第13話日常からの逸脱
またからかわれている。そう思ったのだが、額を付き合わすように見ている彼は笑ってなんていなかった。
「……………ノア、こういうのはやめて」
「あんたは人が良すぎる。だから」
「私が!ノアを襲いたくなるからやめて」
「そっちか」
よく考えましょう。色気を振り撒いて煽っていたのはノアの方だから。
顔が離れていきホッとしたのも束の間。両肩を大きな手で掴まれた。そして右の首筋にピリッとした痛み。
「んっ、ノ…………ア?!」
彼の唇が私の首を食んでいる。
「男除けだ。それに悔しいからな」
スルリと身を起こし、彼は何事も無かったように部屋を出て行った。
「え…………」
吸われた。多分痕を付けられた。
もしもし、男除けって、あなたも男だってさっき言ったじゃないですか?というか、これ見せながら働くのムリだからね。悔しいって何ですかね?!
唇が触れたところがジンジンと熱い。指を触れて確かめて、長い間固まっていた。
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寝不足なのは誰のせいでしょう。
「あああ、効くわああ」
子育て中のお母さんの肩と腰の痛みに神聖力を掛ける。いつもご苦労様です。
「うはあ、ううう」
今日はジャックも来店。
「あ、お客様、腹痛は治せません」
お腹を押さえた子供連れには病院をお勧めしておく。私は病気は治せない。骨や筋肉、皮膚や血管の修復………つまり怪我全般の治療はできるのだが、内臓疾患や風邪などのウイルス系はできなかったりする。
考えたら微妙な力だ。でもこの力のおかげで生活できているのだから感謝せねば。
休憩時に、ぴっちりとした立て襟を弛めて鏡で首をチェックすると、キスマークは依然くっきりと残っていた。
「……………うわあ」
こんなん付けられたの生まれて初めてです。
ぺちぺちと首を叩いて正気を保つ。
誤解してはダメだ。彼は私のためにわざと付けたんだ。深い意味はないから、ないない。
「居るか、マナ」
自分だけだと油断していたから、掛けられた声にビクッとなって、振り向いてげんなりした。
「い、いらっしゃいませ」
あの貴族の敏感体質男が、入り口に立っていた。
「あの、まだ開いてないのですが」
午後の治療時間開始には30分以上ある。
「好都合だ、今から頼む」
「え」
話聞いてます?
スタスタと奥に入って行くのを呆気に取られて見ていたら、早く来いと促される。
今日は従者は外に待たせているのか一人だった。
気分を害されては困るので仕方無く治療室に入ると、寝台に座った男がいそいそと上半身裸になった。
「どうしたんです」
「うっかり怪我をしてしまってな、早く治療してくれ」
胸の辺りに巻かれた包帯に驚いていると、男が包帯をさっさと取り去った。
「……………うっかりですか」
「うっかりだ」
刃物で左右縦一文字に浅く付けられた傷は、どうやってつくのだろう。漫画か?
「あの、ご自分で傷を作ったとかではないですよね?」
「そんなことはいい。早く、早くしてくれ」
真正の変態だったか!
期待に満ち満ちた顔は、それでも造作がいいもんだから絵になる。
「早く、マナ」
「う……………分かりました」
胸の傷に手を当てると、興奮からか息が既に乱れていた。
「もう怪我しないで下さいね」
「は、はや、はやく」
「分かりましたか?」
「マナ、はやっ、くう」
「返事は?」
モゾモゾと足を擦り合わせながら男は、こくこくとキツツキみたいに首を素早く縦に振った。
「わざとこしらえた傷は分かりますからね」
「もう、もうっ」
「いいですね?」
「お、まえっ」
たっぷりと焦らすと、震えながら涙を湛えている。
「わか…………った、許せ、だから、お願いだから」
これで快楽を前にしては、私の立場が上だと認識しただろう。
「マ…………ナ、はやく、し……ああああ!ひっ、ああっ、うくうう!こ、これ、あ、はああっ、これ、まって、ああ」
「ふふ、イイようですね」
「い、イイ!いいーっ」
ここは癒しのお店。SM倶楽部ではありません。
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