1章 2.僕はコミュ障で、腐女子のJK。
今日も偽りの自分になり、描き続ける。
そう、これは秘密だ。
僕は立石
そんな青春真っただ中な年齢のはずだけど、見た目は恐らくかなりイケてない。真っ黒な前髪は目にかかるほどで寝癖はすぐにつくしボサついてるし、身長はちょっと高いけど、筋肉もないしかなりひょろい。スポーツももちろんしていないし、やったこともない。キラキラリア充と言う言葉とは程遠い、大好きなアニメや漫画に囲まれながら生活をしている。
自分だってもっと目立ってカッコよく生き生きとした人間になりたいとは思っている。だけど、僕は極度の恥ずかしがりやなのだ。そういわゆるコミュ障というやつだ。
人とはうまく喋れないし、会話のキャッチボールなんて出来っこない。誰かに話しかけるなんて、自分にとってはいつ落ちても分からないようなボロボロのつり橋を渡るようなものだ。
だけど、こんな僕にも特技がある。
それは『絵』だ。
小さいころから絵を描くことが大好きだった僕は自分の世界へ没頭した。そしてその絵で人とのコミュニケーションを図る。自分の絵をきっかけに人と語り合うことも出来そうだし、何より大好きなことだから、自分の絵を知ってもらえることもとても嬉しい。将来はこの『絵』を仕事に出来たらいいな、なんて淡い夢さえ抱いている。
だから僕はこの絵をもっとより多くの人たちへ見てもらえるようにこのサイトへ登録した。
そう、『クリンク』というサイトだ。
しかも女子高生のふりをして。
それも腐女子。
このサイトには色んなクリエイターの卵達が集まり、よい刺激にもなる。世の中にはこんなにもすごい人達がたくさんいて、それぞれの表現を楽しんでいる。そんな人達の作品と触れ合えることが僕にとってもとても楽しい。そんなサイトで腐女子の女子高校生として偽りの自分で活動をしているわけだ。
なぜ腐女子かと言うと、僕が腐男子だから……というわけではない。
世の中色んなジャンルの作品があるけど、僕は僕の知らない価値観や物事に触れてもっと絵を成長させていきたいと思っていて、自分とは無縁そうな創作物と向き合っていきたいなって思っていることもあって。
それに現実の僕とより正反対にすることで、このコミュ障の自分とはもっとおさらば出来る、と思ったからだ。
そんな僕は今夜もそのサイトで色んな創作物に触れている。
「これ、好きかも……」
思わずパソコンの前で独り言をつぶやく自分がいた。
たまたまオススメで出てきたその創作物はなんだか不思議な時代物BL小説だった。あらすじを見る限り、どうやら『源氏物語』から影響を受けているらしい。日本史好きの僕にとってとても興味をそそられた。
序盤を読む限りでは、愛や人間関係に悩む頭の切れる美形男子主人公が時空の裂け目から平安時代に飛ばされ、その容姿と頭脳、そして巧みな言葉を使いながら貴族達を翻弄しながら本当の愛、……男性への愛に目覚めていく、といった感じだ。
「えっ!? 毎日ほぼ0PVなんだ……」
このサイトは誰にでもPVが見られるような仕組みになっている。その意外過ぎる数字に驚きながらも、作者本人のプロフィールを確認した。
「ゲイのおっさん……!?」
てっきりBL好きの腐女子が書いているのかと思ったが、その斜め上を行く答えに思わず目を見開いた。
ゲイのおっさんが執筆しているBL時代モノ小説。
……なんとなく人気がない理由が分かった気がする。
だが、僕は作者で作品のよし悪しは決めたくない。
作者がどんなに性格が悪かろうが、ゲイでもレズでもバイでも、犯罪者でも良い作品は作られる。作品は作品なはずだ。
見た目がイケてない僕も、その部類に入れたらいいな……とこっそり願ってしまっていることに気が付いた時、僕はこのゲイのおっさんという人に妙な親近感を覚えてしまっていた。
僕の両手がいつの間にかそっとキーボードの上に触れていた。だが小刻みに震えているこの指に気が付いた時、僕は迷った。
自分から誰かにコメントを書いたことは今まで一度もない。
だが、今日は僕の誕生日だ。18歳と言えばもうこの小説の平安時代では40歳ぐらいの感覚だろう。僕は過酷な平安時代を生き抜いているつもりで天を仰ぎ呼吸を整える。
「ひーーひーーふーーーー」
何か呼吸法を間違えている気もするけど、もうこの際そんなことはどうでもいい。いや、ただの変人かもしれないが、僕はいたって真面目だ。なんていったって僕にとっては一大事なんだ。
背筋を整えノートパソコンのキーボードに震える指をそっと置く。
僕は勇気を振り絞りキーボードを打つと汗ばんだ手でマウスを握りしめ、心臓を高鳴らせながら送信ボタンをポチっと押した。
「あーーバクバクする」
これではまるでゲイのおっさんに恋でもしてるみたいじゃないか。だが僕は同性愛者ではない。女の子が好きだ。実は好きな子がいる……。
いやそんな恐れ多い、憧れと言わせてもらいたい。
僕には全く手の届かない遠い存在。
あんなに身近にいるのに……。
僕は机から立ち上がり、顔からベッドに勢いよく飛び込んだ。
「あーーーー、せっかく一緒のクラスになったのにな……」
ベッドの傍に置いてある『祭壇』をうつ伏せになった顔から横目でちらっと眺める。
その場所から今人気絶頂中のアイドルが僕にあの大天使の微笑みでいつも癒しを与えてくれている。写真越しだけど。
そうこれが、僕のもう一つの秘密。
クラスメイトでもあるお茶の間アイドル『最上まこ』の『エンジェラー』だということ。
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