第13話 誰が誰を好きなのか


 6月も後1週間ほどで終わる。


 明後日から文化祭である。何故か、この学校の文化祭は6月にある。

 準備も順調に進み今日はもう後片付けだけである。

 数人の指導者のもと、ローテーションを組んで作業をしてきた。

 私たちは今日の係ではなかったが、暇だったので少し手伝ったのだ。後片付けはかえって邪魔になるので、今は無駄話をしていた。

 安藤君とは以前よりも会話するようになった。妹のことを話すのだ。


 今は、私、稲葉さん、安藤君、神代君の4人である。


 自分のクラスの仕事が終わったらしく、陽子が教室へ入ってきた。


「みんな浮かれて、カップル急増中だよ。私も彼氏欲しい! 神代君、私の彼氏になって。」


「おれ、彼女いるからダメ。」


「なんだとぉ! じゃあ安藤君!」


 陽子のテンションが高い。安藤君に対してファイティングポーズを取っている。陽子、それは付き合ってほしい人にするポーズではない。


「安藤! 対抗しろ!」


 神代君が安藤君をたきつける。安藤君が片足を上げ両手を上にあげ、手首のところで折り曲げた鶴の構え? をした。


 いつの間にか稲葉さんが私の背後にまわっていた。耳元でささやく。


「私は、奴のあんなところが好きだ。うさみんは私と奴を奪い合う勇気があるか?」


 私は黙り込む。稲葉さんが怖い。


「奴は、中学の時も案外もてた。私はこうやってライバルを蹴落としてきた。」


 稲葉さんにも浮かれている人たちのせいで、おかしなスイッチが入ってしまった?


「私は安藤君のことが好きなの?」


 安藤君に恋愛感情を感じていなかった私は稲葉さんに尋ねた。


「なに! そこからか? いちから安藤の魅力を説明しないとだめなのか?」


 何を言い出すの?


「稲葉さん、わざわざライバルを作ってどうするの?」


「私としたことが・・・」


 稲葉さん、中学の時も勝手にライバルを作り上げていたのでなければいいけど。


「友達としては好きだよ。これからのことは分からないけど応援するよ。頑張って。」


「ありがとう。だが、私は毎日頑張っているではないか。」


 稲葉さんが胸を張る。


「どこが頑張りなのかよく分からないけど? 告白はしないの?」


「告白・・・そんな・・・恥ずかしくてできないのだ。」


 もじもじする稲葉さん。

 ライバルには強気なのに、告白はできないのか?

 真っ赤になって照れている。

 「だって、だって」と人差し指で机をぐりぐりしながら呟いている。


「稲葉・・・全部聞こえてるんだけど?」


 神代君が困った様子で言う。隣には安藤君。


 稲葉さんはぎこちなく安藤を見る。


 頷く安藤君。聞こえていたよという意味だろう。


「知らなかった・・・」


 安藤君が呟く。


「ぎゃーーーーーっ!」


 逃げる稲葉さん。脱兎のごとく教室から出て言った。


 教室に残っていた数人のクラスメイトが唖然として彼女の去ったドアを見ていた。


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