第7話 連行された!

チュン…チュン…


朝が来た。俺は窃盗罪で捕まり、刑務所にいる。後悔先に立たず、しばらくはここで反省していよう。


それにしても、今の刑務所はこんなにも広くて綺麗なんだな。北方のある国では再犯率を抑える目的で住環境を良くしてるらしいが、ここもそれに倣ったんだろう。


ガチャ

「よー。寝ぼけてるの?ここ、私の家だけど?」

何と!昨日あった女が入ってきた!


「な、なんで?」


「まー話してもらおうか。」


俺は全てを話した。

道端で『冒険の書』を拾った事、それを使用してしまった事。それと、小部屋にいたミミックの事も話した。


「やっぱりかー。あのまま捨てといて無事な訳無いよなー。」

彼女は俺の事より『冒険の書』を気にかけているようだった。


「なら、何で捨てたんだ?大切な物なんだろ」


「まーちょっとしたトラブルだよ。言葉で説明するのもアレだし、実際に見せるかー」


カッ

「うわっ!」

壁一面、本棚に変わった。

ダンジョン外で魔法を使えるなんて!

もしかしなくても、魔法使いなのか!!


「驚いたー?」


「驚くわ!これ、魔法使ったんだよな?」


「転移魔法ってやつだけど…初めて見た感じ?」


「商人だからな。商売に魔法なんて使わないだろ?」


「そうかー…何で『冒険の書』を拾ったの?ダンジョンはとっっても危険だし、商人の方が安定した生活を送れると思うけどなー」


「一攫千金のためだ!」


「そこに惹かれちゃうよねー…」

けだるげな声のトーンが、もう一段階下がる。


「それとさ、伝説の冒険家『ジョニー・トレジャー』って知ってる?」


「『ジョニー・トレジャー』!」

声のトーンが三段階上がる。


「知ってるんだな!実はな、俺の憧れの人なんだ。人生に一度は彼みたいな冒険をしてみたかったんだよ!」


ジョニー・トレジャーは100年前に活躍した伝説の冒険家だ。かつてこの世界には数万を超えるダンジョンがあったらしいが、『黒の冒険の書』をお供に、光の速さで攻略した。

その功績により今のダンジョンの数は数千くらいになっている。

水晶龍クリスタルドラゴンとの死闘』『黄金郷への到達』『機械巨人の発掘』これらの冒険譚は、少年だった俺の胸を躍らせた。


「憧れかー…うん合格。その『冒険の書』は君にあげるよ。」


「いいのか?勝手に使った盗人なのに?」


「君になら託してもいいかなって。それだけだよ。」


どうやら、俺の想いに感心したようだ。

何はともあれ、何とかなったか?


「ただし、一つだけ条件がある。まずは、鞄の中を見せて。」


「いいけど…」

俺は鞄の中を見せた。


「『緑の鞄』かー。元々行商用に使ってたの?」


「そうそう、卓上用の竹籠たけかごが200個入る優れものなんだぜ。」


「へー。」


彼女は鞄に手を突っ込み、何かを探し始めた。」


ドサッ

「あった。これこれ。」

彼女が取り出したのは『黒の冒険の書』だった。しかも、4冊もある!


「なんで増えてるんだ?」


「『冒険の書』の特性でね、一冊使い切ると新品の物が出てくるんだよー」


確かに、本の数は俺がダンジョンに入った回数と同じだ。その度に鞄の中で増えていたんだろうな。


「それでねー、この本棚にそれらを保管させて欲しいんだー。」


「それが条件?」


「そー。」


スッ!

女は本棚にあった『冒険の書』を手に取り、俺に渡してきた。


「私もね、『冒険の書』に刻まれた物語がすきでさ。いつかねーこの本棚に冒険王を超える冒険譚を置きたいんだー。」


パラッ

彼女の話は全く耳に入らなかった。

だって、この『冒険の書』を使っていたのは…



『冒険の書No.4508 ジョニー・トレジャー』



「あなたは…何者なんだ?」


「あーごめんごめん、自己紹介まだだったね。」

「私の名前は、ジェニファー・トレジャー。冒険王の末裔だよー。」

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