第12話 解決編


「安藤、どういうことだ。説明を要求する!」


 稲葉さんが安藤君に詰め寄る。


「妹と俺は寝る前に次の日の準備をする。」


「それで?」


 神代君が合いの手を入れる。合いの手を入れないと安藤君の説明が止まってしまいそうだ。


「月曜日の準備は土曜日の夜にする。」


「金曜日じゃないのね?」


 今度は陽子。


「土曜のうちに宿題を済ます。」


「なるほど。」


 私。


「チャンスは日曜日だけだ。」


「なるほど。4月30日は29日に宿題をやって、夜に準備したからチャンスがなくて、5月6日は連休前半に宿題を終わらせ、その日に準備を終わらせたからチャンスがあったという訳だな。すべて説明がつく。すばらしい。」


「左のポケットにはいつでも入れられるが、気づかない可能性が高いことを妹は知っている。」


「ああ、あの事件な。」


「くくっ。」


 神代君の発言に、稲葉さんがひきつった笑いをもらした。


「何があったの?」


 好奇心旺盛な陽子が質問する。


 神代君が説明してくれた。


 中2の時、バレンタインの日、椅子に掛けてあった安藤君の学生服の左のポケットにチョコを入れた子がいたらしい。

 体育の授業が終わり、学生服に着替えた安藤君は右のポケットからティッシュを出したりするものの、左のポケットのチョコには気づかずに家へ帰ったそうだ。チョコの箱はポケットからはみ出るほどだったにもかかわらず。

 そのまま家に帰り、脱いだ学生服はベッドの上に。当時は幼稚園児だった妹さんがチョコに気が付き食べていいか聞いたそうだ。

 安藤君はクラスメイトからもらった義理チョコをベッドに置いたので、そちらのことだと思い許可する。

 かくして、安藤君がチョコを貰ったことに気が付かないままチョコは消滅した。


 翌日、どんなチョコだったかを尋ねた神代君に対して安藤君はけげんな顔をする。

 そして、妹にチョコを食べられていたことを知り、チョコをくれた女の子に謝罪をしたそうだ。あまりのことにショックを受けたその子は告白することすらできなかったそうだ。


 安藤君の学校ではバレンタインの悲しい伝説として語り継がれているらしい。


 ポケットから飛び出していたチョコの目撃者は案外多かった。

 

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