第2話 4月12日(月)
今日から本格的に授業が始まった。
何事もなく一日を終え放課後である、部活見学は明日から始まるので後は帰宅するだけだ。
教室の前の入口から友人の津田陽子が入ってきた。私の席に歩いて来る。ちょうど同じタイミングで神代君が安藤君の席へとやって来る。私達の席は一番後ろだ。
「ミカ帰ろう。」
「ナツオ、ティッシュくれ。」
ほぼ同時に二人が言った。
カバンを取ろうと横を向くと、安藤君がポケットに手を突っ込んだまま固まっている。動き出した安藤君はポケットから手を出す。
取り出されたのはティッシュではなく、松ぼっくりだった。
「俺に、松ぼっくりで鼻をかめと?」
安藤君は
「ありがとう。」
神代君は陽子にお礼を言うと、鼻をかみ、安藤君の後ろに置いてあるゴミ箱に投げ入れた。
「ポケットにそんなものが入っていて気が付かなかったのか? 進歩がないな。」
気づかなかったことよりも、なぜ松ぼっくりが入っていたのか気になるのだが。
安藤君は質問には答えず、
「顔がある。」
と、神代君に松ぼっくりを見せた。
「かわいいな。」
神代君は安藤君から松ぼっくりを受け取ると、ほら、と私たちにも見せてくれた。
松ぼっくりの傘の部分にマジックで顔が描いてある。目は黒い点、口は赤く、にっこり笑っている。確かにかわいらしい。
陽子が神代君から松ぼっくりを受け取った。
「よし、リボンを描こう。」
陽子がおかしなことを言い出した。前の席で机に突っ伏していた稲葉さんが、そのままの姿勢で机に手を入れて何かを取り出し、私の机の上に何かを置いた。
十二色入りのクレヨンだった。なぜ机の中にクレヨンが入っているの?
「ありがとう。」
陽子は青いクレヨンを選ぶと、リボンを描いた。
ニコニコマークにリボンが描かれた。そこはおでこじゃないかと思ったのだが、出来上がってみると違和感はなかった。
陽子は安藤君に松ぼっくりを返した。
「ありがとう。」
安藤君は松ぼっくりをポケットにしまった。
稲葉さんは突っ伏したまま、器用にクレヨンを受け取ると机の中に入れた。
「帰ろうぜ。」
神代君が言った。なぜか稲葉さんを除く4人で一緒に帰った。
稲葉さんは机に突っ伏したまま、少し寝てから帰ると言った。
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