第2話 彼と彼女と彼と彼女と 7-2

 ケンタはもじもじした。

「実は、お前だから言うけど……」

「まさか、お前、ミカのことが…」

 ケンタは何も言わなかった。それが答えだった。

 突然、ムサシは大声を放った。

「おめでとー!」

「何がおめでとー!だよ!!何も始まっちゃいないんだよ!!」

「あ、そっか。でも、前からなんか怪しいと思ってたんだよね」

 ケンタは弱った。ムサシは声がでかい。ぜったいに廊下にいる奴らにまで聞こえている。人をからかうのもお手の物だから、やめろと言えば、きっと声をいっそう張り上げる。あ、そうか。攻めるのが得意な奴ほど守りが弱い、って言うじゃないか。ケンタは将棋部だった。そして知っていたのだ。

「そういや、お前はいつサホに告るんだ?」

「え、え、え、え、え、え、え?」

 仰天したムサシは、ただでさえでかい目ん玉を白黒させ、上下左右させている。ここまで素直な奴も珍しい。

「だって、そうなんだろ?」

「いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いいいい」

「いやなのか、いいのか、はっきりしろよ」

「いや、だから、いいいいいいや…」

 ドギマギして、ムサシはケンタ以上に後ずさりしながら、尻で机をががっーと押した。机は毛虫が体を縮めるように折り重なって、黒板のところまで一気に押しやられた。でかい音が教室中に鳴り響いた。いや、きっと学校中に。さすがはラグビー部である、とケンタは妙に感心した。

「ごめん、ごめん。もう言わないよ」

「べ、べ、べ、べ、べつにかまいやしないさ。オレはどうせケンタのことが大好きなのさ」

 気が動転している。

「サホだろ、好きなのは」

「え、サホがオレのこと、好きなのか?」

 もう、どうしていいかわからない。同じく動転していたケンタは、こういう時は正直が最良の策、と思った。英語の授業でそんな格言を教わったし。

「ボクも言うよ。ボクはミカが好きだ」

 その一言でムサシは我に返った。

「おお、同志よ、オレはサホさ」

「同志よ、じゃねーよ。突然そんな言葉使われたんじゃ、『どうしよ?』だよ」

「んで、お前はストーカーになったのか」

「ミカがどこにもいないのに、どうしてストーカーなんだよ」

「あ、そっか。でも、だから、ミカの机んとこにいるんだな」

「…そうなんだ」

 ケンタは顔がマジになった。青くなったり赤くなったり、マジになったり。

「ラインとかじゃ、何だか味気ないなと思って…」

「と思って? てか、お前、ラインやってないじゃん」

「恋文を…」

「コイブミって何だ? 鯉のどっかのうまい部位か?」

「そういったことを真顔で聞けるのは、お前の才能だよな」

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