第7話【再来】
飯も無事食べ終わり、エネミー様の機嫌もなんとか元通りになったので、俺たちはそのまま街を散策することにした。ライアヴィスではほぼエネミーは眠っていたし、実際に街を歩くという行為自体が初めてだ。物珍しそうにとことこと歩くエネミーを見失わないようキチンと手を繋ぎ、ブラッドには申し訳ないが買い出し係をお願いした。ここはライアヴィスと違って人通りが多く、違法な闘技場なんかもあったりするので、勇者が居ようが誰も気にしない。珍しそうな視線を時々感じるくらいだ。
「エネミー、欲しいものがあったらちゃんと言うんだぞ?」
「あそこの串焼きマシュマロ食べたい」
「食べ物ばっかだなお前……」
貪欲すぎる食欲魔人に呆れつつ、出店に誘導する。そこそこ盛況なようで、五分くらいは掛かりそうな列が出来ていた。
「ん~、少し待てるか? 順番が来るまで大人しくしろよ」
「ん、わかった」
こうして会話をしていると、年相応の女の子に見える。もしかしたら、ずっと大人っぽく振舞っていただけで、案外こっちの方が素に近いかもしれない。なんていうか、故郷に帰ってきたような、そんな安心感がある……俺も、この旅が終わったら全部辞めてお嫁さんでも探そうかな、なんて気になってしまう。
「見つけたわよシザリスくん!! 絶対に逃がさないんだから!」
この声も、聞かなかった事にしたかった。
「ごめんなさい、ちょっと待って頂けるかしら。もう少しで串焼きマシュマロなの」
「えっあっ……ごめんなさい。お詫びに飴ちゃん、あげる」
少年を伴って堂々と俺を追い詰めてきたアリスさんに対し、エネミーは珍しく真剣な面持ちで俺を庇ってくれた。アリスさんと少年はエネミーに飴やらお菓子やらを差し出し、列の邪魔にならない程度の場所を確保して俺たちを見守っているので、逃げるのは不可能とみた。
「お待たせ致しました~! ご注文をお伺いします!」
少年ながら店員を務めているらしい少年は、蒸し暑い調理スペースにも負けずに元気よく応対してくれた。とりあえず串焼きマシュマロを三つと、魚卵ドリンクを適当に四杯注文しておく。一人で持つのは心もとないな……と考えつつも商品を受け取り、今にも食いつきそうなエネミーの両手にドリンクを持たせて「待て」させる。
「あっちにテーブルがあるから、そっち移動していいか? うちのエネミー様が待ちきれないみたいだからさ」
「ええ、勿論。あの時の返事も含めてゆっくり、じっくりお話ししましょう?」
やたら大人しい少年の事も気掛かりだったが、まずはエネミーのご機嫌取りが最優先だ。どこか笑顔が黒いアリスさんに気付かないフリをして、テーブルに移動しドリンクを分配。そして少年が遠慮したため焼きマシュマロは全てエネミーの井の中に吸収されていく運命だ。
「……あの時も言ったが、返事はノーだ。それ以外に無い」
静かな空白。エネミーは何を考えているか分からない表情でドリンクを飲んでいるし、少年はずっと俯いている。アリスさんは不思議と笑顔のまま。まるで、この返事を待っていたかのように……ん、待てよあの時って、いつの『あの時』だ?
「ちょっと待ってくれ。今のは無しだ無し! あの時っていつだ?!」
「そっか~シザリスくんってば、うふふ。私に婿入りするのは『ノー』だけど嫁入りはさせてくれるのね! うふふ! しかも『それ以外に無い』、だなんて……困っちゃうわ」
「えっ」
少年が弱点を突かれた犬のような声を上げる。どうして、と問うような顔でアリスを見つめた後、射殺すような視線で俺を見てくる。勘弁してくれ俺も被害者なんだよ今は! と叫びたい気分だ。エネミーはとってもご満悦です! という表情でにこにこと笑顔を振りまいている。なんだか、出口の無い迷路に放り込まれている気分で、目眩がしてしまう。
「……いや、違う。多分この旅が終わったら、俺が死ぬ……と思うんだ。だから誰の気持ちにも応えられないっていうか……」
「どういう事?」
ーー背後から、突然肩を掴まれた。
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