガどもが、まとめて感電し、しばしその動きを止める。……チッ、痺れたみたいだが、耐えやがった!


 しかし、その隙を見逃さず、セアとネージュは果敢にも突撃した。変異種二体の立ち直りが早い。それぞれセアとネージュに一体ずつ向かい、手にした金棒を振りかざした。


 ドスン!


 地面を砕く金棒! しかし二人はそれぞれ回避する。直撃すれば骨も砕かれ、即死ものだ。


 セアは変異種を、両手の刃で切りつけた。しかし変異種オーガの皮膚が厚いのか、大した傷も与えられない。


 ガキン! 


 ネージュの魔法剣も、変異種オーガの首を落とせない。


「堅い!? そんな……!」

「姫様!」


 ヘイレンさんが叫ぶ。オーガのパンチが迫り、とっさにネージュは盾で防ぐが吹き飛ばされる。


 恐るべきはオーガ変異種。パワーも防御も凄まじい。


「こいつ、強い……」


 セアが呟いた。


「でも……ツグは、もっと強い」


 俺は、変異種の巨体に飛びかかっていた。硬度マシマシのショートソードで、貫けぇぇ!


 バシュッ!


 額の角の下、その頭蓋が砕け、脳を貫通する一撃。


「まずは一体っ……!」


 ズウン、と沈むオーガの巨体。俺は複製したショートソードを異空間収納から出して、構える。


 次はどいつだ?

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