最終章 4.私は新宿駅で、アイツを追う。
「はーーーー!?!?」
私はその言葉の情報処理にフリーズ寸前だった脳内CPUを再起動の如くまた復活させ、顔をいつものようにタコの如く真っ赤にしている立石に向かって叫び返した。
「それはどういうことでしょうか」
水戸も会話に加わってくる程な緊急事態だ。
「あ、あの時、妹があの変態男と『RAIN』を交換してたから、きょ、今日、呼び出して……」
「まさかっ、『腐女子のJK』が私の為にやってるのか……!?」
「はい……、証拠を見つけたいんだ……、じゃなくて見つけたいんだと……。僕も手伝う予定で……」
「なんと……!! 急げっ、水戸! 新宿駅だ!」
「はい」
「……さ、
「もちろんだ! 立石達だけにそんなことさせられるわけないだろ!? それにこれは好機だ……」
思わずニヤリとおぞましい笑みが溢れてしまった。
そんなに慌てふためくな、立石よ……!!
ここでもし証拠が取れれば、今まで食らってきたこの『苦』を『楽』に出来るかもしれない……!!
そして、『腐女子のJK』にもたくさん迷惑をかけた分、少しは楽になってもらえるいうことだ……!!
タコから血を吸い取ったような顔へ変貌を遂げた立石を横に携え、私は向かう、いざ、新宿駅に……!!
――
「南口で待ち合わせなのか?」
「は、はい……、ここで18時に……、妹ももうすぐ来ると思います」
「ああ、わかった。作戦はこうだな。まず最初、私達は遠くから見守る。そして『腐女子のJK』と変態男が会った時点で飛び出す。……何かあったら恐ろしいからな。それから変態男を捕獲して話を付ける。立石が準備していたこのボイスレコーダーで確実に証拠を取るぞ……! そしてこれが落ち着いたら『腐女子のJK』とちゃんと話する……。その時は立石、よろしくな」
「は、はい!」
ピンっと背筋を伸ばしてそう返事をした立石は、相変わらずひょろひょろだ。だが意外と身長が高いということに気が付いた。私より15センチ以上はあるだろうか。そんな立石は相変わらずコミュ障具合を発揮しているが、なんだか顔がいつもよりこう、なんだ。……そう、凛々しい。
「17時50分か……。もうそろそろだな」
新宿駅は帰宅ラッシュでいつも以上にとんでもない人込みだ。辺りを見渡すがそれらしいあの憎き男も『腐女子のJK』もまだ現れていない。
「ぼ、僕ちょっとトイレ行ってきてもいいですか……? き、緊張しちゃって……」
立石が申し訳なさそうに言ってきた。
「ああ、急いでくれ!」
「は、はい……」
その声と同時に立石はピストルが打ち鳴らされたの如く、猛ダッシュを開始した。めちゃくちゃ急いでいるのか漏れそうなのか、どちらもなのか。しかしなぜか駅の中ではなく、外へ走って行った。外のトイレのほうが近いのか……?
「あいつめちゃくちゃ急いでるな、さすが『腐女子のJK』の兄だ……、なあ、水戸」
「はい」
水戸は小さくなっていく立石を見つめながらそう言い、
――
「おい水戸、もう18時過ぎてるぞ」
「はい」
ずっとこの新宿駅南口を行き交う人々を
それにさっきから水戸は相変わらず平然を貫き「はい」しか言わない。
「立石も、『腐女子のJK』も遅くないか?」
「はい」
「なんでさっきから『はい』しか言わないんだ? 水戸」
さっきからなぜか必要以上に喋らない目の前の水戸を不思議に思っているその時、水戸のスマホから着信音が鳴り響いた。
「はい、水戸です。……それは確かですか。……分かりました」
水戸が電話を切りながらなぜか今、ほんの少し深刻な表情を浮かべた。
「何かあったのか?」
私はなんだか嫌な予感がした。
「何でもありません」
「……なあ、さっきからなんか水戸おかしいぞ? 返事しかずっとしないし。いつもは屁理屈ばかり言ってるだろ」
「……はあ、こうなると思っていましたよ」
ずっと外を見ていた水戸は仕方ないと言った表情で大きなため息を深く突くと、私に向き直った。
「先程の電話は
「は……? 東口……? 捜査……!? まさか立石のヤツ……!! くそっ話は後だ、水戸っ!」
瞬時に繋がった。
刑事である健吾っちからの連絡。
なんでアイツがいつまでもトイレから戻らないのか。
『腐女子のJK』やあの変態男がなんでここに来ないのかも。
私はすぐ様そこから離れ駆け出した。
「そこへ行けばまたスキャンダルに繋がりますよ……!」
珍しく叫んだ段々と小さくなっていく水戸に向かって、私は大きな声で返答した。
「その時はその時だ! アイツはあんなにいつもキョドってオドオドしてるくせに、いっちょ前に私を
私は一気に東口へ向かい始める。
――さっきの立石以上の猛ダッシュでな。
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