第10話 集めたものを数えていたら、お客がきた


 春の木漏れ日亭に戻った俺とセア。迎えてくれた看板娘であるエリンに、解体した狼肉を渡して、これで晩ご飯をお願いした。


 お裾分けもしたら、大変喜ばれた。


「ありがとうございます! 狼の肉ですか?」

「ああ、ブラッディウルフって言うんだ」

「凄い名前ですねー」


 快く受け取ってくれたエリン嬢を見送り、部屋に戻る。


 さて、残っているブラッディウルフの解体……は、さすがに宿の部屋でやるわけにはいかないので、後日ということにして、魔物の出る森で採集してきた草花を出して、数えてみる。


「キュアグラスに、ルージュフルール……」

「プリムシード!」


 セアが、種のような形をした植物の実を指さした。森で見つけたのだが、これが中々甘酸っぱくて美味しい。彼女は気に入ったのだろう。


「鑑定様々だ」


 その植物を見ただけで、何かわかるというのは実に便利だ。わざわざ図鑑と睨めっこする必要がないもんな。


 さらに便利と言えば、『捜索』と『索敵』スキル。


『捜索』は、物探しに重宝した。まったく知らないものについては駄目なのだが、たとえば森で見つけたプリムシードを『捜索』すれば、範囲内にあるプリムシードの場所がわかるというものである。


 また『索敵』は、一定範囲内の物体、生き物などを探ることができる。隠れているものも見つけ出せるし、目視しなくてもわかるという優れものだ。


 これは知らない魔物でも、設定の対象なら位置を探知し、俺に知らせてくれる。これで森の中にいる魔物を発見して、逆に奇襲したり回避できたりした。


「ルークス・リーフが採集できたのは思いがけない収穫だった」

「ツグ、嬉しそうだった」

「採集が難しいと言われる植物なんだ。満月の光を浴びると輝くような花を咲かせるんだが、それ以外の時はまったく別の植物に見えるせいで、発見が難しかった」


 が、鑑定様はお見通しだった。俺も目を疑った。そこらの雑草に見えたそれが、まさかルークス・リーフだって。


 これは土ごと掘り出して、満月の夜に花を咲かせてから、取り扱うようにする。今のままだと、ただの雑草にしか見えず、相手にされないだろうから。時間経過なしの収納に入れておけば保存も問題なし!


「今日採集したものは、ギルドの掲示板を見て、クエストの条件を満たしている時に使っていこう」

「うん」

「明日は、本格的にクエストを受けよう。できればダンジョンに行きたいな」

「ダンジョン……」


 セアが小さな声で、呟いた。俺はチラと視線をやる。


「魔物の巣窟なんだがね、採集や素材探しには打ってつけなんだ。希少な魔物を倒して素材を手に入れることができれば、一攫千金も夢じゃない」


 まあ、そんな簡単に大金が転がることなど滅多にないが。


「ただダンジョンは、放っておくと魔物が増えて、スタンピードという災厄を引き起こす。町や村、その他もろもろを滅ぼすモンスターの大行進だな」


 国や地方の軍隊、冒険者たちも総動員で戦う羽目になってしまう。


「だから、危険でもダンジョンに入って、魔物を減らす必要があるんだな。そういう魔物の間引きをしているのが、俺たち冒険者でもある」

「……」

「セアは、ダンジョンに行ったことは?」

「何回か入った。魔物を倒した」

「そうか」


 例の邪教組織の戦闘訓練とか実戦テストというやつだろう。……そこには触れないことにした。


「セアにも防具、欲しいな」


 俺は、セアの服の汚れ――倒した魔獣の返り血に気づき、クリーンの魔法で綺麗にする。


「というか、もっと早く用意するべきだった」

「ううん、わたし、防具はいらない」


 そう言うと、セアは手甲ラン・クープラを腕に具現化させる。確かに腕はガードできそうで、強度が充分なら小盾にも使えるだろうが。


「でも胴体の守りは……」


 言いかけた俺だが、セアの胸部に、ラン・クープラが具現化した時と同じく胸甲が現れた。


「へえ、魔法の防具か……」


 さすが邪教組織。この手の防具なんて、普通に買ったら家が立つくらいの代物だろうに。独自に作ったものか、どこからか手に入れたものだろうか。


「これって防御力あるの?」

「金属鎧と同じくらい硬いって……」

「ほぅ、見た目は結構薄そうなんだけど。……軽い?」

「うん」


 頷くセア。聞けば、肩や足にも、出すことができるらしい。必要な時に展開するタイプだという。


「じゃあ、特に防具はいらないってことか」


 俺より防具は充実しているな。こっちは魔獣の革を煮詰めたハードレザーアーマー。軽さが売りで、防御力は……まあ、お察し。あとは同じく革のグローブ。……せめてバックラーは欲しいな。


 前使ってたのは壊れたから、買っておきたかったが、前パーティーのメンバーがめっちゃ渋ったんだよなぁ。命を守る物だからと言っても、すっげぇ嫌な顔をされた。思えば、あれも追放フラグのひとつだったかもしれん。……まったく俺は悪くないけどな!


 コンコン。


 ノックの音だ。扉の向こうから、エリン嬢の声がした。


「ツグさーん、お客さんです。食堂にいらっしゃるので、降りてきてくださいー」

「はーい!」


 俺にお客? はて、訪ねられるような知り合いは、この町にはいないと思うが。


「ギルドの人かな……?」


 広げていた薬草類を、さっさと片付ける。セアを連れていってもいいか迷ったが、まあいいだろう、一緒に行こう。


 さて、一階に行って、俺に会いにきた客とやらを見やる。


「……ゲッ」

「その反応はいささか心外なんだが、ツグ」


 メガネをかけた男。前パーティー『ガニアン』のヒーラー、トリスだった。


「いけ好かないメガネ、何しにきた?」

「……ずいぶん過ぎる物言いだな、ツグ」


 トリスは気分を害したような顔をしたが、こちとら俺を追放した連中の顔を見ただけで吐き気がしてくるわ。


「帰っていいか?」

「要件だけでも聞いてくれないか? 悪い話じゃない」

「……どうだか」


 俺は、トリスの向かいの席に座る。隣にセアが座ったので、トリスは不思議そうな顔になった。


「この娘は?」

「いいから。話せよ」


 俺は促した。昨日の今日。追放されて日が浅いから、塩対応になる。トリスは背筋を伸ばした。


「単刀直入に言おう。ツグ、『ガニアン』に戻れ」

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