第21話 新しい装備を作ってもらおう


 雷獣を倒したことを報告。ギルドで解体してもらった。


 ガブリから『ドラゴンの次は雷獣か?』と笑われた。いや、逆なんだよ。雷獣が先で、ドラゴンが次さ。


 俺は、素材を受け取り、冒険者ギルドを出た。


 雷獣退治の報酬ももらったが、さて、邪竜討伐の金貨1万枚よ。


 お金自体は異空間収納に放り込んだので、目に見えて大金を持ち歩いているようには見えない。


 だが、プラチナさんからは『気をつけ』』と注意をもらった。


『大物を倒した直後の冒険者ってけっこう隙ができるから、急に知らない人間が近づいてくることが往々にしてあるの』


 あー、知ってる知ってる。高額宝くじが当たった直後に、身に覚えのない親族や友人が現れたり、変な宗教が寄ってくるってやつでしょ? ……とかいう、またも馴染みのない記憶が脳裏をよぎった。


「それを防ぐ手段は、お金を使って、もう手持ちが残っていないことを内外にアピールすること」


 有望冒険者にすり寄る者はいるかもしれないが、金目当ての不埒ふらち者には、金がないは有効だ。


「?」

「セアはお金を使ったことがないからわからないか」


 小首をかしげるだけで、可愛いセアである。


 しかし、大金があると危ないのは俺だけじゃなくて、その相棒であるセアもまた危険にさらされるかもしれない。


 セアは強いが、見た目が完全に子供だから、誘拐して身代金を――なんて奴が現れてもおかしくない。そんな野郎はぶちのめすが、セア本人も暗殺畑の人間だったわけで、たぶん血祭りなんだろうなぁ。


「とりあえず、お金使ったアピールをするぞ」

「何をするの?」

「冒険者が上級になったら、装備も相応にしておかないと、周囲からなめられる」


 俺はニヤリとする。


「ドラゴンや雷獣の素材があるんだ。これらを使った一級品を調達しよう。武具ってのは高いからな。一点モノなら、実際かかった金額よりハッタリかませるからね」


 本当のところは、将来のために蓄えておきたいんだけどね。冒険者業って、いつ命を落としてもおかしくない。体の一部を失って戦えなくなったら、お金を稼ぐ手段もなくなってしまうわけだから。


「……でも俺は、書くことができるか」

「ツグ?」

「あ、いや、何でもない」


 俺は首を横に振った。


 本とか小説とか書けるんだった。今回のドラゴン退治のお話とか、面白おかしく書けそうな気がしている。


 紙と書くもの、インクとか買おう。いくらするか知らないが、購入資金には困らない。これぞ正しいお金の使い方。


 当面どころか数十年は軽く暮らせるお金がある。本格的に執筆業を初めて、片手間で冒険者をやるのも悪くない。


 しかし、まずは大きな買い物をしたアピールとして、装備を作ってもらおう。いったいいくら掛かるんだろうな。


 そういや、完全オーダーメイドだと、結構な大金になるから、アピールじゃなくてもマジでなくなってしまうかもなぁ。


 と、いうわけで、鍛冶屋へ行こう。魔獣素材を使った武具を使ったものを作ってもらうわけだから、武器屋や防具屋ではないのだ。


 まだアルトズーハの町全体を把握していないので、索敵とマップを絡めて、鍛冶屋を検索。


 割と近いところに鍛冶屋があるが、冒険者ギルドに近いところは、たぶん他の冒険者も利用している。今は無用な接触を減らしたいので、離れた場所の鍛冶屋へ行こう。……あるかな? あるよな……?


 割と寂れた街並みを進んだ角っこに、その建物はあった。金属を打つ音がしないのは、いま休憩中かな?


「ツグ、扉が大きい」


 セアがそれを指さした。


 事務所らしい扉は普通なのだが、隣の作業場への入り口が馬車でも入るのか、やたら大きかった。


 索敵スキル発動。あまりに静かだから、誰もいないのではないかと思ったのだ。


 と、奥に反応がひとつ。さらに作業場の方にもひとつ。ただし――


「サイクロプス……?」

「なに、サイクロプスって?」

「うん、一つ目の巨人でな。モンスターとして旅人を襲うこともある種族なんだが……」


 こんな町のど真ん中に、サイクロプスがいるものだろうか? そう考えると、サイクロプスにまつわる話を思い出す。


「手先が器用で魔法も使える巨人で、伝説では鍛冶の神の眷属だったらしい」


 作業場の扉が大きいのは、サイクロプス用ではないか。だとすると、ここにいるサイクロプスは大変大人しい、人間と友好的な奴だろう。


 そうでなきゃ、とうに追い出されたり、討伐されたりしているだろうから。


「いいかい、セア。ここのサイクロプスは、たぶんいい奴だから攻撃されない限りは、反撃しちゃ駄目だぞ」

「わかった」


 そう前置きした後、俺は事務所のほうの扉をノックした。索敵スキルで中の動きを見るにいるのは間違いないが反応なし。聞こえなかったかもしれないので、強めにドンドンと。


「ごめんくださーい!」


 ドンドンドン。反応があるまで定期的に叩く。


「ごめんくださーい!」

「……くださーい」


 セアが復唱した。可愛いなぁ。思わず微笑んだ俺。作業場の扉のほうが開いた。


「なんか、用かー?」


 ひょっこり、一つ目の大きな顔が覗いた。……うん、前もって知らなければ、怪物と思って身構えたところだ。


「あー、こんにちは! 武器を作ってもらいたくて、相談に来たんですけどー、ここって武器、大丈夫ですかー?」

「あぁ、ブキぃ作ってるよー。ダイジョブだぁ」


 のっそりした口調でサイクロプスは言った。顔は怖いが素朴な感じがして嫌いじゃない。


 その時、事務所の扉が開いた。


「おう、呼ぶだけで入ってこないのも珍しいな」


 出てきたのは低身長のタル型体型のおっさん――ドワーフだった。


「おい、ピュグメー、顔出すなって言っただろう!」


 ドワーフのダミ声が響いた。サイクロプス――ピュグメーというらしい。彼は目をぱちりと一回瞬き。


「んなこと言ってもなぁ。お客だぁ」

「……ふむ。お前さんら、ピュグメーを見て驚かんとはいい根性しとるわい!」


 ドワーフは、入れ、と事務所に俺たちを招いた。


 中には武器などの他に一般で用いる金属製の工具や鉄製品などが並べられていた。武器屋とは違うが、直接販売することもあるのだ。


「ようこそ、コラソン工房へ。見たところ、冒険者のようじゃが、よくうちへ来たな。誰かに教えてもらったのか?」

「特に誰かってわけじゃないけど、ここに鍛冶屋があるって噂は聞いた」


 索敵とマップの合わせ技で、とは言わないでおく。


「そうか。まあ、冒険者は利用していないが、武器に防具、なんでもござれだ。何せ鍛冶に長けたドワーフとサイクロプスのコンビの工房じゃ。腕は保証するぞい」

「どうして、冒険者は利用しないの?」


 セアが疑問を口にした。ドワーフは、鼻をならす。


「ギルドから離れているという地理上の問題と、お前さんらは平気じゃったが、サイクロプスにびびってる奴もいるってことさ」


 まあ、一般的にはビックリするよな、サイクロプスなんて。そのことについてはスルーしよう。

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