2章 5.僕は音楽番組で、勇気をもらう。

 あのファンアートをプレゼントしてから数日、『ゲイのおっさん』とは結構仲良くなっていた。そしてメールやコメントのやり取りをする中で、気が付いた。


 あのおっさんは……何か、こう、ちょっと……

 

 はっきり言おう。


 ……頭がおかしい。


 いや、よく言えば天才肌、と言うべきか。


 かなりがさつそうだけれど、作り出す物語は正反対でとても繊細だし、喜びの表現もちょっと変わっている。たぶんあのおっさんの理解者はそんなに多くないだろう、と思う。


 ファンアートを送った後なんて『わいは嬉しすぎて公衆の面前で絶叫した』とかメールが来てたし。


 きっと周囲からは変人だと思われたのではないだろうか。うまく切り抜けられたならいいんだけど。


 ただ、あのおっさんはどんなに自作物語のアクセスが少なくても自暴自棄になったりしない。

 

が読んでくれているから」と。


 もし悲しむことがあるとすれば、それは僕の絵のアクセスが伸びないことだ。

 僕を神と称え、皆がこんなすんばらしー絵を見ないとはおかしいと声を大にして言ってくれている。それだけで僕はかなり救われる。『ゲイのおっさん』も僕に対して同じ気持ちなんだろうか。そんなファンが一人いるだけで、創作活動をしている僕達にとってはとてつもないエネルギーとなるのだ。

 

 そんな『ゲイのおっさん』から『クリンク』のサイトを通じて今日とある申請が届いた。


 『マッチング申請が来ています』と。


 添えられていたコメントにはこう書かれていた。


『神よ、わいと共に生きよう』


 ……なんだ、これは。


 僕はゲイのおっさんにプロポーズでもされているのだろうか? 


『神よ、わいと共に生きよう』

『神よ、わいと共に生きよう』

『神よ、わいと共に生きよう』

 ……

 ……


 なぜ10通も届いているのだろうか……。


 ゲイのおっさんなら女子高生は恋愛対象外だよな……。色んな考察をしたが、考えれば考えるほど分からなくなっていく。


 するとテレビから聞き慣れたオープニング曲が流れ始めた。

 待ちわびていた『ソングステーション』のオープニングだ。ついにこの日がやってきたのだ……!

 

 『最上まこ』の初『ソンステ』出演の日だ。


 生放送が売りのこの番組は放送時間が遅いため、未成年の『最上まこ』は事前収録済みということだったが、それでも僕は力強く応援したいと思っていた……が、あの保健室での出来事以来、どうしてもあの使ルシファーな『最上まこ』を思い出してしまう。


『こんばんは~! 最上まこです。今回はスタジオにお邪魔出来なくてごめんなさい! でも、ソンステに初めての出演ということで、とっても嬉しいです! エンジェラーの皆さまにもテレビの前の皆さまにも精一杯お届け出来るように頑張って歌います!』


 僕は今テレビ越しに、純白のフリルがふんだんにあしらわれたワンピースを着た大天使『ミカエルスマイル』の彼女をぽーっと体の温度を上げながら見つめている。

 色とりどりの花をスタジオいっぱいに敷き詰めた華やかなステージで可愛く、愛らしく踊る最上まこだ。


 その歌は悩める人々に力を与えるような、元気溢れる応援ソングだった。


 僕は先日あの声で名前を呼ばれ、触れられ、見つめられたのだ。


 ……堕天使のほうで。


 だけど、画面越しで『ミカエルスマイル』を何度も繰り出す彼女を熱くなったこの顔で見つめては、とあることを考える。


「なんで偽りを演じてるんだろ……」


 確かあの時、車の中で『金のために』と言っていた。

 お金がどうしても必要な理由があるというのか。

 だが、見た目は変わらないんだから本来のあの姿でアイドル活動をしても、問題は……いや、大いにある……。


 M要素を持つ一定のエンジェラー達にとっては至福かもしれないけど、あの本来の姿を知った時、ほとんどのエンジェラー達は散っていくのではないだろうか。

 だって、正反対過ぎる……。


 テレビ画面には、応援ソングを歌い終わり、癒しパワー炸裂な微笑みでこちらを見つめてくる最上まこがいる。


 何度見ても、最上まこと同一人物とは思えない隠しようだ。


 これは恐らく一種の才能だろう。そこまで思わせてくれる最高なパフォーマンスだった。

 例え偽りな彼女だとしても、その輝かしいオーラと才能は隠しようもなく、全国の『エンジェラー』達を虜にし、日々勇気と希望を与えているのは事実だ。


 ――僕もその一人なのは確かだ。

 

 僕はパソコンに向かった。

 

 そしてマウスを力強く握ると、『承諾』の文字をカチッとクリックした。


『マッチング成立しました』


 パソコンに大きく表示される文字。


 僕は『最上まこ』にもらった力強さに、『ゲイのおっさん』との新しい挑戦に勇気を持って踏み出した。


 僕はちょっと成長したような自分自身に嬉しささえも覚えていた。こんな風に思えるのも創作活動を通じて『ゲイのおっさん』に出会えたからなんだよな。


「ちょっと会ってみたいかも……」


 パソコン画面にそう一言呟いた。


 「変な人かもな」と添えて。

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