第8話 5月31日(月)part1


 五月最後の月曜日の放課後、この日は久しぶりに陽子が来ていた。彼女には安藤君のポケットのことを話していたので、興味津々で安藤君を観察していた。

 珍しく稲葉さんが起きていて、安藤君を観察する陽子を観察している。


 神代君がやってきた。


「ナツオ、ティッシュ、プリーズ。」


 安藤君がポケットの中からティッシュを取り出した。

 ついに、ティッシュを取り出したのである。ただし、魔法少女の絵が描いてある。


 安藤君はティッシュを見て首をかしげたが、黙ってそのままティッシュを渡した。

 神代君も無言でティッシュを受け取り、鼻をかんだ。かみ終えたティッシュをゴミ箱に投げ入れようとした神代君は、途中で投げるのをやめ、ゴミ箱まで歩いて近づきそっと捨てた。そして、振り返って言った。


「俺の鼻水はたとえ魔法少女でも止められまい!」


「止められるよ。魔法で凍らせるとか?」


 なぜか陽子が突っ込みを入れた。


「時間が経てば溶けるよ。また、流れ出すよ!」


 神代君が反論する。そして、二人でおかしな応酬が始まった。


「じゃあ、火の魔法で蒸発させる?」


「火傷するよ。やめてくれよ。」


「ええと、風魔法はちょっと・・・、土魔法で鼻の穴を塞ぐ?」


「鼻から息ができないよ。だったらティッシュで塞ぐよ!」


 業を煮やしたのか、前の席で机に突っ伏していた稲葉さんがむくりと起き上がり、こちらを振り向くと、言い放った。


「ウィンドカッターで鼻をこそぎ落としてやる。」


「やめて、ひどいよ! あと、それだとむしろ出が良くなるよ!」


「うぬぬ、ならばいっその事、ファイヤーストームでお前もろとも鼻を消し炭にしてくれる。」


「鼻水を止めないで、鼻を消しにかかるのやめて! あと、鼻を消すついでに俺を殺すのやめて。」


「帰ろうか?」


 ずっと黙っていた安藤君がボソリと言った。

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