第4話 懸賞金をもらった


 アルトズーハの町の憲兵に、物盗り野郎を突き出した。アジトに案内して、三人を引き渡したら、賞金で金貨20枚をもらった。


 ……わお。


 なお金貨1枚あれば、俺の持っている市販のショートソードが一本買える。


「こいつらは『コンタヒオ』という強盗殺人集団でね。しかもあんたが捕まえたのは、オースっていう懸賞金付きの悪党だったんだ」


 憲兵さんが教えてくれた。


「まさか、この町にいたとは……。何にせよ、よく捕まえてくれた!」


 そいつ、俺の脇腹を刺して殺そうとした奴です!……とは、ちょっと言えなかった。刺された傷でも残っていればよかったんだけど、傷も残ってないんだよね。


「いや、しかし凄いな君は。あいつらのアジトを見つけて、無傷で捕らえるなんて。……なあ君! よければ憲兵隊に入らないか!?」


 熱烈な、そしてまさかの勧誘。お気持ちはうれしいが……。


「一応、冒険者なので遠慮します」

「そうか、それは残念だ。この手際は、さぞランクの高い冒険者なのだろうね……」

「いえ、Eランクです……」


 すっと目を逸らしてしまう。


「Eランク!? 嘘だろ!」


 その憲兵さんも、同僚さんたちも驚いた。口々に信じられないなぁ、と言われてしまった。


 ほんの、魔法で、ちょっと眠らせただけなんで……。


 ともあれ、鬼より怖いと言われる憲兵さんたちが、ニコニコ顔で俺に懸賞金を渡してお礼を言った。


 コンタヒオには、相当手を焼かされていたらしく、憲兵さんにとっては憎いあんちくしょうだったようだ。


 正直に通報したら、思わぬ大金になった。これは運が上向いてきたかもしれない。パーティーを追放されて、落ちるところまで落ちたかと思ったが。


「そういや、手帳に『幸運』って書いたんだっけか。ご利益発動かこれは!」

「ツグ……?」


 セアが不思議そうな目を向けてきた。俺は機嫌がよかったから、にっこりだ。


「セアと会ってから、ツイてるぞ。君は幸運の女神かもしれないな!」


 実際は、手帳のおかげだと思うが、セアと会ってから悪いことは起きていないので、あながち間違っていない。


「よし、金も入ったし、飯にしよう。お腹すいてるか? あ、でもその前に、服をどうにかしないとな……」


 セアの格好が奴隷っぽいので、店に行ってもお断りとか妙な雰囲気になってしまうかもしれない。


 服を買うに充分な金があるので、まずはそこからだ。ご飯はもうちょっとお預けだ。



 ・ ・ ・



 さっそくセアのために服を扱っている店に行く。


 が、このまま行っても『汚い』と店員に塩対応されるも可哀想なので、生活魔法の中の清掃の魔法『クリーン』を使う。服を脱がなくても綺麗になる上に、水要らずと便利な魔法だ。ついでに服も綺麗にしておこう。


「……」


 ほら見違えたー。薄汚れがなくなるだけで、セアちゃんの可憐さアップ! やべぇな、元がいいから美少女度がハンパない。俺、こんな娘を連れてたの?


「ツグ……?」

「何でもない」


 可愛すぎるが、いま着ている服が簡素で、それとなく肌の露出が強めだ。邪な感情が浮かんできそうで怖い。


 しかも心なしか、周囲の視線がねちっこくなったような気がする。さっさと服を買ってあげよう。


 というわけで、町の人に聞いて服屋へ直行。店員は、セアを見て蔑むことなく、あれこれ服を薦めてくれた。……ふう、綺麗にしてあげてよかったぜ。


 予算はあるから、と言ったのがよかったのかもな。


「ツグ、どんな服がいいの?」

「君がいいと思うやつでいいよ」


 俺に振られてもな。一般貧乏家庭に育った俺には、服はお下がりが当たり前。選ぶ権利なんてなかった。


 結局のところ、セアはあれこれ吟味して自分の服を選んだ。


 濃い青系のワンピース。ただ派手な装飾や飾りはなく、実用性で選んだようだった。スカート丈が短いのは、動きやすさを優先した結果らしい。見ようによっては魔術師っぽい?


 それに加えて、旅人用のマントも購入。これまた実用重視の地味なやつ。


 戦闘用の実験体だったんだもんなぁ……。鑑定スキルでセアを見た俺には、彼女の服の基準がだいたい想像できてしまった。


 店員はセアの素材のよさから、貴族の令嬢が着るような、可愛らしい服をプッシュした。が、それは俺のほうで断った。


 セアの可憐さは認めるが、着飾った娘と普段から一緒に歩くなんて、冒険者である俺が完全に浮いてしまうわ。


 金貨2枚が消えた。新品の服ほか一式は高いのだ。



 ・ ・ ・



 食事を摂るついでに、今日の宿を取ろう。金があるのに野宿というのも味気ない。


 俺にとってはまだ不慣れなアルトズーハの町だが、宿には一軒、心当たりがあった。


 これからこの町で活動するから、まずは宿を――ということで見かけたのだが、『ガニアン』の元仲間たちから、貧乏くさい宿だと一蹴されてしまったのだ。


 趣があって、俺は好きなんだが……。


 元パーティーのことを思い出すと、正直イラッときたが、もう忘れよう。俺は、この宿に泊まるぞー!


『春の木漏れ日亭』


 大きくはないが、小綺麗で手入れはされている。何か普通の民家っぽく見えているが、それはそれ。


「いらっしゃいませー」


 若い娘さんの声がした。茶色い髪の十代半ばの少女だ。店員さんだろう。


「宿泊。あと食事も付けられるかな?」

「ありがとうございます! 一泊一部屋で銀貨5枚、食事付きなら、さらに銀貨3枚ですー!」

「なら、一部屋10泊、食事付きで」

「ありがとうございます! おかーさん! お客様、宿泊、食事付きでーす!」


 奥から、おかみさんだろう声で返事があった。娘さんは、大変元気がよろしいようだ。接客というと割と素っ気ないのが当たり前なことを考えると、この宿は好感が持てる。


「あ……」


 そこで俺は、セアを連れていることに気づいた。一部屋分しかとってない。さすがに俺とセアが同じ部屋だとまずいか……?


「……」


 セアさんは無言。しかし同じ部屋と聞いても、不満どころか表情ひとつ変えなかった。……うん、これは、俺が手を出さなければ何も問題ないやつだ。


 当然ながら、俺から彼女に手を出すつもりはない。


「とりあえず、メシにしようか」

「うん」


 コクリとセアは頷いた。

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