最終章 3.僕は車内で、暴露する。
「絶対に証拠を掴んでやる……!」
いよいよ今日だ。
由衣の『RAIN』の連絡に疑いもなく即答が届き、変態男田中に会う段取りを無事に組むことが出来た。
放課後、新宿駅で会うことになっている。
……が、今、学校の入り口前には鼻息を荒くして立っている天使、いや堕天使がいる……!!
その堕天使は薄紫の花柄の可憐なワンピースを着て、長いサラサラなロングヘアーの上には濃いグレーのキャップを深く被り、その露出された白くて細い足には白のスポーティーなライン入り靴下にアイボリーのハイカットスニーカー。
そう、変な変装はしていない、堂々と仁王立ちする可愛い『
「よ! 立石、先週ぶりだな! 待ってたぞ!」
「え!? 待って……!? あ、でも、きょ、今日、僕、い、行かなきゃいけないところがあって……」
「ちょっと付き合ってほしい」
「つ、つ、付き合う……!?」
「ああ、水戸の車にな」
「えっ……?」
そっちか、そうだよな……、僕は何を思って……
すると急に彼女は僕の右腕を握り締め、力強く引っ張り走り出した。
「早くっ!!」
「ちょっ……!」
ちょっと待って!! 帰宅しようとしていた周りの女子達が僕らをすっごく目を見開いて見つめているじゃないか……!!
なぜあんなリア充とはかけ離れ過ぎてるイケてない男子が『最上まこ』と話してんの!? それもなんで腕掴まれて軽快に走らされてるの!? みたいな顔してすっごい見てるじゃないか……!!
「ずっと仕事が立て込んでてな、学校に来れなくて。と言っても謝る事しかしてないけどな!」
彼女はこちらを振り向きははっと軽快に笑いながら明るくそう言う。
「……」
そんな風に笑う彼女を見て、僕はなんて返したらいいのか分からなかった。
「お前が『エンジェラー』なのも、『神』の兄なのも知っている!!」
やっぱり……!!
しかも声がでかい、でかすぎる……!!
「こっ、声っが……」
「憧れを壊しちまってごめんな」
「え……」
今度は振り向かず、前を向いたまま僕の腕を強く引っ張り、走りながらそう告げた。
その表情は分からない。だけど、なんだかとても悲しそうな声だった。
「そんなこ……」
僕の胸の内の声は今凄まじいスピードで隣を走り抜けていったオートバイにかき消されてしまった。
「立石さま、急にお呼び出しして申し訳ありません」
息を切らしながら黒いセダン車の前にまで到着すると、そこにはやはり黒のスーツをびしっと決めた相変わらずトップオブトップなイケメン属性に確実に入る黒ぶち眼鏡でオールバッグな水戸さんがいつものように立っていた。
僕はそのまま車に乗せられ、『最上まこ』の横にあの時のようにまた座らされた。急に走らされたので息も上がっているし、この空間もやはり落ち着かない。胸に右手を押し当てる。やばい、心臓のドクドクという鼓動がまだまだ止まりそうにない。
「彼女のスマートフォンはお持ちですか」
「あ……!!」
今日の事で頭がいっぱいですっかり忘れていた。鞄から慌てて取り出すと、彼女へ手渡した。
「やっぱり立石が持ってたか」
「は、はい、ずっと渡せずにす、すみません……」
「私がずっと学校に来てなかったからな、持っててくれてありがとな!」
僕ににかっと笑ってそう言う彼女は、この学校に来ていなかった数日の間に一体どれだけの会社へ謝りに行ったのだろう、そして何を言われたんだろうか。
これまで築き上げてきたものが一気に崩れ落ちたはずなのになぜそうやって僕に笑いかけてくれるんだろう。
「しかし、まさか『腐女子のJK』が立石の妹だったなんてな! ほんとびっくりだな! そこでお願いがあるんだが……、妹に会わせてほしい。正直な自分でちゃんと話がしたい。それにこの間のこともちゃんと謝りたいんだ」
「へ……!?」
い、今、今言うべき!?
僕が本当の『腐女子のJK』だって……!!
そ、そうだ、スマホを渡す時に言うって決心してたじゃないか…!
「あのっ、ぼ、僕っ……」
すると次の瞬間、僕のスマホから着信音が流れ始めた。画面を見ると『由衣』と表示されている。これは出ないとまずい……。
「い、妹からなんで、ちょっとで、出てもいいですか……?」
「なに!? 『腐女子のJK』!? もちろんだ!」
「もしもし……、え、もう着いたの? うん、分かった、待ち合わせ時間までには行くから。……うん、また後で」
電話を切ると、隣でらんらんと目を輝かせた『最上まこ』が僕を見つめている。
「どこかで『神』と待ち合わせしてるのか!?」
「は、はい、新宿駅で……」
「じゃあ、今から行こう! 一緒に!!」
「へ!?」
「水戸、新宿駅だ! 『腐女子のJK』に会うぞ!」
「はい」
水戸さんまで……! どどど、どうしよう! これじゃあの変態男とまこさんが鉢合わせするんじゃないか!? それってまずくないか!?
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい……!」
「どうした? 行ったらまずいか?」
「いや、そのっ……」
だめだ、何て言えばいいんだ!?
何も思い付かない……! 視界も泳ぎまくって、どこ見ていいのかも分からない……!
彼女の顔、水戸さんの顔、彼女の太もも……って、こんな時にどこ見てんだよ、隆斗……!!
「そんなに時間は取らせないぞ、少しだけ神と話をさせてくれれば……」
「……ち、違うんです! あいつ……、あいつに、会うんです!! あの変態男に……!!」
……思わず叫ぶように言い放ってしまった。
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