第18話 ギルドに報告しよう2


 冒険者ギルドの解体場に、俺たちは移動した。


「よう、ツグ。……あ、それとギルドマスター!」


 責任者のガブリは、血のついたエプロンをつけていた。また魔獣を持ってきたというと、彼は楽しそうな顔になる。


 だがいざ、それを収納魔法で出した時、目ん玉が飛び出るほど驚いた。


「ど、ドラゴンっー!!!」


 こちらについてきたセアやロッチは素知らぬ顔だが、プラチナさんも絶句している。


 首と尻尾が両断されたものの、ドラゴンが丸々一体。規模の割にがらんとした雰囲気のある解体場が一気に手狭になった。


「デビルドラゴンという邪竜らしいです」


 俺が説明した。鑑定で俺はその名前を知っているが、実はあの女騎士ネージュが、このドラゴンをそう評したことで、わざわざ鑑定うんぬんを言わずに済んでいる。


 いやまあ、無理に隠すことはないんだけどね。鑑定できると、色んなところがお声がかかって、就職しやすくなるから。


「これを、倒したのか……!」


 あんぐりと口を開けて呆けているガブリ。プラチナギルド長は、デビルドラゴンの首の断面をじっと眺める。そこへロッチが言った。


「ドラゴンの丈夫な鱗を破るってのも、並みのパワーじゃねえ。ツグはこれを二回で切り落としたんだ」

「二回?」

「一回目は、途中で剣が折れたんだ。たぶん骨のせいだろう。二回目でその骨と残りを切り裂いた」

「見事なものね、これは! 相当の業物の威力かしら?」

「いや、ツグは普通のショートソードでこれをやったんだ」

「普通の!? 嘘でしょう!?」


 プラチナさんの目が大きく開く。ロッチが愉快そうに笑った。


「硬化の魔法で強化したって話だけどな。そうじゃなきゃ、文字通り歯がたたんかっただろう、ガハハ!」

「硬化による強化! そういえば、魔法が使えるようになったって申告があったわね。確かに、ただのショートソードではドラゴンの鱗は切れない。凄いわね」


 プラチナさんは、ドラゴンの頭の周りを回って検分する。


「あら、額にへこみがあるわね……」

「ああ、それな。そこに宝石のような黒い魔石がついていたんだが……」


 ちら、とロッチが俺を見た。


「ネージュっていう女騎士が、それを欲しがってな。ツグが渡してしまった」

「……ネージュ? ああ、あの娘ね」


 知っているのか、プラチナさんは頷いた。


「で、理由は聞いた?」

「いいや。ツグは何も聞かなかったからな」

「このデビルドラゴンと戦っていたわけで、分け前は発生するかと思いまして」


 俺が言えば、ロッチが苦笑した。


「聞いたろ? ツグは、一緒に戦っていたオレらにも、こいつの分け前をくれるそうだ。ずいぶんと太っ腹じゃないか! ……まあ一応、辞退はしたんだけど」

「独り占めはよくないと思うんだ」


 貴重なドラゴン素材だ。換金するなり素材を利用するなりするにしても、俺とセアだけよりも、他にも関わった人間に配ったほうが、悪目立ちはしないだろうという判断だ。


 ロッチのオルデンのような上級パーティーが関わっているなら、討伐も彼らがいたからだろうと、周囲も判断するだろうし。


「なるほど。ツグ君、貴方の資料は新しく作り直したほうがいいわね。昇級のこともあるし、後でお話いいかしら?」


 プラチナさんは、その細い顎に手を当てた。何やら新しい玩具を見つけた子供みたいに目がキラキラしてるんだが……。


「わかりました。お手柔らかにお願いします」


 俺に断る理由はない。


「では、ガブリ。ドラゴンの解体をよろしく。……ガブリ!」

「あ、あああ、あー、はい!」


 呆然し過ぎたらしい、ガブリが我に返った。


「こんな丸々一頭なんて、そうそうないわよ。無駄な部分な出さないようにね」

「わかりました! ようし、やったるぜぇ!」


 ガブリは、さっそく解体作業を開始する。ドラゴンと聞いて集まってきた解体部署の人間を総動員である。


 その間、俺とセアは、プラチナさんと応接室に戻った。



 ・ ・ ・



「というわけで、改めてよろしく、ツグ君」

「はい、よろしくお願いします」


 何がよろしくなのかは、わからないが。俺とセアが同じソファーに座り、机を挟んでプラチナさんが座る。資料が置かれ、書くためか眼鏡をかけている。……知的美人って感じで素敵だね。


 これでAランク冒険者だったって話だろう? パッと見だと想像できないな。戦士系? それとも魔法使い系?


「それで、ツグ君は『戦士』で登録されているけれど、最近、魔法が使えるようになったと」

「専門的な知識がないのですが、攻撃、補助、あと回復も使えます」

「はい……?」


 プラチナさんの手が止まった。


「攻撃、補助、回復の三系統を使える?」

「ええ」

「それは凄いわね。すると、魔法戦士――ツグ君は剣を使うから魔法剣士かしらね」

「何か、響きがいいですね」

「そう?」


 プラチナさんが微笑んだ。お姉さんが弟とか子供を見守るような目だった。


「セアちゃん、ツグ君はどんな魔法を使うの?」


 え、セアに聞くの? ちょっと意表をつかれた。


 ふだん無口なセアは、俺をちらと見た。言っていいの?と目が言っている。……うーん、さすがにギルドマスターの前で、言うなっていうのは言いづらいなぁ。


 俺は了承するが、プラチナさん、この人やり手だ。俺にストレートに聞いても、敢えて言わない可能性があるから、搦め手を使ってきたのだ。


「ツグは、氷と炎、水の魔法が使える。他に睡眠、麻痺、気配察知、異空間収納、物質強化の魔法。回復魔法が使える」


 複製の魔法が抜けているが、俺は突っ込まなかった。素で忘れたのか、意図的に言わなかったのかはわからないが、言ったら言ったで厄介なやつだし。


「……」


 プラチナさんが無言になる。……沈黙の原因は、異空間収納かな? さっきドラゴンを出している時に見せたから言わないわけにもいかないけどさ。


「ツグ君、最近、魔法が使えるようになったって言ったわよね?」

「ええ、そうです」

「有能!」


 パチンと鳴らした指が、俺を向いた。え、なに、今のポーズ。ちょっと面食らう。


「ちなみに、魔力量は?」

「それが、わかりません。先日、そちらで測ったら、測定の魔道具が壊れてしまって」

「……」


 プラチナさんが固まってしまった。そうだよね、ギルドの備品だもんね、あの魔道具。


「ねえ、ツグ君。年上のお姉さんはお好き?」

「はい……?」


 唐突な言葉に、今度は俺が固まる番だった。


「俄然、貴方に興味がわいてきたわ。歳も近いし、仲良くしましょう」

「は、はい」


 何だろう、これはモーションをかけられたのか。まだ会ったばかりなのに、何か引っかかるようなところあっただろうか……。


 ただ有望そうな冒険者を見て、声を掛けているだけ、の可能性もあるな。うん、思い上がると恥をかくぞ、俺!


 セアに視線を向けると、彼女もまた無表情のまま首をかしげていた。

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