第8話 魔力量を測ってもらう
冒険者ギルドで、セアの冒険者登録を済ませた。
「はい、これがセアさんのランクプレートになります」
「わたしの……」
受付嬢のウイエから銅製プレートを受け取り、しげしげと見つめるセア。
「……ツグのと、少し違う」
「ああ、俺はEランクだからな」
心なしか、少しガッカリしたように見えたのは気のせいか。
ウイエが口を開いた。
「セアさんのは、Fランクになります」
銅製であるのは同じだが、ランクが上がると印がつく。名前しかないプレートはF。印ひとつがE、印ふたつだとDランクとなる。
「冒険者ランクは、一番下がF。そこからE、D、C、B、Aとランクがあって、クエストの達成や貢献度で上位のランクに上がります」
ウイエが、受付嬢らしく慣れたように説明した。
「掲示板に依頼書がありますが、受けられるのは自分のランクのひとつ上まで。依頼によっては、失敗すると違約金が発生するものもありますので、選ぶ時はご注意を……」
そこでウイエは、俺を見た。
「すいません、私から説明しなくてもツグさんが教えましたよね……?」
「構わないよ。説明の手間が省けたから」
「わからないことは、ツグさんに聞くといいでしょう」
「うん、そうする」
セアがコクリと頷く。ウイエが何やら嬉しそうに目を細めた。……可愛いでしょ、この子。
「それでツグさん、早速、依頼を探されます? といっても、この時間ですから、あまりいい依頼は残っていないかもしれませんが……」
「こちらも試しながらやってみるからいいよ、ありがとう」
俺も冒険者歴は長いからね。朝の依頼争奪戦が終わっているのは知っている。
「そういえば、このギルドって、資料室ある?」
「ありますよ。右手の奥のほうに。……何か調べ物ですか?」
「魔法のことを少し」
「魔法、ですか……」
要領を得ない顔になるウイエ。
「ツグさんって、たしか戦士でしたよね?」
「そうなんだけどね。最近、魔法が使えるようになったみたいでね」
「魔法が!?」
ウイエが驚いた。
「実は、魔法戦士だったとか……?」
「かもしれない。でもこれまで武器一筋だったから、魔法の知識ってあまりなくて」
呪文なんて、パーティーの魔術師――アヴィドが使っているのを聞いたくらいしか知らない。……しかもあいつ、魔法を感覚で使っていたらしく、呪文が結構いい加減だったとも聞いた。魔術師のくせに、読み書きはあまり得意じゃないとか、馬鹿なんじゃないかなとも思う。
だが、呪文がいい加減でも魔法は発現するっていうのを知っていたから、俺が魔法の素人でも睡眠や複製が使えたわけだけど。
「ということは、魔力の量は把握していらっしゃいますか?」
ウイエの言葉に、俺は首を横に振った。
「いや、それまで縁がなかったから、まったくわからない」
「では、魔力量を測定しましょう」
ウイエが席を立った。
「自分の魔力量がわかれば、どの程度の魔法を使えるかの参考になると思います」
「いいね、お願いする」
俺は了承した。そういえば昨日から魔法を使ったけど、魔力の量とかちっとも考えていなかった。使いすぎると、魔力切れを起こして倒れることもある。魔法を使うなら、限界は知っておかないとね。
「セアも、測ってもらうか」
「うん」
「お待たせしましたー」
ウイエが戻ってきて、カウンターに水晶玉を置いた。そうそう、これに手を当てると魔力の量がわかるという魔道具だ。
ギルドで、新人魔法使いがやっているのを見たことがある。
「手を置けばいいんだよね?」
「はい。どうぞ」
ウイエが頷いたので、俺は右手を軽く乗せた。すると水晶玉が輝きだした。
「って、まぶしっ!?」
「これはー!?」
光の玉と化した水晶玉は、次の瞬間、真っ二つに割れた。
「え……?」
まさか割れるとは思わなかった。ひょっとして不良品だった……?
「すいません、測定中に割れてしまうなんて、前代未聞過ぎて――」
ウイエも困惑している。
「測定の途中だったようですが、かなり魔力量が凄いみたいでした……。そこらの上級魔術師か、それ以上あったかも……!」
ざわ、と周囲の空気が揺らいだ。カウンターで測定の魔道具が壊れたのは、周りの注意を引いたようだった。
「ひょっとしたら、ツグさんは、戦士ではなく魔術師の才能があったかもしれません!」
知らなかった。俺の天職は魔法使いだったのか?
――何かしらんが、凄い魔力量の男がいるらしいぞ?
――上級魔術師レベルだって。
いやいや、俺はそんじょそこらの普通の万年Eランク冒険者ですよ。さっき逃げたデューイ君と同じ雑魚冒険者ですって。
そこで、ふと思い当たる。ひょっとして、手帳にステータス云々ってやつ。力とか素早さとか魔力とかMAXと書いたのが影響しているのでは……?
そういや、何か握力とかも変なことになっていたな。昨日、ちょっと力を入れたら扉のノブを壊したり、デューイ君の腕の骨を砕きかけたり、とか。
「ツグさん……ツグさん!」
「はい?」
名前を呼ばれて、我に返った。考え事のせいで、ウイエの話を聞き逃したようだ。
「もしよろしければ、魔術師のお弟子になられては?」
上級魔術師の弟子になり、その後、晴れて魔術師になれば、下級の冒険者をやっているより、遥かに稼ぎがよい生活ができるようになるという。
魔力量の多い人間は、上位の魔法を習得、行使に有利であり、そういう才能を持つ弟子を欲しがる魔術師は多いらしい。
「こちらでお探ししましょうか?」
「あー、いや、まだ俺自身、困惑しているっていうか……ちょっと考えさせて」
「そうですか」
もったいない、というような顔になるウイエ。上級の魔術師ともなれば、王族や貴族だって放っておかないエリート職。なれるならなっておけ、という周囲の期待というか空気も理解はできるが……。
俺も魔術師になるには、結構なお歳だからね。ちょっと躊躇いってのがあるわけで。年配の魔術師ならともかく、上級魔術師と一言言っても、二十未満の若いのもいる世界だから……。
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