第6話【捕食者と食物】
「絶ッ対無理」
部屋にブラッドを招待してみたら、エネミーが俺の背後に隠れたまま出てこなくなった。そういえばブラッドって、『魔』の血が主食の悪吸族っていってたな。そういえば
「美しいお嬢さん、僕は全く怖くないですよ~血を少し頂けたら、嬉しいですけど……」
エネミーに怖がられている、というのに興奮している様子のブラッドは、俺の後ろで必死に隠れているエネミーを刺激しない範囲で、にっこりと笑顔を浮かべながら手招きをしている。いやいや普通に怖いだろ、とぶん殴っておいた。
「よくやったシザリス」
「いったーー!! 冗談ですよ、冗談。ちょっとした悪ふざけですってばぁ~」
「本気で怖がってる少女にやっていい冗談じゃねーだろ」
相変わらず本気かウソか分からない笑顔のまま、はいはいすみませんでしたーと続けるブラッドを見てエネミーも恐怖心が薄れたらしい。気づけば俺の背中から横に移動して、謎のどや顔をしていた。
「どうかしら。私にはシザリスっていう最強のど……召使がいるのよ。手も足も出ないでしょう? ふふん」
「お前今奴隷って言ったか?」
「確かに、シザリスさんに比べたら僕は弱いので安全と言えますね! これからよろしくお願いします、エネミーさん」
「ヒッ!」
強気な姿勢から一転、ブラッドのねっとりとした言い方に恐怖を感じたエネミーは再び俺の背中に隠れてしまう。
「まあ、腹も減る頃だしなんか食い行くか」
「お、良いですね~! 勿論、シザリスさんの奢りですよね?」
「エネミーの分払ってくれるならお前の分くらいは奢ってやるし血もやろう」
「破格すぎて怖くなりました。ちゃんと払います」
俺の背中から離れる気の無いエネミーをそのままおんぶし、宿屋から出る。
「……いつもその格好で出歩いてるんですか」
「エネミーは基本おんぶで運んでる。楽だし」
ブラッドに生暖かい視線を向けられた。
「俺の事、お母さんみたいとか思ったりしたか?」
「いえいえそんな。面倒見が良いな、と。ぷぷぷ」
くっそ否定できないのが尚腹立つなコイツ。いつかボコボコにしてやる。
――――――
「量食べるならここがお勧めです。まあ、女子向けっぽい内装が難点ですが」
「可愛いわね。料理も美味しそう……」
「じゃ、ここにすっか。すみませーん! 大人二人と子供一人です!」
「いらっしゃいませー! 此方の席へどうぞ」
店内に可愛らしい女の子の声が響く。やっぱ女の子の声は癒しだ。店員さんの服装も申し分ないレベルの可愛さだし最高。
「エネミーさん、何頼みますか?」
ちゃっかりエネミーの隣をゲットし、見るからに浮かれているブラッドは、嬉々としてエネミーにメニュー表を見せ、愛でている。俺は向かいの席で孤独にメニュー表と向き合っていた。
「えっと、リボうさの野菜巻き定食とトノサマガエリのリゾット。後は……」
「そんなに食べるんですか? 可愛いですね」
デレデレと破顔するのも気にせず、ブラッドはエネミーの頭を撫でながら良い子良い子していた。エネミーはウザそうにしているが、面倒臭さが勝ったのかされるがままになっている。
「えーと、じゃあ俺はカリキュラワーのステーキにしようかな」
「僕は特選魔牛の血しぶきジュースにしておきます」
「じゃあ俺がまとめて注文してやろう。すいませーん!」
早速店員さんを呼ぶと、店内が忙しいにも関わらず嫌な顔一つせず即座に注文を取ってくれた。
「ねえ、シザリスってああいうのが好みなの?」
「え、いや……うーん、可愛いなと思うよ。え、なに? 好みって言ったらああいうの着ちゃうタイプ?」
「……」
少しからかったつもりの発言だったが、かなりの失言だったようだ。エネミーは蔑むようにこちらを一瞥すると、ブラッドも連れずに飲み物を取りに行ってしまった。ブラッドは馬鹿にしたような顔でニヤニヤしているばかりで、何も言わない。新手の拷問を受けている気分になってしまった。
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