第9話 町の外に出かけよう


 好奇の視線にさらされながら、俺とセアは冒険者ギルドを出た。


 本当は、残っている軽めの依頼を受けていくつもりだったが、今日はそんな気分じゃないので、やめておいた。


 それよりも自分のことを、知らねばならない。


「ツグ、これからどうするの?」

「うん、町の外に出て、色々試そうと思う」


 俺はセアを見る。


「君が実際にどうやって戦うのか、見てみたいし」

「わかった」


 セアは頷いた。無表情は変わらないのに、心なしか力強く見えた。そういう些細な違いがわかるようになってきたかもしれない。


 というわけで、アルトズーハの町の外へ。お日柄もよく、絶好のお出かけ日和だ。もっとも、町の外に出れば、危険な魔物が徘徊している世界である。


 町は壁に囲まれているので、出入りをする時は門を通る必要がある。外部の人間が入るには通行税が取られるが、冒険者はプレートを見せることで、タダで通行できる。


 これが、セアに冒険者登録させた理由のひとつでもある。魔物がうろついている世界だからこそ、それを退治する冒険者というのは、通行税関係は免除されたりする。……まあ、それ以外の税は取られるんだけどね。



 ・ ・ ・ 



飛びかかってくるブラッディウルフ。街道を少し離れたらこれだ。


「任せて」


 セアが、すっと前に出た。


 魔物にもランクがあるが、ブラッディウルフはランクC。いきなりCランクと遭遇してしまうのは不運か。


 ブラッディウルフはまずいのでは! 俺はショートソードを抜いて身構えるが、セアは両手に小手を具現化させて、突進した。


 ラン・クープラ――その魔法グローブの先に、ショートソードと同程度の刃物が具現化した。


 あ、これジャマダハルだ――頭の中でまた知らない単語が浮かんだが、その形も浮かんだので何かはわかった。


 刺すことに向いた武器で、握り方が特殊であり、殴るように突き出すことで攻撃する武器だ。


 セアは向かってきたきたブラッディウルフの噛みつきをひらりとかわすと――。


 グサッ!


 拳を突き出し、その先の刃物で一突き。目にも留まらぬ早業とはこのことか。


 すれ違う勢いで、ブラッディウルフの頭を横合いから突くという神業。その一撃でCランクの魔物を倒してしまった。


「すごっ……」


 俺より、セアのほうが強いんじゃね説。いたいけな少女と侮ることなかれ。戦闘用の実験体としての実戦経験は伊達ではなかった。


「こりゃ戦闘面で教えることなんてないかもな」


 即戦力ゲットだぜ。頼もしいことこの上ない。


「よくやった、セア」

「……」


 頷くセアだが、かすかに顔が赤いのは気のせいかな? 照れてるんだったら、可愛い。


 さて、せっかく仕留めたので、これを確保しないのももったいない。


 俺は手早く手帳に『魔獣解体』と書き込む。あらゆる魔獣を手早く、正確に解体できる能力、と書き加える。


 ブラッディウルフの死体に近づくと、テキパキと解体作業を開始。これまでも倒した獣の解体はしてきたが、比較にならないほど手際がよくなった気がする。次に何をするのか、ノータイムで動けるようになった。


 やっぱ、この手帳に書くことで具現化する『執筆チート』の力なんだよな。


 鑑定についても、自分は見れないかな、と思ってやってみたら出来たし。MAXと書かれた能力値とやらのまま、鑑定結果もそのように表示された。


 だから大の大人ほどもあるブラッディウルフの巨体も、軽々と持ち上げることもできるし、水魔法で獲物の体を洗い流したりとか余裕だった。


 魔法といえば、相変わらず呪文はわからないものの、案外うまくいった。水を流したり、氷を作ったり、火をつけるのに呪文なんかいらないだろうの精神である。


「ツグ」


 セアが森の方向を見やる。


「狼がいる。複数」

「くそ、一匹狼じゃなかったか」


 狼というのは、群れで行動することが多い。単独行動をする狼もいるにはいるのだが……。


「よりによって群れのほうだったか」


 Cランクの魔物の群れ。通常なら、Bランク冒険者以上のパーティーが挑むものであり、それ以下ならば逃げるのが正しい。


 本来なら、一頭だけだとしても、よほどの好条件でなければ下級ランク冒険者が挑むモンスターではないのだ。


 まあ、前のパーティーにいた頃、俺は戦ったことがあるから、大体の感覚はわかるが。


「どれ、せっかくだから、このステータスMAXってのがどれほどのものか試してみるか」


 魔法が使えるのだから、距離があるうちに先制する。


「氷の刃……引き裂け! アイスブラストっ!」


 大ざっぱ過ぎる氷の魔法が発動。宙に無数の氷の刃が形成され、それが次の瞬間、ナイフのごとく飛んでいった。


 ズバッ、ズババッ!


 氷の塊がブラッディウルフの体を引き裂き、たちまち七頭中、五頭が大地に突っ伏した。


「凄い……」


 セアが驚いた。そんな珍しい表情を一瞥したが、まだ二頭残っているのよね。俺はショートソードを握り直す。突進してくる狼の足の速さは相当なもんだ。


 だが――!


 俺は一歩踏み出す。素早さMAXの能力、ここにあり。一瞬でブラッディウルフの目の前。奴もその踏み込みに驚いた気配を感じた。


 ズバッ!


 ショートソードが、ブラッディウルフを真っ二つに切り裂いた。力MAXとやらの剛腕は、いとも簡単に筋肉も骨も両断!


「うはっ、こりゃ、昨日までの俺とは違うわ!」


 ターン、そして加速。セアの方に向かっていたブラッディウルフに追いつき、ギロチンカット!


 狼の首が飛んだ。


 ブラッディウルフの群れ、全滅。狼ってのは、一度狙うと執念深く追ってくるらしい。

 だが全滅させれば、そういうこともないわけだ。


 剣についた血を払い、俺は一息つく。体力MAXの恩恵なのかな。息が切れることもなかった。以前の俺なら、こんなのは絶対無理だし、へばっていた。


「ツグって、とっても強い」


 セアがやってきて、純粋な目を向けてくる。うんまあ、手帳のおかげっていうか、執筆チートを手に入れたおかげなんだけどね……。


「君に怪我がなくてよかったよ」


 さて、倒したブラッディウルフの後片付けをしよう。素材は売れば金になるし。ただ全部、解体している余裕も人手もないから、収納魔法を使おう。


「お肉、腐らない?」


 セアがそれに気づいた。どうだろう、収納魔法って時間経過あるのかな? あれば放り込んでも、素材を駄目にしてしまうが。


 念のためだ。俺は手帳を取り出して、収納魔法と書いて、文を書き足す。この収納魔法は、時間経過なし。入れたままの状態を保ち、腐ることはない……っと。この書き足せるって強いよなぁ。


「うん、大量だな」


 異空間収納魔法で、ブラッディウルフを全部回収した俺は、セアとすぐそこに見えている森へと向かった。

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