第4話 彼と彼女と彼と彼女と 7-4
「オレが言ってやるよ」
悔しいことに、ムサシはミカと仲がいい。ムサシは誰とでも分け隔てなく接するし、サッパリした性格だし、ガタイもよくてリーダー的存在だし、同性からも異性からも評判がいい。今日の昼休みだってミカと一緒にプロレスごっこをしていたし、昨日だって休み時間にミカとふざけて交代でおんぶしあっていたし、一昨日だってミカと……あれ?
「オレが言ってやるよ」
ムサシは繰り返した。そういわれて、いっそう悔しくなった。
「いいよ、ボクが自分で言うよ」
「いいよ、オレが言ってやるよ」
「いいよ、ボクが自分で」
「いいよ、オレが」
「いいよ」
「いいよ」
「いい」
「いい」
「いー」
「いー」
ついに二人の叫びあいとなった。まるで漫才のコンビである。そうでなければショッカーである(読者よ、検索されたし)。
「なに、大声出してるの?」
と言いつつ、そこをガラッとドアを開けて入ってきたのは、サホだった。またもやムサシは仰天して、後ずさりした。ムサシの尻に押されて折り重なった机は、今度は窓の下の壁に突進した。机って、教科書を載せて勉強するものじゃなかったっけか?
サホは学級委員長だった。小学生の時には、クラスで休んだ人がいると、自分から率先して先生に、今日の給食と配布物を持っていきます、などと言って、先生からは「給食はさすがに」と止められた。中学生になってからは、やはり休み勝ちのクラスメートがいたりすれば、その家にまで半ば押し掛ける形で、朝は迎えに行き、その家の生徒が困ってトイレに籠ると、ドアの前に正座をして出てくるのを、「津軽海峡冬景色」をスマホのユーチューブで何度でも流しながら、二時間でも三時間でも待った(何でもお爺さんの影響で演歌好きらしい。読者よ、け…)。説教がましくて押しつけがましいのが玉に瑕だけど、時々、いや、しょっちゅうピントのぼけたことをするけど、それに今じゃ「安定の生徒会長」(他にやる人がいないので)とまで言われているけど、根はいい奴だったから、頼りにする女子は(そして男子も)少なくはなかった(そのうちの一人がミカなのだが)。そのサホを見た瞬間に、今度はムサシが青ざめ、そして赤らみ、次にマジになったのだ。おや?
「実は、話があるの」
ガラガラガッシャン、と大きな音を立てて壁とキッスをした机どもを尻目に、生徒会長はまっすぐにムサシの顔をみつめ、神妙な顔つきで話し始めた(教室内がちょっとしたカオスと化しているのに、かくも冷静なのは、さすがに「安定の生徒会長」である)。
「あのね、ムサシくん」
ムサシはまた顔が青くなり、赤くなり、マジになった。就職先として信号機にでもなれるんじゃないか、とケンタは思った。
「ムサシくんて、付き合っている人、いるの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます