2章 4.私はパソコン前で、神に葛藤する。

水戸みと! あいつちょっとアレだけど、私は楽しいぞ!」

「立石様は辛そうですが」

「いやー、学校で素で話せる奴っていないからさー」

「私の話、聞いていますか」


 明日のCM撮影について電話を掛けてきた水戸に先日学校で起こった立石との珍事を話していた。


「じゃ、また明日な!」

「彼以外には決してばれないよう注意してください」

「わーってるって!」


 水戸との電話を切り、あの保健室での出来事を思い出す。

 気を張り詰めながら生活をしている窮屈きゅうくつな学校で、ああやって素で話せることはとても楽しい。それになぜかあいつの反応はこう、なぜか、面白い。ついからかいたくなるというか……。


「だーーーーー!! 今日もやっぱり誰も見てない……」


 そんなことを思い浮かべながら、私は自室のパソコン前で無反応な『クリンク』のの前でうなだれる。

 慌ただしい毎日に、どうにか寝る時間を削ったりしながら少しずつ新作を書き、アップしている、だ……! 

 

 なのに、なぜ、なぜだ!


「神の凄さをなぜ皆、分からない……!!」

 

 そう、今閲覧しているページは『腐女子のJK』のページだ。


 私が『神』として称えている者だ。彼女のすんばらしー新作の絵がアップされても、皆、無反応。アップ当日はアクセスがいくつかあるようだが、数日たてば0に元通りだ。こんなの間違っている。


「うーーん、うーーーーん……」


 そして私は先程からとある事を考えている。ずっとずっと考え込んでいる。


 パソコン画面に映る文字は『マッチング申請』ボタンだ。


 この『クリンク』というサイトのサービスの一つである、『マッチング機能』というのがある。お互いのクリエイション、特技をお互いのために生かすのだ。そこで組んだ相手とまた新たな力を生み出し、お互いの作品をより良く輝かせるわけだ。でもこのサービスにはある条件がある。それは『謝礼を払わない事』。


 卵同士なわけだし、利用者には未成年も多いし、まー金銭トラブル防止にもなるってことかな。お金が絡むとやっぱり色々ほら問題起こったりするからさ。運営は逐一チェックしてるから口座情報とかサイト内のメールで送信すれば、一気にアカバン通告が来るらしい。恐ろしき。それはかなり困る。だって、今まで培ってきたファンとの縁が途切れ……あ、私にいたっては皆無だからそこは心配しなくてよかった。

 

 そんな『マッチング機能』を今、『申請』しようか、ずっと考えている。


 そう、相手は『銀氏物語』へファンアートを届けてくれた『腐女子のJK』だ。

 その後、凄まじい勢いでお礼メールを送ったら彼女もとても喜んでくれ、あれから毎日のように作品を読んでくれているようだった。様々なコメントもくれ、応援します、と言ってくれている。

 

 ……やはり神だった。


 この『クリンク』では他人の創作物を勝手に自身のページに載せることを禁止している。相手に承諾を得てもだ。唯一その方法が可能だとすれば先程の『マッチング機能』を利用し、お互いに『マッチング成立』をさせないとアップロードさえも出来ない仕組みとなっている。


 あんな壮大な絵を描く能力と私の小説を合作として世に打ち出せば、今よりはきっと多くの人に『腐女子のJK』作品も見てもらえるはずだ。もちろんマッチングが成立すれば、お互いに利点が多いのも魅力だ。

 

 だが、金銭を発生させてはいけないので、OKをしてくれる率はかなりの低確率なはずだ。相手側に利点がないと承諾を得られるのは難しいだろう。そう思えば思うほど、私の小説にそんながあるのか……? と不安にるわけだ。だが、少しでも彼女の作品が世に出るチャンスがあるとすれば……私のしがない物語でも。


「ああ~~!! もうっ!!」


 パソコンの前で思わず頭を抱える。こんな私でも『断られる』のが怖いわけだ。いや、ちょっと待て。『断られる』かも、ってなんかおこがましくないか? 断られて当たり前じゃないか? 神だぞ、神。そうだ、当たり前だと思え!! 


「当たって砕けてやる……!」


 私は覚悟を決め、勢いよく『マッチング申請』ボタンを押した。


 ……クリック連打付きで。


 しまった、つい勢い付けすぎてしまった。

 これはもしやめちゃくちゃ何度も申請がいってんじゃないか?

 やばい、訂正……出来るわけがない。


「は~、やっちまった……」


 添えたコメントも一緒に、目に見えない電波に乗せて飛んで行ってしまった。


 ……たぶん10通ぐらい。


 すると背後から声が聞こえた。


「姉ちゃん、母さんがご飯出来たってよ」


 部屋をめんどくさそうに覗く弟、真司しんじが私を呼びにやって来たようだ。先日、母親がついに退院し、家事全般をやってくれるようになり、私は少し肩の荷が下りたことろだ。


「ああ、分かった……」

「また小説書いてんの? 相変わらずBL書いてるわけ?」


 真司がのそのそと歩いてきて私のパソコンに顔を近付け覗き込む。こいつにはお見通しなわけだ。まーこのBL本だらけの部屋に入れば誰だって分かるというものだ。


「……これは姉ちゃんの生き甲斐みたいなもんさ」

「仕事も学校もあるんだし、ほどほどにな。姉ちゃん、俺達のために頑張ってくれてんだし。……感謝してる」

「真司……! 綺麗な顔してクールで優しいってどこの2次元キャラしてんだよ……!!」


 ぶっきらぼうにお礼を述べてきた弟を思わず抱きしめ……ようとしたら、さっと素早く避けられた。


「その手にはもう掛からないからな」

「くっ……、中二病め……」

「どっちがだよ」


 顔を少し赤らめた弟が捨て台詞のような言葉を吐き出しながら部屋をそそくさと出ていく。その真司の後をにっこにこで私も付いて行く。


「あーー腹減ったな!!」

「ったく、ほんとに『守ってあげたい少女ナンバー1』かよ……」

「あ、お姉ちゃん! 早く一緒にご飯食べよ!」


 弟の呆れたようで仕方ないなと少し笑う顔の横で、おおはしゃぎで私に駆け寄りながら喜ぶ妹、みなみをガバッと抱き抱える。


「今日は久々に料理張り切っちゃった!」


 退院後のにこやかな母親が、久々に手料理を作ってくれていた。誰かが作ってくれる手料理ってやっぱサイコーだよな。自分で作るのも美味しいけども、人様が作ってくれる料理は数倍美味しく感じるものだ。


 母親の体はまだ本調子ではなさそうだし、働きに行くのもまだ無理そうだ。

 でも、大丈夫。私が今後も働けば何も問題ない。

 学生生活もあと1年。私はアイドル業も執筆活動も家族と自分自身のためにもやってやるんだ……!

 

 そう改めて決心する。

 

 こう思えるのも執筆活動を通して出会った『腐女子のJK』のおかげだ。この世に例え一人でも応援してくれる人がいるってことは本当に心強いし嬉しいことだ。とても感謝している。


「いつか会えたらいいな……」


 ご馳走の並んだ机にそう一言呟いた。

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