最終章 2.私は波乱の中で、明日を見る。
「ご飯うまいな!! ははは!!」
「……」
家族4人で今夜も食卓テーブルを囲む。
だがまるでここはお通夜会場のようだ。楽しいはずの夕食の時間がここ数日こうなのだ。せめて私だけでも元気に行きたいところだ。お通夜の喪主が悲しみに気が狂ってガハハと笑ってるみたいなもんだけどな! ……ブラックジョーク過ぎたか。
「ご飯、おいしい!!」
いまいち状況を理解していないまだ小1の南がにかっと笑って元気いっぱいな笑顔をみんなに向ける。そんな妹が今の唯一の救いだな。
「……ねーちゃん、無理しなくていいから。やめろよ、そんな酷いブラックジョークとか笑えねぇし」
私を分かりきっている弟の
「無理なんかしてないし! まーどうにかなるっしょ!!」
「っ……、どうにかって……! この状況が一体どうなるんだよ! なんでそんなにヘラヘラしてんだよ……! 酷くなる一方じゃんか! 悔しくないのかよ!」
「真司、やめなさい!」
茶碗をドンっとテーブルに置き、興奮して大声を上げた真司に、さっきからずっと黙り込んでいた母親が強い一声を上げた。
「……ごめんな、真司。どうにかしたいんだが、証拠がなくて……。今何を言っても言い訳にしか聞こえないんだ……」
「そんなの分かってるよ! けどっ、だけどっ……くそっ!!」
真司が箸をテーブルに勢いよく投げ捨て、ガタンと急に立ち上がると、自分の部屋へ行ってしまった。どうしようもないこの現実にどこに怒りをぶつけていいのか分からないのだろう。それに恐らく中学校では酷い事を色々と言われているはずだ。私のせいでな……。
「お兄ちゃん、なんで怒ってるの~?」
きょとんとしてそう尋ねてくる南がこの凍り付いた空気を少し暖かくしてくれる。
「なんでもないから気にすんな。はやくご飯食べてねーちゃんとお絵描きでもしような!」
「うん!」
「まこ……、お母さん働くから。今までほんとに迷惑かけてばっかりで……我が子に働かせるなんてこんな親いないよ……」
「え、何言ってんの!? そんなことしたらまた体壊すって!」
「無理はしないから、大丈夫よ」
「いやいやいやいや、私どうにかするから! またアイドル業で復活するから!! こっそり偽名で執筆活動なんて、もうあんなことしないから……!」
テーブルに身を乗り出して慌てて言葉を返すが、母の決心は揺るがない表情のままだ。
私はもう家族にもこれ以上迷惑をかけたくはない。それにこのまま下手にまた筆を取ったとしても、あんなにたくさん私に素敵な時間をくれたのに、恩を仇で返すような大迷惑をかけてしまった『腐女子のJK』とはもう一緒にマッチングは組めないだろう。これは私が今までみんなを騙してきた当然の報いなんだ。もしかすると筆を置くいい機会だったのかもしれ……
「まこ、聞いて。まこはまこのやりたいように生きてほしいの。今まで偽りを生きてきた分までもね。自分を責めないで。だって私達家族のためだったでしょ? ほんとはまだ小説を書きたいんでしょ? それにいつもスマホ画面を嬉しそうに眺めてたじゃない、あの綺麗な絵。二人で協力して何かを作り上げるってすごく素敵じゃない。続けていくべきよ。好きなんでしょ、彼女のこと。同じ道を一緒に楽しく歩ける人なんてなかなか出会えないわよ、まこ」
母は優しくそう語りかけてくれた。
私は確かに偽りを演じながら今まで生きてきた。家族と共に生きるためだったんだ。だが小説家になりたい自分もいた。そして次第に秘密をいくつも重ね、今日ここにいる。
でも、そんな日々はもう終わりを告げようとしているのかもしれない。
――『腐女子のJK』が5文字のコメントをくれたあの日から。
『銀氏物語』を気に入ってくれ、あんなにも気があって、あんなにも喜びをくれて、ファンアートまで届けてくれて、ファンだと言ってくれ、私が気落ちした時も助けてくれて、『注目のマッチャー』に選ばれた時も、一緒になってあんなにも喜んでくれた。ハイパー鬼畜変態野郎からのメールにもな……
あんな『神』と出会えるなんてもう二度とないかもしれない。
ちゃんと会ってみたい。
そしてこんな秘密だらけの自分とはもう完全におさらばして、新たな出発をしたいんだ。
――アイドル業も、この夢も。
くそっ目の前がぼやけるぜ……
「そうだな、ほんと……」
目をさりげなく手で
ちゃんときっちりと謝って、話をするんだ。
明日アイツに話を付けよう。
――『腐女子のJK』の兄である立石に。
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